サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 10464「それでも恋するバルセロナ」★★★★★★★☆☆☆

2010年06月20日 | 座布団シネマ:さ行

ウディ・アレン監督がスペインのバルセロナを舞台に、四角関係の恋愛を描くロマンチック・コメディー。二人のアメリカ人女性、そしてスペイン人の画家と彼の元妻が、各々の個性や恋愛観のもとに駆け引きを繰り広げる。『マッチポイント』『タロットカード殺人事件』に続きウディ監督作品でヒロインを演じるスカーレット・ヨハンソンのほか、スペインを代表する俳優のハビエル・バルデムとペネロペ・クルスが出演。魅力的な俳優陣に加え、街の風景にも酔いしれることができる。[もっと詳しく]

ヨハンソンはやっぱり、すごい女優さんになりつつあるね。

たった1回しか、ヨーロッパ旅行に行っていない。20代後半にバックパックでたった数十日。
ユーレイルパスを使った貧乏旅行で駆け足旅行でしかなかったが、そのなかで、一番印象に残っているのは、スペインかもしれない。
フランス国境にあるサン・セバスチャンから入った。まだバスク民族解放戦線の動きがきな臭い時だった。
そこからマドリッドに入ってそこを拠点として、グレコが活躍した古都トレドの旧市街や、カテドラルが並ぶサラマンカの旧市街をふらついた。
どちらもユネスコの自然遺産だが、もうひとつマドリッドからも近く自然遺産としても指定されており忘れがたいのはクエンカという町だった。
クエンカとは「川の盆地」という意味らしいが、歴史的な城壁都市であり、断崖の上に立つ「宙吊りの家」で名高い。ここにあるスペイン抽象美術館もなかなか印象的な建物で、すっかりくつろいでしまった。



そしてバレンシアに寄り、海外線を北上する形で、バルセロナに入りたっぷりとガウディに浸かった。
『それでも恋するバルセロナ』という作品を観ながら、たった2、3泊しかしなかったが、バルセロナの空気を思い出すことが出来た。
もちろん、ずっと後のバルセロナ・オリンピックの時に、この都市は嫌になるほどテレビを賑わせたし、ガウディの紹介とともにこの町の紀行やルポは限りなく多いのだが、それよりもこの映画のほうが、バルセロナという町の匂いを感じさせたのだ。
ちょっとうきうきする気分。それはたぶんジウリア・イ・ロス・テラリーニというスペインのPOP歌手がかろやかに謳っている主題歌のせいのように思う。
いつもいつも、ウディ・アレンの音楽センスには感心しきりだが、もしこの作品の記憶が薄れたとしても、この主題歌を聞けば、すぐに今回は二枚目男を演じているハビエル・パルデムと、その男に絡むスカーレット・ヨハンソン、レベッカ・ホール、ペネルペ・クルスの3人の女性たちの可笑しい恋の鞘当が浮かんでくることになる。



どれも素敵な女優さんたちだが、やっぱりスカーレット・ヨハンソンがいい演技をしている。
ウディ・アレン監督とも『マッチ・ポイント』(05年)、『タロット・カード殺人事件』(06年)に続いて、3作目ですっかり息が合っている。
スカーレット・ヨハンソンをはじめて見たのは、ロバート・レッドフォード監督の『モンタナの風に抱かれて』(98年)だった。
乗馬中の事故で足を切断した13歳の娘の役で出ていたのだが、レッドフォード扮するカウボーイの「見守り」で愛馬も娘も、瑕が癒えていく物語である。
この作品は、現在でも「ひきこもり」問題が浮上した時に、その「見守り」のあり方として、もっとも本質的な問題提起をしている作品ではないかと思うことがある。
それはさておき、この少女役のヨハンソンには強い印象を受けた。



ヨハンソン自身は8歳でオフ・ブロードウェイでデヴューし、映画としては10歳で『ノース小さな旅』という作品で映画デヴューしておりその後も10本ほどの映画に出ているようだが、僕は観ていない。
僕が見たのはソフィア・コッポラのデヴュー作でありアカデミー脚本賞をいきなりとった『ロスト・イン・トランスレーション』(03年)でTOKYOの街で一人ホテルで置いてきぼりを食う新妻を演じていた彼女だ。
からみはもちろん、ビル・マーレイで、でもヨハンソンはまだ撮影時には十代であったはずだが、堂々と渡り合っていた。
そして同年に『真珠の首飾りの少女』。17世紀オランダの天才画家フェルメールのモデルとなった少女を演じ、その後も日本でも大人気になったフェルメールの美術展で、ポスターなどにもなったあのちょっと振り返る少女の肖像画はもう実作なのかヨハンソンのモデル写真なのか、記憶の中で完全に溶け合ってしまっている。
『ママの遺したラブソング』(04年)では酔いどれの中年であるジョン・トラボルタと次第に友情を育んでいく多感な少女を演じ、05年にはオスカーワイルド原作の『理想の女』やユアン・マクレガーとの近未来SFである『アイランド』に出演、そしてこの年にウディ・アレンをぞっこんにさせて『マッチ・ポイント』の出演となったのだ。



