関羽が勢いのまま、左肩から体当たりして来た。
マリリンが、毬子としての女の身体であったなら、祖父が教えてくれた判官流の体術で、
相手の勢いを利用して投げ飛ばしたであろう。
しかし今、身体は男。
その身体の耐性を知る絶好の機会であった。
逃せる分けがない。
歯を食いしばり、関羽の体当たりを受け止めた。
激しい衝撃が全身に走った。
目の前で火花が散り、相撲用語の、「ぶちかまし」という単語が頭の中を転げ回った。
二歩、三歩と押されるが、それでも耐えた。
男の意地。
必死で関羽と組み合う。
力勝負とばかり、腰を落として全身の力を注ぐ。
関羽が右に投げを打とうとしてきた。
マリリンはそれに堪え、逆に左に投げ返そうとした。
しかし関羽はビクともしない。
マリリンの呼吸が、関羽の呼吸が、それぞれに荒くなった。
先に力尽きたのはマリリンであった。
両腕に限界がきたのだ。
それを関羽に見抜かれた。
一閃。
地から引き抜かれたかのような感覚。
気付くと、いとも簡単に宙に飛ばされていた。
背中から落ちてゆくが、幸い身体が受け身を覚えていた。
頭を守りながら地を転がる。
衝撃を最小限に抑え、素早く立ち上がって関羽を睨む。
嬉しそうな関羽の顔。
獲物にとどめを刺そうと足を踏み出した。
「そこまで、そこまで」と声。
醇包が両手を広げ、割って入って来た。
「殺し合いじゃない。これまでで良かろう」と。
マリリンと関羽の双方に、「異議を許さぬ」とばかりの鋭い視線を飛ばした。
マリリンは込み上げてくるモノを抑えきれなかった。
場を顧みずに笑ってしまう。
それも大声で。
しかも腹を抱えて。
ヒイラギの叱責が飛ぶ。
「気持ちは分かるが、場所柄をわきまえろ」
歴史の彼方に飛ばされて伝説の関羽と戦えるとは。
おまけに男の意地を張ったばかりに、思いっきり投げ飛ばされてしまった。
これが笑わずにいられようか。
遅れて、心の奥底から問い掛けがきた。
「自分は何をやっているんだろう」と。
目頭が熱くなる。
声を上げて泣きはしないが、幾筋かの涙を頬を伝うのが分かった。
無様な泣き笑い。
ヒイラギは何も言わない。
醇包が心配げにマリリンに問う。
「如何した、大丈夫か」
「身体が思った以上に動くのが嬉しいのです」と誤魔化した。
安堵する醇包。
「そうか、良かったな」と信じて疑わぬ顔。
マリリンは忸怩たる思いに駆られた。
それでも本意は話せない。
「皆様のお陰です」
関羽が歩み寄って来た。
マリリンに軽く頭を下げ、柔らかな表情で言う。
「楽しかった。また仕合いたいな」
「私も。ここに居られる間は棍を合わせたいですね」
「約束だ。ところで当たり所は大丈夫か」
体当たりを喰らった箇所が痛い。
骨は折れていないようだが、明日になれば、もっと痛みが増すだろう。
その箇所を関羽に掌で軽く打たれた。
ピリッと電撃のような痛みが走った。
こういうのを、「虚を突かれた」と言うのだろう。
が、そこは男の痩せ我慢。無表情を貫き通す。
だが関羽には見抜かれてしまった。
彼は悪戯っぽい仕草で顔を背け、素知らぬ顔。
マリリンは関羽に、「お前は子供か」と怒鳴りたいが、その言葉をグッと飲み込んだ。
にも関わらず、醇包にも気付かれてしまった。
「しばらくはノンビリする事だな」と老いた笑顔で囁かれた。
マリリンは劉桂英の前に片膝つき、言上した。
「皆様のお陰で身体はこの様に元気になりました。有り難う御座います。
つきましては、お願いがあります。
お世話になるばかりでは心苦しいので、何か仕事をさせて頂けませんか」
思いもしない話だったのだろう。
桂英は首を傾げた。
「良い仕合だったわよ。
貴男が元気になって私も、みんなも嬉しいわ。
仕事の話は少し考えさせてね。
急なことで今は思いつかないの」
