天地わたるブログ

ほがらかに、おおらかに

直木賞荻原浩を読む

2016-08-26 04:31:07 | 

図書館の書架と書架の間を散策するのが好きである。
四、五日前、漫然と歩きながらホラーと恋愛と歴史以外のものを探していた。
最近特にはまっている作家がいないので自由きまま。テキトーに手に取ったのが荻原浩の『四度目の氷河期』であった。
最近直木賞を取った名前だがこの本の中身は何か。非現実的な表紙の絵にひかれた。

主人公・南山渉は母子家庭。父は死んだと聞かされたワタルは博物館でアイスマンを見てから自分の父がクロマニヨン人だと思い込む。
このへんが奇想天外でストーリーに引き込まれぐんぐん読んだ。先へ先へと駆り立てる技量がある。
やや多動性障害のあるワタルが成長していきやがて父を求めて寒い国へ旅立つ展開。
知り合ったサチとの恋物語もうきうきする。恋愛が入っていたがういういしいから許す。

こういうタイプの小説をドイツ文学ではEntwicklungsromanと習った。ゲーテの『ヴィルムマイスターの修行時代』が代表的なもので、主人公の精神的成長をテーマとする「発展小説」などと邦訳されているようである。
『四度目の氷河期』はまさに日本版Entwicklungsromanであった。

作品の成り立ちは大きくてリアリズムとファンタジーに分かれる。
荻原浩という人はファンタジー系。ロシアでワタルとサチが出会うのはかなりリアリズムを欠いているのだがぼくは許すことができた。
こういう甘さは荻原さんが拠って立つところであり、彼は向日性とユーモアを基調にしている。性善説に立ちマイルドにあたたかく人間を見られるのが彼の持ち味だろう。
スリリングな展開だが転落、悪意、破滅、死の方向へ話が行かず希望で高揚するところが味である。

クロマニヨン人というユニーク発想が本書の柱をなしていて堅固である。そうとう楽しめた。

2006年『あの日にドライブ』で第134回直木三十五賞候補。
2007年 『四度目の氷河期』で第136回直木三十五賞候補。
2008年 『愛しの座敷わらし』で第139回直木三十五賞候補。
2011年 『砂の王国』で第144回直木三十五賞候補。
2016年 - 『海の見える理髪店』で第155回直木三十五賞受賞。


4度直木賞候補になったうちの一つを読んだわけである。
このレベルの優れた作品が直木賞受賞作品も含めてまだ4冊もあると思うとうれしい。これからかなり楽しめそうな作家と遭遇したことになる。
コメント
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