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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(劉家の人々)192

2012-12-16 09:34:42 | Weblog
 朝の忙しなさが一段落したところで、
赤劉家の主立った者達が館本邸の庭先に現れた。
劉桂英と醇包は当然ながら、孫娘の麗華を含む方術修行中の姫五人、
館敷地内に居住する分家や家臣の手空きの者達も招かれていた。
 既に朱郁の設営により、広い空き地のような一角に陣幕が張り巡らされていた。
その内側に主立った者達の座席が用意されていたが、それだけでは足りなかった。
招いた分けではないが、女子供が詰めかけたのだ。
 朱郁が桂英の前に片膝ついて、問う。
「小煩い奴等を如何いたしますか。
なんなら追い払いますが」と女子供達を横目で見た。
 桂英は女子供達の目当てがマリリンにあると承知していた。
「神樹の使わした者」との評判もだが、それ以上に姿形、振る舞いが興味の的なのだ。
この田舎とは無縁の整った容貌は、女かと見紛ってしまう。
そして会話すれば穏やか。人当たりが良い。
髪を伸ばして女装させれば後宮にも入れるだろう。
今日は、そんな彼の武芸が見られる機会。
逃せる分けがない。
「邪魔にならぬなら許しましょう」
「それでは端の方に敷物を用意させます」
 すぐさま朱郁は自家の家臣を呼び寄せ、指示を下した。
 離れようとした朱郁に醇包が問う。
「お前はこの仕合をどう見る」
「どうと聞かれましても。
まず私は関羽殿の力量を知りません。
あの身体から判断するに、かなりの腕力だとは思いますが」
「そうだな。確かに腕力がありそうだ。
あの体躯で真上から太刀を振り下ろされたら、と思うだけで怖い。
・・・。
マリリン殿は如何見る。
このところ散歩に動き回る様子を観察したが、足運び、目配りに付け入る隙がなかった」
「私も観察した事がありまして、そう感じました。
それに昨夜ですが、この庭先で棍を振り回しておられました。
その時の様子から察するに、記憶は無くしても、身体が棍を覚えているのでは、と」
「関羽殿に、洛陽の武を教えてくれと挑んだ時も唐突だったな。
あれも身体が、本能が覚えていると理解すれば、納得がゆく。
強い奴と見れば突っかけたくなる。
見かけによらず無鉄砲な性格なのかも知れないな」
 桂英は二人の会話を聞きながら、自分の頭の中にある関羽とマリリンに肉付けをした。
まだ青年ながら、並外れた体躯を活かす為に顎髭、頬髭で威圧感を増している関羽。
これに力量が備わっていれば怖いものなしだろう。
 長身ながら柔らかそうな体躯のマリリン。
じっさい裸体を見たが、肉付きは鍛えた筋肉質ではなかった。
だからといって侮れない。
見かけだけの筋肉もあれば、柔らかくても実戦向きの肉付きもある。
必要とする時だけ、必要とする箇所が筋肉として最大の力を発揮するのだ。
マリリンの身体が棍を覚えているとすれば、その可能性が高い。
 それもだが、マリリンの体内に潜むモノの正体が今もって気に掛かる。
マリリンを拾ってきた麗華の証言もあった。
現れたのは、あの夜だけだったが、マリリンに宿っているのは確かだろう。
害意も悪意も感じ取れなかった。
だからといって聖なるモノでもなかった。
とにかく、桂英達の方術から発せられる気の質とは異種だが、強烈なモノであった。
それが今日、この仕合を切っ掛けにして再び現れないだろうか。
気懸かりだし、一方では待ち望む気持ちもあり、相反する感情で揺れ動いていた。
 陣幕内が静まるのを待っていたかのように、マリリンと関羽が現れた。
朱家の家臣の先導で、マリリンは右手から。関羽は左手から。 
それぞれが好みの太さ、長さの棍を片手に陣幕内の中央に歩み寄った。
 マリリンに黄色い声援が飛ぶ。
女子供という者は正直過ぎて場の雰囲気を壊してしまう。
これが決闘であれば、それらの者達を叩き出すのだが、今回は大目に見ることにした。
 マリリンは、黄色い声援など届いていないかのような、
静まった湖面を思わせる表情をしていた。
いつもの人当たりの良さはどこへやら。
獲物を狙う鋭い目で関羽を見据えていた。
長身ではあるが、関羽に比べると貧弱と表現しても良いような体躯である。
森の中で大きな熊に出会ってしまった少年に見えてしまう。
猟師でも関羽を一目見ただけで脱兎の如く逃げ出すだろう。
なのにマリリンは全く気後れしていない。
その依って立つ自信はどこから湧くのか。
 桂英は心の中で首を傾げた。
「マリリンの本質はどこにあるのか」と。
 対する関羽は泰然自若としていた。
戦いそのものに飽いているのか、相手を見下しているのか。
熱が全く感じ取れない。
 醇包が立ち上がって両者の間に入った。
「防具は」と双方に問う。
 二人とも防具をしていない。
「私は動きが鈍るので不要です」とマリリン。
「私も」と関羽。
 苦笑いしながら醇包が通告した。
「それなら頭への攻撃は禁止する。いいな」
 両者は桂英に一礼し、互いに一礼を交わすと左右に飛んだ。
子鹿のような軽やかさのマリリン。
重さを感じさせない大きな熊の関羽。
双方が棍を構えた。




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