金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(呂布)301

2014-01-05 09:12:31 | Weblog
 周りのザワメキで意識を取り戻した。
背中が妙にふわふわした。
何時の間にか地面から敷物の上に移されていたらしい。
目を開けると、幾人かが呂布の様子を取り囲むようにして覗き込んでいた。
呂甫と蔦美帆、同行の者達の顔。
加えて、知らない顔が二つあった。
目を開けた呂布に、みんなが一様にホッとした表情をした。
 知らない老人が手を伸ばしてきた。
呂布の額に手の平を当てた。
「毒のない蛇でしたが、やはり熱は出るようです」
と呂布にではなく、自分の隣に肩を並べる男に、
まるで上司と部下の関係であるかのように説明した。
 その言葉に、何故か、大勢が反応する気配。
ザワメキが強まる。
どうやら、理由は分からないが、みんなの背後に大勢が控えているらしい。
呂布は気配に軍気を感じ取った。
 老人の言葉に耳を傾けていた男が口を開いた。
優しい口調で呂布に問い掛けた。
「どうだ、痛みはないか」
 この中では一番の長身で、一番に痩せていた。
優しいのは口調だけではない。
表情も。造作はともかく、女を騙す顔をしていた。
 呂布は男に目を向け、視線を絡ませた。
目の色だけは優しくなかった。
老練さが滲み出ている。
苦労しているのを表に出さない性格のようだ。
呂布は男に強がっても仕様がないので、正直に答えた。
「咬まれた所に痛みが残っている」
 男が真顔で言う。
「この年寄りは」と隣の老人を目顔で指し示し、
「医術の心得があり、軍でも重宝している。
それの見立てでは、熱が出ても問題はないそうだ。
腕を、適度に、激しくない程度に動かすことだな。
そのうちに元に戻る」
「ただし」と老人が割り込む。
「出血だけは避けなさい。さすれば問題ない。
それに、血痕をつけて調べてみたら、大量に血を流しておった。
流したら、それと同じだけの血を増やさねばならんのが道理。
だから滋養もつけねばならん」と一息おいて、
「滋養には蛇が良い。捕らえた蛇を食うことじゃ」と続けた。
 呂布は目顔で男と老人に感謝の意を伝えた。
 呂甫が遅ればせながらも、二人を紹介した。
「官軍の董卓将軍と、軍に帯同されている張稜殿だ。
我々が呂布の手当をしているところに、丁度運良く通り掛かられたので、
医術の心得のある方はいないか、と先頭に声を掛けたら、そこに董卓将軍がおられた。
事情を説明すると、快く張稜殿に手当を命じられた」
 呂布は上半身を起こした。
失血のせいか少しふらつくが、堪えて、改めて一人ずつ見た。
「董卓将軍に張稜殿ですね。感謝いたします。
私の名は呂布」
 董卓が嬉しそうに言う。
「呂布だな。
事情は仲間達から聞いている。
・・・。
思ったよりも躯の具合は良さそうだな。
腹は減ってないか」
 呂布は腹に手を当て、「少々」と無理して笑顔を作った。
「蛇で良かったら有るぞ。お前に咬みついた奴だ。
どうだ、食う気があるなら、兵に用意させるが」と董卓が面白がって問う。
 悪乗りする気持ちは分かる。
董卓にとっては厳しい軍務の合間に見つけた、憩いの、悪ふざけなのだろう。
無理強いしている感は全くない。
単に面白がっているだけ。
呂布は、「断っても一向に差し支えない」と判断したものの、董卓の反応も見たかった。
思わず、「食おう、今すぐに」と答えてしまった。
 すると董卓が表情を崩した。
「はっはっは」と笑い、後方を振り向いて、
「呂布殿が蛇料理と酒を所望だ」と大声で命じた。
 心底から喜んでいるのが分かる。


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