マリリンの回復は周囲が思っていたよりも早かった。
三日も経つと起き上がることが出来るようになり、
五日目には館内を歩き回れるようにもなった。
そんなマリリンの為に醇包が衣服を用意してくれた。
呆れた事に、男の身体に生まれ変わったマリリンに、
女物かと見紛うような色鮮やかな物ばかりを揃えてくれた。
ことに花柄の衣服が多かった。
「この地方ではこれが流行りなんだよ」と醇包。
その言いように疑問は何一つ浮かばなかった。
文字通り、裸一貫の身の上。何も着る物を持っていない。
断る理由もないので喜んで着用した。
マリリンは身体こそ男だが、元々は女。
花柄に拒否反応が出る分けがない。
みんなには訝しい目で見られたが、いっこうに気にしなかった。
ヒイラギにも、
「郷に入っては郷に従え、と言うではないか。好意は喜んで受けな」
と釘を刺されていた。
六日目からは隣の赤劉城に足を伸ばした。
当然ながら一人での気ままな散歩が許される分けもなく、
侍女、宋純が付き添うことで外歩きが実現した。
初めて足を踏み入れた赤劉城の城構えには驚かされた。
本城は城郭の中央にこぢんまりと鎮座していたのだ。
「これで防御の役に立つのか」と疑問に思っていたら、
宋純が、「無位無冠ですから、派手には出来ないのですよ」と説明してくれた。
敷地の大半は商家、民家が軒を連ね、大いに賑わっていた。
その繁盛ぶりからすると、城の大小は問題ではないのかも知れない。
マリリンの事は直ぐに知れ渡った。
神樹の根元で素っ裸で寝ていた男としてではなく、「神樹の使わした者」として。
それから何日かは、マリリンが赤劉城に姿を現す度に大勢が野次馬として、
行くところ行くところに付きまとう始末。
五日もすると数が減ったので、マリリンは陶洪、陶涼の兄妹を外出に伴うことにした。
「たまには外の空気でも吸ってみようか」と。
二人は小さいながら館の使用人なので、自由に外に出られない境遇にあった。
誘いを喜ぶかと思いきや、兄妹は渋った。
「私が足手纏いになります」と陶涼。
「使用人なので勝手が利かない」というのもあるが、
それよりも目が見えないので遠慮したのだ。
そのくらいで諦めるマリリンではなかった。
強引に陶涼の手を引いた。
陶洪の、「マリリン様、やめてください」と叫ぶ声や、
陶涼の、「足手纏いになるだけです」との泣き出さんばかりの声は無視した。
付き添いの侍女の宋純はオロオロするばかり。
マリリンが陶涼を館の外に連れ出すと、陶洪も宋純も付いて来ざるを得なかった。
足の重そうな三人に、わざと明るく言う。
「咎めがあれば私が引き受けるわ。
だから今日は楽しくやりましょう」と。
こうして四人で赤劉城に入った。
マリリンは陶涼の手を優しく引いて案内した。
陶涼からも、進むに従い興味が湧いたようで、
それまでのオドオド感が消えてゆくのが分かった。
時には店内に入り、商いの声を聞かせもした。
兄の陶洪も観念したのか、子供心に戻ったのか、どうとも言えないが、
その足取りは軽くなっていた。
宋純にいたっては母親のような目で兄妹を見守っていた。
色々な店を周り、みんなが疲れた頃だった。
小間物屋を出たところで鋭い視線を浴びた。
物見高い野次馬達とは明らかに違っていた。
視線を向けなくても、目の端で相手を捉えた。
熊の如き大きさの男であった。
その体躯はこの城一番ではなかろうか。
顎髭と頬髭の立派さが目を引いた。
熊男はやがて関心を失ったのか、先を急いでいるのか、視界から消えた。
その熊男に引き合わされた。
館に戻っての夕食の席であった。
劉桂英が、
「洛陽から来た関羽殿だ」と、みんなに紹介した。
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三日も経つと起き上がることが出来るようになり、
