金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(呂布)300

2014-01-02 09:47:30 | Weblog
 その蛇は全身をクネクネさせ、横這いで音も立てず、素早く忍び寄った。
呂布の背後間近に迫るや、躊躇いも何もない。
本能の赴くままに、跳躍するかのような勢いで、鎌首を持ち上げて跳ねた。
宙に蛇躯を舞わせた。
狙い澄ました一撃。
手慣れた動作で呂布の首に巻き付く。
そして力強く絞めた。
のみならず、一巻きの後は、さらに鎌首を回して噛み付こうとした。
 不意を突かれた呂布。
何が起きたのか、わけが分からなかった。
締め付ける剛力に、首が圧迫された。
何が・・・。
そして、真正面間近に鋭い牙と細長い舌先を見た。
口を大きく開けて迫る蛇。
予想も予期もせぬ事態。
このような状況に陥るとは。
悪夢としか思えない。
が、現に、今にも蛇が咬み付こうとしていた。
首を締め付けるだけでは満足せず、顔にも咬み付こうというわけだ。
咬み付くとすれば出っ張っている鼻か。
首を絞められ、鼻に咬み付かれては抵抗する気が失せるだろう。
 呂布に出来る術は限られていた。
考えるより先に左腕で顔の正面を覆う。
左前腕を犠牲にするつもりであった。
その狙い通り、蛇が前腕に咬み付いた。
腕を覆う衣服を物ともしない。
鋭い牙の衝撃。
布切れを突き破り、深々と牙が腕肉に突き刺さる。
今にも筋肉までも咬み千切りそうな勢い。
 呂布は痛みを超えた痛みにも、噴き出る血にも構わない。
ここは生と死の境目。
選択肢は一つしかない。
左腕を犠牲にするつもりであった。
右腕一本さえ残れば、なんとかなる。なんとかする。
残った力を振り絞って立ち上がった。
そして、躯を宙に舞わせた。
左前腕を下にして床に落ちて行く。
当然、咬み付いた蛇の頭が一番下になるような体勢にした。
 この行為が蛇に理解出来る分けがない。
右腕で左腕を支え、全体重をかけてドンと落下。床が揺れ、衝撃が左腕に走った。
救いは蛇の頭が衝撃を少し和らげてくれたこと。
呂布は蛇の状態を確かめるよりも、続けざまに落下する事を選んだ。
二度、三度と続けた。
蛇の頭を叩き付けるようにして落下した。
 そして気付いた。
首を絞めていた力が失われた。
蛇の胴体がスルスルと解けて落ちて行く。
前腕に咬み付いた頭部も一緒になって床に落ちた。
蛇の頭は無残に砕け潰れていた。
体液に呂布の血が混じり、妙な塩梅だ。
 呂布は咬まれた傷を見た。
牙跡が深々とつき、そこから流れ出る血が止まらない。
慌てて、衣服を脱いで止血した。
 それから改めて蛇を観察した。
このような蛇は初めて見た。
当然、毒の有無も分からない。
今のところ、毒が回った気配は感じ取れない。
それでも安心は出来ない。
咬まれた左腕が痛いが、ここに留まる分けにも行かない。
村の外にいる者達に確認する必要がある。
呂布が戻るのを、今や遅しと待ち受けているはずだ。
蛇を持ち上げ、好まぬが、首に回して担ぐことにした。
思っていたよりも軽い。
 元来た道を戻る。
嫌な疲労と、出血の脱力感で足下がふらつくが、足は止めない。
 丈の高い雑草を掻き分けて村を出た。
途端に、みんなが色をなした。
声にもならぬ声が上がった。
娘達が後退る。
 呂甫が真っ先に駆け寄った。
「どうした」と蛇や呂布の有様を指さした。
 呂布は意味もなく強がった。
「みんなに手土産」
 老練な顔をした牧童が呂布から蛇を取り上げた。
「重い。立派な蛇だな」と、もう一人の牧童の手を借りた。
「それより毒は」
「こいつは持ってない、それだけは安心だ。でも血の流しすぎだろう」
 蔦美帆が強張った顔で傍に寄って来た。
左前腕に巻かれた衣服を取り外し、咬まれた傷跡を見た。
我慢しているのか、顔色が悪い。
それでも声を振り絞る。
「誰か、お酒を持ってきて。咬まれた所を洗うから」
美帆は続けた。
「誰か、蛇の口を調べて。牙が折れてないかどうか、よく調べるのよ」
呂布の目を真っ直ぐに見た。
「牙が折れて腕に残っているのは嫌でしょう」
「折れて残っていたらどうする」
「傷口を広げて、取り除くのよ」
「医術の心得があるのか」
 美帆が済まなそうに言う。
「父が多少。それを真似しているだけ。
さあ、ここで横になって」
 好き嫌いを言ってはいられない。
言われたまま、地面に仰向けになった。
 幸い、牙は一本も折れていなかった。
酒樽が運ばれて来た。
美帆が酒を汲み出し、呂布の傷跡を洗う。
 激しく、しみる。
咬まれた際の痛みよりも、酷い衝撃が背筋を走った。
 それでも呂布の感覚は鈍らない。
地面から伝わる微かな響きを逃さない。
蹄の立てる地響き。
次第に、こちらに近付いて来る。
かなりの数だ。
おそらく、何れかの騎馬隊だろう。
みんなは誰一人、気付かない。
呂布を取り巻いて、具合を心配しているだけ。
「注意しろ」と告げようとするも、しみる酒で気が遠くなった。


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