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相手の勢いを利用して投げ飛ばしたであろう。
しかし今、身体は男。
その身体の耐性を知る絶好の機会であった。
逃せる分けがない。
歯を食いしばり、関羽の体当たりを受け止めた。
激しい衝撃が全身に走った。
目の前で火花が散り、相撲用語の、「ぶちかまし」という単語が頭の中を転げ回った。
二歩、三歩と押されるが、それでも耐えた。
男の意地。
必死で関羽と組み合う。
力勝負とばかり、腰を落として全身の力を注ぐ。
関羽が右に投げを打とうとしてきた。
マリリンはそれに堪え、逆に左に投げ返そうとした。
しかし関羽はビクともしない。
マリリンの呼吸が、関羽の呼吸が、それぞれに荒くなった。
先に力尽きたのはマリリンであった。
両腕に限界がきたのだ。
それを関羽に見抜かれた。
一閃。
地から引き抜かれたかのような感覚。
気付くと、いとも簡単に宙に飛ばされていた。
背中から落ちてゆくが、幸い身体が受け身を覚えていた。
頭を守りながら地を転がる。
衝撃を最小限に抑え、素早く立ち上がって関羽を睨む。
嬉しそうな関羽の顔。
獲物にとどめを刺そうと足を踏み出した。
「そこまで、そこまで」と声。
醇包が両手を広げ、割って入って来た。
「殺し合いじゃない。これまでで良かろう」と。
マリリンと関羽の双方に、「異議を許さぬ」とばかりの鋭い視線を飛ばした。
マリリンは込み上げてくるモノを抑えきれなかった。
場を顧みずに笑ってしまう。
それも大声で。
しかも腹を抱えて。
ヒイラギの叱責が飛ぶ。
「気持ちは分かるが、場所柄をわきまえろ」
歴史の彼方に飛ばされて伝説の関羽と戦えるとは。
おまけに男の意地を張ったばかりに、思いっきり投げ飛ばされてしまった。
これが笑わずにいられようか。
遅れて、心の奥底から問い掛けがきた。
「自分は何をやっているんだろう」と。
目頭が熱くなる。
声を上げて泣きはしないが、幾筋かの涙を頬を伝うのが分かった。
無様な泣き笑い。
ヒイラギは何も言わない。
醇包が心配げにマリリンに問う。
「如何した、大丈夫か」
「身体が思った以上に動くのが嬉しいのです」と誤魔化した。
安堵する醇包。
「そうか、良かったな」と信じて疑わぬ顔。
マリリンは忸怩たる思いに駆られた。
それでも本意は話せない。
「皆様のお陰です」
関羽が歩み寄って来た。
マリリンに軽く頭を下げ、柔らかな表情で言う。
「楽しかった。また仕合いたいな」
「私も。ここに居られる間は棍を合わせたいですね」
「約束だ。ところで当たり所は大丈夫か」
体当たりを喰らった箇所が痛い。
骨は折れていないようだが、明日になれば、もっと痛みが増すだろう。
その箇所を関羽に掌で軽く打たれた。
ピリッと電撃のような痛みが走った。
こういうのを、「虚を突かれた」と言うのだろう。
が、そこは男の痩せ我慢。無表情を貫き通す。
だが関羽には見抜かれてしまった。
彼は悪戯っぽい仕草で顔を背け、素知らぬ顔。
マリリンは関羽に、「お前は子供か」と怒鳴りたいが、その言葉をグッと飲み込んだ。
にも関わらず、醇包にも気付かれてしまった。
「しばらくはノンビリする事だな」と老いた笑顔で囁かれた。
マリリンは劉桂英の前に片膝つき、言上した。
「皆様のお陰で身体はこの様に元気になりました。有り難う御座います。
つきましては、お願いがあります。
お世話になるばかりでは心苦しいので、何か仕事をさせて頂けませんか」
思いもしない話だったのだろう。
桂英は首を傾げた。
「良い仕合だったわよ。
貴男が元気になって私も、みんなも嬉しいわ。
仕事の話は少し考えさせてね。
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