五日目には館内を歩き回れるようにもなった。
そんなマリリンの為に醇包が衣服を用意してくれた。
呆れた事に、男の身体に生まれ変わったマリリンに、
女物かと見紛うような色鮮やかな物ばかりを揃えてくれた。
ことに花柄の衣服が多かった。
「この地方ではこれが流行りなんだよ」と醇包。
その言いように疑問は何一つ浮かばなかった。
文字通り、裸一貫の身の上。何も着る物を持っていない。
断る理由もないので喜んで着用した。
マリリンは身体こそ男だが、元々は女。
花柄に拒否反応が出る分けがない。
みんなには訝しい目で見られたが、いっこうに気にしなかった。
ヒイラギにも、
「郷に入っては郷に従え、と言うではないか。好意は喜んで受けな」
と釘を刺されていた。
六日目からは隣の赤劉城に足を伸ばした。
当然ながら一人での気ままな散歩が許される分けもなく、
侍女、宋純が付き添うことで外歩きが実現した。
初めて足を踏み入れた赤劉城の城構えには驚かされた。
本城は城郭の中央にこぢんまりと鎮座していたのだ。
「これで防御の役に立つのか」と疑問に思っていたら、
宋純が、「無位無冠ですから、派手には出来ないのですよ」と説明してくれた。
敷地の大半は商家、民家が軒を連ね、大いに賑わっていた。
その繁盛ぶりからすると、城の大小は問題ではないのかも知れない。
マリリンの事は直ぐに知れ渡った。
神樹の根元で素っ裸で寝ていた男としてではなく、「神樹の使わした者」として。
それから何日かは、マリリンが赤劉城に姿を現す度に大勢が野次馬として、
行くところ行くところに付きまとう始末。
五日もすると数が減ったので、マリリンは陶洪、陶涼の兄妹を外出に伴うことにした。
「たまには外の空気でも吸ってみようか」と。
二人は小さいながら館の使用人なので、自由に外に出られない境遇にあった。
誘いを喜ぶかと思いきや、兄妹は渋った。
「私が足手纏いになります」と陶涼。
「使用人なので勝手が利かない」というのもあるが、
それよりも目が見えないので遠慮したのだ。
そのくらいで諦めるマリリンではなかった。
強引に陶涼の手を引いた。
陶洪の、「マリリン様、やめてください」と叫ぶ声や、
陶涼の、「足手纏いになるだけです」との泣き出さんばかりの声は無視した。
付き添いの侍女の宋純はオロオロするばかり。
マリリンが陶涼を館の外に連れ出すと、陶洪も宋純も付いて来ざるを得なかった。
足の重そうな三人に、わざと明るく言う。
「咎めがあれば私が引き受けるわ。
だから今日は楽しくやりましょう」と。
こうして四人で赤劉城に入った。
マリリンは陶涼の手を優しく引いて案内した。
陶涼からも、進むに従い興味が湧いたようで、
それまでのオドオド感が消えてゆくのが分かった。
時には店内に入り、商いの声を聞かせもした。
兄の陶洪も観念したのか、子供心に戻ったのか、どうとも言えないが、
その足取りは軽くなっていた。
宋純にいたっては母親のような目で兄妹を見守っていた。
色々な店を周り、みんなが疲れた頃だった。
小間物屋を出たところで鋭い視線を浴びた。
物見高い野次馬達とは明らかに違っていた。
視線を向けなくても、目の端で相手を捉えた。
熊の如き大きさの男であった。
その体躯はこの城一番ではなかろうか。
顎髭と頬髭の立派さが目を引いた。
熊男はやがて関心を失ったのか、先を急いでいるのか、視界から消えた。
その熊男に引き合わされた。
館に戻っての夕食の席であった。
劉桂英が、
「洛陽から来た関羽殿だ」と、みんなに紹介した。
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