金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(西部戦線は異状ばかり)2

2023-09-10 11:31:09 | Weblog
 別の妖精がアリスを止めた。
『アリス、いい加減にして、道草し過ぎよ』
 これにはアリスも心当たりがあった。
『ごめんごめん、悪かったわ。
でもね、下の気配がね、何か潜んでいるみたいなの』
『それが何か、・・・。
敢えて探す必要があるの。
それを起こして、住民達に迷惑は掛からないの』
『ないか、・・・』
『そうよ、ないのよ』

 飛行隊は湾の奥の城塞都市に向かった。
鹿児島。
薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島を治める島津伯爵家の本拠地だ。
高々度から市内の様子を窺った。
桜島の噴火には慣れている様で、混乱は見られない。
港から漕ぎ出す船もあり、至って正常。
駐屯地にしてもそう。
馬場で騎馬隊が調練に勤しんでいるが、乱れはない。
アリスは皆に同意を求めた。
『戦塵の気配がないわ。
たぶん、戦場は東ね』
『夕暮れ前には見つけたいわね』

 飛行隊は東へ飛んだ。
すると、島津家は日向地方で王国軍と対峙していた。
正確には、大隅へ侵攻して来た王国軍を日向まで押し返し、
都城盆地にて争っていた。
 盆地の城塞都市・都城を島津軍が占領したのに対し、
それを王国軍が奪還せんと、盆地の北東部に陣地を構築していた。
その兵力は十万余。
大淀川の対岸の丘に本陣を構え、都城を睨んでいた。
押し返された割には意気は軒昂、とても敗軍には見えない。
 島津軍は一部を都城に残し、王国軍を壊滅せしめんと、
大淀川へと前線を押し上げていた。
兵力は五万余。
王国軍の半分ではあるが、それは致し方ないこと。
王国軍が肥後地方から薩摩地方へ侵攻すべく、機を窺っていたので、
これ以上、兵力を割けなかったのだ。

 上空より手分けして偵察していた飛行隊が、
刻限と共に集合地点に集まった。
彼女達は戦に介入する為に来た訳ではない。
目的は魔物・キャメンソルにあった。
砂漠に棲むという駱駝の種から枝分かれした魔物を討伐せんと、
遥々、関東より飛行して来た。
相手はキャメンソルに騎乗した傭兵団なので、
直ぐに見つけられると高を括っていた。
ところが島津軍の野営地には影も形もなかった。
『どこに隠れているのか知らね』
 アリスの問にハッピーが応じた。
『千近い数の傭兵団なんだよね。
それなら飼葉や給水の観点から探して見ようか』

 夕暮れが迫っていた。
そんな中、飛行隊は分散して懸命に捜索を行った。
見つけられない。
現在の野営地から明日の展開を推測し、傭兵団の在り処を探し回った。
それでも見つけられない。
更に範囲を広げても空振り。
妖精の多くが疑問に思った。
『明日の戦闘に参加させないつもりなのか知らね』
 妖精の一人が口にした。
『もしかして、潜伏スキル持ちなの』
 キャメンソル自体が潜伏スキル持ちなのか、
傭兵団がそれらの魔道具を所持しているのか、詳しくは知らない。
知っているのはキャメンソル自体が臭い唾を吐くということ。
アリスは隊長として断を下した。
『今日はここまで。
夜襲に備えて国軍の後方に宿営するわよ』
 夜襲される国軍に味方する訳ではない。
夜襲するなら傭兵団の仕事と判断しただけ。

 国軍を見下ろせる山の峰で一夜を明かした。
その明かした早朝、広がる朝靄を縫って国軍が出撃した。
北へ迂回して浅瀬を渡河、島津軍の北側面への朝駆け。
一気に前線を抜いた。
 島津軍はもたつくも、適切に対応した。
遅滞戦術に切り替え、前線の再構築に着手した。

 数に勝る国軍が打った手は一つではなかった。
敵の耳目が北に向けられた瞬間を狙い澄ました一撃。
南からも大軍による攻勢に出た。
 島津軍はそちらへの対応は早かった。
北からの朝駆けを受け、そう読んでいたのだろう。
素早く前線を放棄し、第二列まで下がった。
そしてそこで隊列を厚くしての徹底抗戦。

 丘の上の国軍本陣も動いた。
何しろ敵勢は国軍の半分。
北と南に人員を割いているので、対岸には一万余しかいない。
チャンス到来とばかり、丘から本陣を前進させた。
川を挟んで圧力を加えるつもりでいた。

 観戦していたアリスは魔力の起こりを感じ取った。
なかなかに強烈な物。
複数の魔力が寄り集まり、一つの群れを形成していた。
それが四つ。
北で起こって、こちらへ向かって来ていた。
駆けて来る感じ。
『初めての感じる魔波ね』
 ハッピーが応じた。
『キャメンソルかも知れないな』
 群れは四つ。
魔物であり、同種である事は確か。
アリスはそちらに偵察を飛ばした。

 偵察に飛ばした四組が早々に戻って来た。
『キャメンソルと確認したわ。
体長6メートルほど、高さ4メートルほど、背中に瘤2つよ』
『十頭につき一頭が魔道具の【潜伏】を装着してるわ。
それを周囲に配すれば、一つの結界になるかもね』
『分散して野営してた様ね』
『背中の瘤と瘤の間に乗り手がいるわ。
まるで馭者みたいな感じよね』

 アリス達は全員総出で出迎えた。
勿論、高々度から。
今回、手出しするつもりはない。
途中介入は宜しくないので国軍に任せた。
打ち漏らしがあるだろうから、それで済まそうと簡単に考えた。
余裕で上からジッと下を観察した。
 群れの速度が早い。
ああ、あれか、砂漠より草地の方が走り易い。
その四つに分かれていた群れが徐々に一つに纏まって来た。
驚いた事に統率された動き。
前後左右、互いの距離を保って駆けて来た。
これは普通ではない。
快速か、準急か、急行か。
 この群れで、速度に乗った走り、これはスタンピードそのものだ。
キャメンソルのスタンピード。
6メートル4メートルサイズの魔物が千頭余。
河川にするとそれは大氾濫、山にすると大土石流。
その流れの先に居る者達に助かる術はあるのだろうか。

 妖精の一人がアリスに尋ねた。
『どうするの、国軍が飲み込まれちゃうよ』
『人と人の争いによ。
どちらが正しいとか、正しくないとか、訳の分からない理屈で争う連中よ。
ニャンの指示があれば別だけど、今は関与したくないわ』

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