天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

根岸操を鷹同人に推薦します

2024-09-01 00:01:45 | 俳句



鷹俳句会において新たに同人に推薦する季節になった。さて身近に該当する人がいるか……去年の今頃KBJ句会へ参加した根岸操(三鷹)がいた。去年、3句6回の基準を満たしたが中央の審査で落ちた。今年も基準を満たした(以下のように)。
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江の島へ伸しで泳ぎし父遠し
昼寝覚かたはらに本ちらかして
人ひとり通らぬ峡や田水沸く(10月号)

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白樫の大きな蔭や秋の風
誰も来ぬ遠縁の墓洗ひけり
坂のぼりきつて大学葛の花
近道を白粉花がふさぎけり(12月号)

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ひとふでに刷かれたる雲花すすき
棚のもの移して拭きて冬迎ふ
幾重にも轍に欅落葉かな(2月号)

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鳰かほを出す方をみて暮るる
幾重にも轍に欅落葉かな
寒晴や退院の子にビーフシチュー(3月号)

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読初や指にかさりとグラシン紙
薬喰ぽんぽん時計五つ鳴る
ささくれし箪笥だいじに冬籠(4月号)

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顔あげて見る老木の花高し
犬四手の大樹を仰ぐ四月かな
誘導の白馬ゆつたり風薫る(8月号)

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田起しの土の凸凹夕日射す
大き蛾の死のまつたいら石の上
自転車に空気たつぷり夏帽子(9月号)

お気づきのように、2月号に出した「幾重にも轍に欅落葉かな」を3月号にも出してしまっている。二重投句である。作者はこの過失をおおいに反省している。
よって4句1回、3句5回ということになる。
「江の島へ伸しで泳ぎし父遠し」は「推薦30句」(特)に入った。主宰が「秀句の風景」に以下のように書いている。
【小川軽舟評】伸しは日本の古式泳法の一つ。父は戦後の学校教育で水泳が普及する前から泳ぎが得意だったのだろう。海水浴に来た片瀬海岸の波打際ではしゃぐ家族を残し、父は江の島へ向かって悠然と泳ぎ始めた。「父遠し」にはたちまち岸から遠ざかる父への畏敬の念がある。それと同時に、「父遠し」は壮年の父の姿が記憶の彼方に遠ざかった感慨でもある。両者が重なることで「父遠し」に実感が籠る。
この句の他に小生が気に入ったのは、
鳰かほを出す方をみて暮るる
大き蛾の死のまつたいら石の上
誘導の白馬ゆつたり風薫る
薬喰ぽんぽん時計五つ鳴る
である。
「かほを出す方をみて暮るる」はどうということのない措辞だが冬の静謐な景色にゆとりを与えている。
「死のまつたいら」はよく見てズバッと言いきった潔さ。「ぽんぽん時計五つ鳴る」は「薬喰」にとって何の意味もないがこの季語をふくよかにしている。「誘導の白馬」は小生主導の東京競馬場吟行での一句。競走馬でない白馬をうまくとらえた。
根岸の句は総じて強くない。ときにただごとになるが、気負いのない書き方、自我をこれみよがしにしない姿勢は読み手を落ち着かせる。薄味ながら滋養のあるスープが根岸操である。
この記事をお読みになっている鷹同人の諸君、もし身近に同人に推す人が見当たらず、根岸の句風に賛同するならぜひ一票を。なにか自民党総裁選挙めいてきたな……よろしく。

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