おとといの16時ころ千春保育園に結と有希を迎えに行った。園の入口近くに緑に塗られた家があり目を見張った。玄関に黄色い球体が落ちていてすぐ杏と思った。
久しぶりに杏を見た。それも大きくてはちきれそうな上玉である。
酸っぱいかなとかじったら甘いこと。
火脹れのごとく熟みたる杏かな
饐えそめし至上の杏食らひけり
トマトなど市場に供給するものは完熟する前に取り時間の経過で熟させる。供給を考えればやむを得ぬ処置だが本当は完熟して木から自然に落ちたのが一番美味い。
熟れて落ち落ちて饐えゆく杏かな
杏は落ちてすぐ腐ってゆく足のはやい果物。ピークを過ぎるとたちまち腐る方向へ走る。
木に鴉落ちし杏に爺やの手
幸いその木に鴉が来なかった。奴はやや遠い大樹で鳴いている。彼らが知らぬ間に爺が拾うことにする。
落ちし杏食らひて笑まふ世の隅に
仕事しない老人は世の隅に楽しみを見つけるべし。老人がテレビなどに出て自分を主張しているのを見ると情けなくなる。もっと静かに生きられないのか。杏を拾って食べるくらいでいいのだ老人は。
杏もらふ福相の夫人より
5個ほど食べたがあまりにも美味かったので緑の家のドアを叩いた。もう少し頂こうと。幸福そうなご婦人が出てきて見知らぬ老人に応対してくれた。感謝する。
赤子泣く声に落ちたる杏かな
保育園もそばにありこの辺はまだ幼い子がいる。別に赤子がいようといまいと泣こうと泣くまいと杏は落ちるときが来れば落ちる。
老の手にまつたりなじむ杏かな
果実に触れるとき若い女性に触れるときのような禁忌の念が生じる。
杏食ひし手をべちやべちやと犬が舐む
いま家に犬がいる。長男の遺族3人と同居していて彼らが犬2匹も連れてきた。座敷犬であり、しょっちゅう手を舐められている。手のみならず人格じたいも舐められている。
前を向け杏の空に日が昇る
仰ぐたび大きくなりし杏かな
空があり地があり水があれば人はなんとか生きていかれる。戦火なきこと、家と食べ物があることを喜ぶべきだろう。なにはともあれ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます