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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(呂布)283

2013-11-03 08:06:56 | Weblog
 ほろ酔い加減の呂布だが、時折五人を見回して観察するのだけは怠らない。
姿形は隊商の者である事を語っているが、それが偽りである事は明白。
顔や首回りに無駄な肉が一片も付いていない。
足下に揃えている太刀や槍にしても、かなり遣い込まれていた。
そして彼等の纏う空気は武人そのもの。
 五人は呂布に何も語らない。何も問わない。
ただ無言で飲み食いに興じるだけ。
とにかく、よく食い、よく飲む。
呂布の竹筒が空になったと見るや、新しい竹筒を手渡してくれた。
 正体不明の連中に周りを囲まれた状況だが、不思議と怖くはなかった。
彼等の放つ独特の空気を心地好く感じた。
 と、丘の下に新たな気配。
五人も感じ取った。
途端に立ち上がり身支度を始めた。
服装を正し、太刀を佩き、槍を手にした。
 呂布も立とうとしたが、一人が片手を上げて制した。
無用らしい。
五人の様子から、どうやら敵の襲来ではなさそうだ。
 丘の下から人の声が届いて来た。
女の声も混じっていた。
人数からすると十人程度か。
声の調子から、急ぎ足で上がって来ると分かった。
先頭は女武者。
武具を身に纏っていても、見事な肢体と分かる。
グッと呂布を睨む。
 十一人が上がって来た。
五人が整列して彼等彼女等を出迎えた。
人群れから一人の偉丈夫が進み出た。
射竦める双眼。
 呂布は自分の顔から血が引いて行くのが分かった。
慌てて立ち上がった。
転がるような勢いで出迎えの列に加わり、両膝をついて拱手をした。
 呂布に武技を一から教えてくれた張任であった。
益州の武官で、「この人あり」と称される武人。
年齢は三十半ば。
鍛え抜かれているのが遠目にも歴然。
体躯は呂布に比べると少々低いが、手足太く、胸も厚い。
 呂布が口を開くよりも、張任の方が早かった。
呂布に駆け寄り、右の肩に手を置いた。
がっしりした力強い手。
何よりも暖かい。
「よく眠れたか」
 呂布は大きく頷いた。
 張任が続けた。
「よく食えたか」
 呂布は目頭が熱くなった。
より大きく頷く。
 張任が、やおら両膝をつく。
両手で呂布の両肩を抱く。
「酒も飲めたようで良かった、良かった」
 呂布の涙腺が緩む。
ドッと涙が溢れた。
張任に抱かれたまま、「申し訳御座いません」と言うので精一杯。
 張任は武技の師匠であると同時に父であり、兄のような存在であった。
もっと鍛えて欲しかった。
もっと語り合いたかった。
 張任が強い語調。
「止むに止まれぬこと」と言いながら、呂布を強引に引き立て、
「俺を巻き込みたくなくて、別れの挨拶に来なかったのだろう」と続けた。
 図星であった。
深く頷き、涙を拭い、彼を見た。
 張任の双眼も濡れていた。
「俺の心配をするようになったか。
お前も一人前の大人だな」
「師匠に迷惑はかけられません」
「そういうのを水臭いと言うのだ。この馬鹿者が」
 呂布は覚悟を決めた。
地面に、しっかと腰を下ろした。
「師匠になら喜んで」と首を差し出した。
 張任は呆れ顔になった。
みんなを見回した。
「この大馬鹿者が俺に首を差し出すそうだ」
 さっきの女武者が呂布の横に来た。
「張任様は貴方様の加勢に来られたのです」
 異な説明なので呂布には理解出来ない。
州の武官の立場にあるのなら、追っ手側に加わるのが当然。
なのに・・・。
「罪を犯した者に加勢する」というのか。
 呂布は腰を下ろしたまま、みんなを見上げ、ゆっくり見回した。
それぞれの顔は違っても、顔色が暖かい。
何なのだ。
何が起きているというのだ。
 張任が厳しい目をした。
「国の法は、人の道とは別の物。
国の法は、正しい、正しくない、ではなく、
人と人が極力争わなくても済むように創り上げた代物。
力のある者に都合の良い物でもある。
国の法と人の道が衝突したとしたら、俺は人の道を選ぶ」
 呂布は女武者に、「立つように」と促された。
けれど呂布は従わない。
片膝ついて張任に問う。
「それで大丈夫なのですか」と心配した。
 張任の厳しい目は変わらない。
「己が身の心配をしたら、人が人でなくなる。
成すべきは心の声に従うこと」
 呂布は再び拱手をした。
「ありがたいことです。
・・・。
それにしても、よくここが分かりましたね」と問う。
 張任が表情を緩めた。
「お前を捜していたら不思議な事に、あちこちで消息が知れた。
まるで、わざと残したみたいにな。
それで、追っ手を誘っていると分かった。
後は簡単。追っ手に付いて行けば、お前が現れると考えた。
追っ手にも、お前にも気付かれぬように、慎重に、慎重に間を置いて付けた。
そして読み通りにお前は現れた。
手間取れば加勢しようと思っていたのだが、ところがお前は、
赤子の手でも捻るかのように、いとも簡単にやってのけた」
「するとあの後、ここまで付けられていたのですか。
まったく気付きませんでした」
「お前の気持ちは分かるが、油断のし過ぎだ」
 呂布はバツが悪そうに、みんなを見回し、張任に問う。
「お供の方々は」
「男どもは、うちの家人だ。
よく鍛えられているだろう」
「見るからに武人ですね。
もっとも、それ以上に無口ですが」
 張任が笑う。




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