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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(劉家の人々)191

2012-12-12 20:36:20 | Weblog
 マリリンと関羽の立ち会いは明日の朝と決まった。
立会人は劉桂英と醇包の二人。
互いの武器は棍。
場所は館本邸の庭先。
 マリリンは軽い気持ちで自分の武技が関羽に通じるかどうか、
試したかっただけなのだが何故か、居合わせた者達が盛り上がってしまった。
醇包にいたっては、「どちらが勝っても遺恨は残さないこと」とまで言う始末。
 棍で立ち会うだけで、命の遣り取りをする分けではない。
単に棍による会話だ。
とはいうものの、心の片隅に、「関羽に勝ちたい」という気持ちがあるのも事実。
「平成に生まれて関羽と立ち会えるのは僥倖。それを活かさなくてどうする」
と自分に活を入れた。
 マリリンは夜のうちに棍に慣れようと、醇包より棍を借り受け、館本邸の庭先に出た。
夜稽古には打ってつけの植樹のない広々とした場所を見つけた。
月明かりを背に、その中央に立った。
 祖父より習い覚えたのは剣道だけではない。
榊家に伝わる判官流には棒術もあり、それもそれなりに教授されていた。
棍術と棒術に大きな違いはない。
日本では棒術。
中国では棍術。
合わせると棍棒の術。
 記憶を頼りに棍を扱う。
まずは借りた棍の感触に慣れることが肝要と、出鱈目気味に前後左右に振り回した。
棍の手触り、重さ、長さ、バランスを感じ取るのに、たいして時間は要さない。
 棍に慣れたので次は棒術で習い覚えた形稽古を始めた。
ボクシングで言うところのシャドーボクシングだ。
一人、あるいは複数の敵を想定し、正しい動作で戦いを演じる。
仮想敵と戦いながら技術の所作、趣旨を理解確認する。
 幾つもの演武の形を知っている分けではない。
剣道が主で、棒術等は補助的に教えられたにすぎないので、
キチンとマスターしているのは三つだけ。
 教えてくれた祖父が、
「形を沢山覚えれば良いという分けではない。
大切なのは形の意味を理解し、血肉とすることだ」
と言い、主要な三つの形のみを伝授してくれた。
その三つの形稽古を丁寧に繰り返した。
記憶を頼りに、身体に深く染み込ませようと。
 一つ一つの動作にも意味がある。
ゆっくり動く箇所。
普通に動く箇所。
目にも留まらぬ速さで動く箇所。緩急も要諦の一つ。
そして動きの中に含みもある。隠し技だ。
隠したままで演じる事はないのだが、知っていて困る事はない。
加えて、呼吸。吸う箇所、吐く箇所。
さらに足運び。
 それでも一つの形を済ませるのに三分から五分ほどは掛かる。
 軽く汗ばんだところで形稽古を切り上げようとした。
その時、自分を見ている視線に気付いた。
殺気も悪気も感じ取れない。
そちらをゆっくりと振り向いた。
 月明かりに朱郁が身を晒していた。
彼女は劉麗華の守り役なので顔を見知っていたが、親しく話した事はない。
「どうしたのですか」とマリリンは声をかけた。
 朱郁が二歩、三歩と前に出て来た。
「当主様に呼ばれた帰りです」
「もしかすると、明日の朝のことですか」
「ええ、場所の設営を任されました」
 マリリンは足下を見た。
「ここにするの」
「ええ、ここなら広さが充分ですからね」
「見物人も入れるのかな」
「いいえ、立ち入り禁止にします。煩いのは駄目だそうです」
「それは良かった。気が散らずにすむ」
 朱郁が疑問を口にした。
「今のは棍の練武とは分かるのですが、珍しい動きですよね。
どこの国の武芸なのですか」
 拙いところを見られてしまった。
「明日に備えて身体を練っているだけです」と答えるしかなかった。
これで誤魔化せるだろうか。
 朱郁が不審顔で、「そうでしたか」と。
深く追求せずに、軽く会釈して立ち去った。




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