青毛がマリリンを乗せて狂ったように馬場を駆け回っていた。
乗り手の事は考えていないのだろう。
馬体を激しく上下させたり、跳んでみたりと、自由に走ってみせた。
青毛の勢いに恐れをなしたのか、他の馬達は一頭として走路に近寄ってこなかった。
マリリンは鞍の用意のない裸馬に乗っているせいで、お尻に痛みを感じ始めた。
おそらく後で赤く腫れ上がるに違いない。
だが止めようがない。
両手で掴んでるのが手綱なら良かったのだが、実際に掴んでいるのは青毛の鬣。
これでは意思の疎通に欠いてしまう。
「尻が割れてしまうな」とヒイラギが笑う。
他人事だと思って笑っている。
「生まれた時から割れてるわよ」と言い返したが、でも、そうに違いない。
二つに割れているお尻が、さらに深く割れるかもしれない。
思わず小さな悲鳴を漏らしそうになった。
ヒイラギが、「俺が替わろうか」と囁いてきた。
脳内に居候しているヒイラギが、「一時的にマリリンの身体を支配しよう」と言うのだ。
マリリンが、毬子として女の身体であった時は本気で提案してきたことはなかった。
ところが男の身体になった今、時折だが熱っぽく提案してくるようになった。
悪気が感じられないだけに始末に困る。
「何度も言ってるけど、お断りよ」
そんな時だった。
青毛が、気儘な性格なのか、不意に足を緩め始めた。
そして速度を落として柵の傍に寄り、足を止めた。
不審に思っていると、なんと、首を下げて足下の草を食み始めるではないか。
マリリンとしては願ってもない好機であった。
素早く飛び降りた。
とっとと離れても良かったのだが、それでは逃げるようで嫌だった。
そっと青毛の首筋に手を伸ばし、余裕のある顔で二度、三度と撫でた。
「ごくろうさん」と。
分かったのか、分からないのか、青毛は横目でマリリンをチラ見しただけ。
マリリンは、みんなの手前もあるので余裕のある顔で青毛から離れた。
尻が痛いのを見抜かれぬよう、痩せ我慢で背筋を伸ばした。
思っていたように、みんなの視線が自分に注がれていた。
姫五人だけでなく、馬場周りに居合わせた兵士達や、通りがかりの者達もいた。
歩くマリリンの脇に関羽が馬を寄せて来た。
「あれは気性が荒い馬だな。でも無事でよかった」と軽やかに飛び降りて肩を並べた。
自分の騎乗より他人の心配をしていたらしい。
同じような裸馬に乗っていたにも関わらず、その表情に余裕があった。
ヒイラギの記憶頼りの疑似体験しかないマリリンに比べ、
彼は実際に豊富な体験をしていたのだろう。
「なんとかなったみたい」とマリリンが返すと、
関羽が、「でも尻が痛いのだろう」と突いて来た。
油断のならない奴。
「分かったの」
「そういう経験があるからな」
「みんなにも分かったかしら」
「おそらくな」と含み笑い。
マリリンを馬鹿にした笑いではない。
心底から愉快に思っていながらも、同時に心配している気配も感じ取れた。
みんなの中から麗華一人が迎え出るように足を踏み出した。
それにしても顔色が悪い。
何なのか、・・・唇を噛み締め、マリリンを睨み付けていた。
すすっとマリリンの前に来ると、麗華の右手が上げられた。
「パーン」と甲高い音。
信じられないことにマリリンは左頬に平手打ちを喰らってしまった。
唖然としていると、今度は左手が上げられた。
続けて今度は右の頬から、「パーン」と甲高い音。
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乗り手の事は考えていないのだろう。
馬体を激しく上下させたり、跳んでみたりと、自由に走ってみせた。
青毛の勢いに恐れをなしたのか、他の馬達は一頭として走路に近寄ってこなかった。
マリリンは鞍の用意のない裸馬に乗っているせいで、お尻に痛みを感じ始めた。
おそらく後で赤く腫れ上がるに違いない。
だが止めようがない。
両手で掴んでるのが手綱なら良かったのだが、実際に掴んでいるのは青毛の鬣。
これでは意思の疎通に欠いてしまう。
「尻が割れてしまうな」とヒイラギが笑う。
他人事だと思って笑っている。
「生まれた時から割れてるわよ」と言い返したが、でも、そうに違いない。
二つに割れているお尻が、さらに深く割れるかもしれない。
思わず小さな悲鳴を漏らしそうになった。
ヒイラギが、「俺が替わろうか」と囁いてきた。
脳内に居候しているヒイラギが、「一時的にマリリンの身体を支配しよう」と言うのだ。
マリリンが、毬子として女の身体であった時は本気で提案してきたことはなかった。
ところが男の身体になった今、時折だが熱っぽく提案してくるようになった。
悪気が感じられないだけに始末に困る。
「何度も言ってるけど、お断りよ」
そんな時だった。
青毛が、気儘な性格なのか、不意に足を緩め始めた。
そして速度を落として柵の傍に寄り、足を止めた。
不審に思っていると、なんと、首を下げて足下の草を食み始めるではないか。
マリリンとしては願ってもない好機であった。
素早く飛び降りた。
とっとと離れても良かったのだが、それでは逃げるようで嫌だった。
そっと青毛の首筋に手を伸ばし、余裕のある顔で二度、三度と撫でた。
「ごくろうさん」と。
分かったのか、分からないのか、青毛は横目でマリリンをチラ見しただけ。
マリリンは、みんなの手前もあるので余裕のある顔で青毛から離れた。
尻が痛いのを見抜かれぬよう、痩せ我慢で背筋を伸ばした。
思っていたように、みんなの視線が自分に注がれていた。
姫五人だけでなく、馬場周りに居合わせた兵士達や、通りがかりの者達もいた。
歩くマリリンの脇に関羽が馬を寄せて来た。
「あれは気性が荒い馬だな。でも無事でよかった」と軽やかに飛び降りて肩を並べた。
自分の騎乗より他人の心配をしていたらしい。
同じような裸馬に乗っていたにも関わらず、その表情に余裕があった。
ヒイラギの記憶頼りの疑似体験しかないマリリンに比べ、
彼は実際に豊富な体験をしていたのだろう。
「なんとかなったみたい」とマリリンが返すと、
関羽が、「でも尻が痛いのだろう」と突いて来た。
油断のならない奴。
「分かったの」
「そういう経験があるからな」
「みんなにも分かったかしら」
「おそらくな」と含み笑い。
マリリンを馬鹿にした笑いではない。
心底から愉快に思っていながらも、同時に心配している気配も感じ取れた。
みんなの中から麗華一人が迎え出るように足を踏み出した。
それにしても顔色が悪い。
何なのか、・・・唇を噛み締め、マリリンを睨み付けていた。
すすっとマリリンの前に来ると、麗華の右手が上げられた。
「パーン」と甲高い音。
信じられないことにマリリンは左頬に平手打ちを喰らってしまった。
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続けて今度は右の頬から、「パーン」と甲高い音。
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