翌早朝、マリリンは関羽に起こされた。
「朝食の前に一汗かこう」と言うのだ。
ヒイラギが欠伸混じりで笑う。
「えらいのに気に入られちまったな」
関羽は用意の良いことに棍を二本持って来ていた。
その熱心な様子を見ては断れる分けがない。
窓を開けて外を見た。
朝日は昇ってないが、東の空はすでに白んで来ていた。
朝稽古には相応しい刻限に違いない。
マリリンは関羽に問うた。
「関羽殿は、いつまで此処に逗留されるのですか」
「当分の間だよ。次の仕事の当てもないしな。
納得がいくまで棍を交えられる。
勿論、当主殿の許しは得てある」
館の使用人達が朝の用意をする為に起き始めた。
棍を持つ二人を見て怪訝な顔で擦れ違う。
二人は昨日の仕合の場所に足を運んだ。
ここ以外を思いつかなかったのだ。
関羽の気合いが朝の冷気を吹き飛ばした。
マリリンはげんなり。
「えらい元気だな」とヒイラギも呆れた。
関羽はマリリンの都合など一切お構いなし。
一気に打ち掛かって来た。
棍と棍で打ち合う音が早朝の明け切らぬ空に響き渡った。
館の二階の劉桂英に届かぬ分けがない。
安眠を破られ、ハッと目覚めた。
続き部屋で寝ていた夫の醇包も起き出して来た。
「関羽殿か」
二人して窓を開けて下を覗いた。
まだ薄暗いので、しかとは見えないが、
庭先の広い場所でそれらしい影が二つ動いていた。
桂英が呆れた。
「熱心なのは分かるけど、朝早過ぎない」
「マリリン殿の技を見せられ、我慢出来なかったのだろう」
「確かに関羽殿相手に見事な棍の工夫だったけど、それほどのことなの」
醇包が目を大きく見開いた。
「それはもう。
相手が関羽殿だったから、防戦一方に見えたかも知れない。
しかしだ、相手が関羽殿でなければ、すぐさま反撃して打ち据えてた筈だ」
「それほどに」
「ああ、最初は関羽殿の力攻めに圧倒されてたが、次第に慣れてきた。
その結果として余裕を持って棍を弾き飛ばし、足払いをした」
「そういうことだったの。
関羽殿はマリリン殿に何を求めているの」
「技。自分の技が未熟なのに気付いたのだろう」
「あれだけの力があれば技なんて要らないのじゃない」
「力を突き詰めるという考え方もあるが、昨日のように技で返されてはな。
その辺に気付いたのだろう。
まだ若いのに驕らぬとは、良い心がけじゃ」
桂英が悪戯っぽい目で夫を見た。
「どっちを気に入ったの」
「さあて、どっちも、だな。
技に優れた佳い男と、力そのものの武威な男。
ところで、朱郁の例の調べはどうなってる」
頂角を指導者と仰ぐ太平道とマリリンの関係の有無を朱郁が密かに調べていた。
「この邑にいる太平道の隠れ信者を見つけ、こちら側に取り込んだそうよ。
それによると、彼等にとってマリリン殿は邪魔な存在のようね。
『神樹の使わした者』という噂が気に入らないみたい。
布教の邪魔になる、と考えているのじゃないの」
「なるほど、そう考えているのか。分かった。
となるとマリリン殿には安心して良いんだな」
「一点を除いてはね」
「あれか、マリリン殿の体内に潜むモノ」
「そうよ。ずっと鳴りを潜めているけどね」
その日のうちにマリリンは桂英に呼ばれ、
「仕事として姫五人にも棍を教えてね」と丁寧に頼まれた。
姫五人を相手にとは、・・・。
仕事の話は自分から切り出した事なので、断りようがなく、受けざるを得なかった。
かくして朝稽古に五人の姫が加わる事になった。
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「朝食の前に一汗かこう」と言うのだ。
ヒイラギが欠伸混じりで笑う。
「えらいのに気に入られちまったな」
関羽は用意の良いことに棍を二本持って来ていた。
その熱心な様子を見ては断れる分けがない。
窓を開けて外を見た。
朝日は昇ってないが、東の空はすでに白んで来ていた。
朝稽古には相応しい刻限に違いない。
マリリンは関羽に問うた。
「関羽殿は、いつまで此処に逗留されるのですか」
「当分の間だよ。次の仕事の当てもないしな。
納得がいくまで棍を交えられる。
勿論、当主殿の許しは得てある」
館の使用人達が朝の用意をする為に起き始めた。
棍を持つ二人を見て怪訝な顔で擦れ違う。
二人は昨日の仕合の場所に足を運んだ。
ここ以外を思いつかなかったのだ。
関羽の気合いが朝の冷気を吹き飛ばした。
マリリンはげんなり。
「えらい元気だな」とヒイラギも呆れた。
関羽はマリリンの都合など一切お構いなし。
一気に打ち掛かって来た。
棍と棍で打ち合う音が早朝の明け切らぬ空に響き渡った。
館の二階の劉桂英に届かぬ分けがない。
安眠を破られ、ハッと目覚めた。
続き部屋で寝ていた夫の醇包も起き出して来た。
「関羽殿か」
二人して窓を開けて下を覗いた。
まだ薄暗いので、しかとは見えないが、
庭先の広い場所でそれらしい影が二つ動いていた。
桂英が呆れた。
「熱心なのは分かるけど、朝早過ぎない」
「マリリン殿の技を見せられ、我慢出来なかったのだろう」
「確かに関羽殿相手に見事な棍の工夫だったけど、それほどのことなの」
醇包が目を大きく見開いた。
「それはもう。
相手が関羽殿だったから、防戦一方に見えたかも知れない。
しかしだ、相手が関羽殿でなければ、すぐさま反撃して打ち据えてた筈だ」
「それほどに」
「ああ、最初は関羽殿の力攻めに圧倒されてたが、次第に慣れてきた。
その結果として余裕を持って棍を弾き飛ばし、足払いをした」
「そういうことだったの。
関羽殿はマリリン殿に何を求めているの」
「技。自分の技が未熟なのに気付いたのだろう」
「あれだけの力があれば技なんて要らないのじゃない」
「力を突き詰めるという考え方もあるが、昨日のように技で返されてはな。
その辺に気付いたのだろう。
まだ若いのに驕らぬとは、良い心がけじゃ」
桂英が悪戯っぽい目で夫を見た。
「どっちを気に入ったの」
「さあて、どっちも、だな。
技に優れた佳い男と、力そのものの武威な男。
ところで、朱郁の例の調べはどうなってる」
頂角を指導者と仰ぐ太平道とマリリンの関係の有無を朱郁が密かに調べていた。
「この邑にいる太平道の隠れ信者を見つけ、こちら側に取り込んだそうよ。
それによると、彼等にとってマリリン殿は邪魔な存在のようね。
『神樹の使わした者』という噂が気に入らないみたい。
布教の邪魔になる、と考えているのじゃないの」
「なるほど、そう考えているのか。分かった。
となるとマリリン殿には安心して良いんだな」
「一点を除いてはね」
「あれか、マリリン殿の体内に潜むモノ」
「そうよ。ずっと鳴りを潜めているけどね」
その日のうちにマリリンは桂英に呼ばれ、
「仕事として姫五人にも棍を教えてね」と丁寧に頼まれた。
姫五人を相手にとは、・・・。
仕事の話は自分から切り出した事なので、断りようがなく、受けざるを得なかった。
かくして朝稽古に五人の姫が加わる事になった。
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