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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(劉家の人々)194

2012-12-23 09:57:32 | Weblog
 関羽が勢いのまま、左肩から体当たりして来た。
マリリンが、毬子としての女の身体であったなら、祖父が教えてくれた判官流の体術で、
相手の勢いを利用して投げ飛ばしたであろう。
しかし今、身体は男。
その身体の耐性を知る絶好の機会であった。
逃せる分けがない。
歯を食いしばり、関羽の体当たりを受け止めた。
 激しい衝撃が全身に走った。
目の前で火花が散り、相撲用語の、「ぶちかまし」という単語が頭の中を転げ回った。
二歩、三歩と押されるが、それでも耐えた。
男の意地。
必死で関羽と組み合う。
力勝負とばかり、腰を落として全身の力を注ぐ。
 関羽が右に投げを打とうとしてきた。
マリリンはそれに堪え、逆に左に投げ返そうとした。
しかし関羽はビクともしない。
 マリリンの呼吸が、関羽の呼吸が、それぞれに荒くなった。
先に力尽きたのはマリリンであった。
両腕に限界がきたのだ。
それを関羽に見抜かれた。
 一閃。
地から引き抜かれたかのような感覚。
気付くと、いとも簡単に宙に飛ばされていた。
 背中から落ちてゆくが、幸い身体が受け身を覚えていた。
頭を守りながら地を転がる。
衝撃を最小限に抑え、素早く立ち上がって関羽を睨む。
 嬉しそうな関羽の顔。
獲物にとどめを刺そうと足を踏み出した。
「そこまで、そこまで」と声。
 醇包が両手を広げ、割って入って来た。
「殺し合いじゃない。これまでで良かろう」と。
マリリンと関羽の双方に、「異議を許さぬ」とばかりの鋭い視線を飛ばした。
 マリリンは込み上げてくるモノを抑えきれなかった。
場を顧みずに笑ってしまう。
それも大声で。
しかも腹を抱えて。
 ヒイラギの叱責が飛ぶ。
「気持ちは分かるが、場所柄をわきまえろ」
 歴史の彼方に飛ばされて伝説の関羽と戦えるとは。
おまけに男の意地を張ったばかりに、思いっきり投げ飛ばされてしまった。
これが笑わずにいられようか。
 遅れて、心の奥底から問い掛けがきた。
「自分は何をやっているんだろう」と。
目頭が熱くなる。
声を上げて泣きはしないが、幾筋かの涙を頬を伝うのが分かった。
無様な泣き笑い。
 ヒイラギは何も言わない。
 醇包が心配げにマリリンに問う。
「如何した、大丈夫か」
「身体が思った以上に動くのが嬉しいのです」と誤魔化した。
 安堵する醇包。
「そうか、良かったな」と信じて疑わぬ顔。
 マリリンは忸怩たる思いに駆られた。
それでも本意は話せない。
「皆様のお陰です」
 関羽が歩み寄って来た。
マリリンに軽く頭を下げ、柔らかな表情で言う。
「楽しかった。また仕合いたいな」
「私も。ここに居られる間は棍を合わせたいですね」
「約束だ。ところで当たり所は大丈夫か」
 体当たりを喰らった箇所が痛い。
骨は折れていないようだが、明日になれば、もっと痛みが増すだろう。
 その箇所を関羽に掌で軽く打たれた。
ピリッと電撃のような痛みが走った。
こういうのを、「虚を突かれた」と言うのだろう。
が、そこは男の痩せ我慢。無表情を貫き通す。
 だが関羽には見抜かれてしまった。
彼は悪戯っぽい仕草で顔を背け、素知らぬ顔。
 マリリンは関羽に、「お前は子供か」と怒鳴りたいが、その言葉をグッと飲み込んだ。
にも関わらず、醇包にも気付かれてしまった。
「しばらくはノンビリする事だな」と老いた笑顔で囁かれた。
 マリリンは劉桂英の前に片膝つき、言上した。
「皆様のお陰で身体はこの様に元気になりました。有り難う御座います。
つきましては、お願いがあります。
お世話になるばかりでは心苦しいので、何か仕事をさせて頂けませんか」
 思いもしない話だったのだろう。
桂英は首を傾げた。
「良い仕合だったわよ。
貴男が元気になって私も、みんなも嬉しいわ。
仕事の話は少し考えさせてね。
急なことで今は思いつかないの」




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