その後、06年には2人のマジシャンの因縁の対決を描いた『プレステージ』や、エルロイの小説をデ・パルマが料理した『ブラック・ダリア』で冒頭からゾクっとするような高級娼婦を演じ、また『タロットカード殺人事件』ではウディ・アレンと組んでの2作目となるミステリーコメディでお茶目な女子学生の「ワトソン君」を演じている。この年には「世界で最もセクシーな女優」のトップにランクインもしている。
07年は『私がクマにキレた理由』というマンハッタンの派遣OLがその経験を基に描いたベストセラー小説「ティファニーで子育てを」を映画化した作品に主演したが、「素」のスカーレット・ヨハンゾンの自然体の演技が楽しめるという意味では僕が一番実は好きな作品だ。
08年にはこの『それでも恋するバルセロナ』の他に、『ブーリン家の姉妹』では16世紀のイギリスを舞台にヘンリー8世の寵愛を受ける姉妹役でナタリー・ポートマンと競っている。また一転して『ザ・スピリット』では、アメコミから抜け出た抱腹絶倒の奇妙な悪役を演じて楽しませてくれた。
09年には恋愛群像劇だが『そんな彼なら捨てちゃえば』で、これまたキュートな役柄を演じている。



こうして彼女の出演作品を思い返しながら、まだ26歳ぐらいなんだろうが、もうすっかり大女優という風格のあるスカーレット・ヨハンソンのあらためて魅力を考えたくもなる。
彼女は芸術一家に育っており、スカーレットという名前は、『風と共に去りぬ』のヒロインであるスカーレット・オハラからとられている。
歴史劇でも、悪女役でも、ちょっとした活劇でも活躍できる演技の幅の広さを持っているが、たぶんとてつもなく頭がいい子だと思う。
まあ、セクシー女優NO.1に対して、「頭がいい子」などという表現はどうかとおもうが(笑)。
化粧によってもちろん化けるが、素顔は典型的なハリウッド美人とはとても思えない。
また衣裳によってこれも化けるが、普通のお姉ちゃんのジーパン姿をした時など、そこらに転がっているちょっとコケテッシュなお姉ちゃんという印象がある。
でもセリフ回しというか、独特の間の取り方の自然性というか、それがもう天才的であると思う。
美貌に惚れてしまうというより、その勘所や頭のよさがすごいな、と思わされるところがある。
だから過去の出演作品のなかでも、コメディ・ライクなノリの作品の方が、僕は気に入っている。



もちろん、『それでも恋するバルセロナ』にはウディ・アレン特有の恋愛劇や、ペネロペ・クルスのさすがラテン系女性と思わせるキップのいい演技や、『ノー・カントリー』のおかっぱ頭演技など尋常ではない役どころばかり続いていたハビエル・バルデムが久しぶりに正統的なラテンの二枚目役でいい味を出していたなとか、劇中でヨハンソンがはまってしまう写真術のフレームカットがなかなかよくてこの写真集でも出版されれば手に取りたいなとか、やっぱりスパニッシュ・ギターには酔わせられてしまうな、とかいろいろ感想はある。
けれども、やっぱり冒頭のテーマソングとスペインのちょっとした思い出と、大好きなヨハンソンを観ることができればそれだけでいいや、という気になってしまうのである。

kimion20002000の関連レヴュー

マッチ・ポイント
真珠の首飾りの少女
ザ・スピリット


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6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
おばかも (sakurai)
2010-06-23 15:37:28
できちゃうのが、スカちゃんの裾野の広いとこでしょうね。
最近話題の「アイアンマン2」でも、いい感じで出ておりますよ。
新境地!!かも。
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sakuraiさん (kimion20002000)
2010-06-23 16:38:37
こんにちは。
おばかがいいですね。
「アイアンマン2」も、主役より彼女が楽しみです。
「ザ・スピリット」のおばかぶりも気に入ってます。
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弊記事へのTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2010-06-25 22:55:38
ビジネストリップでアジアとアメリカは色々行きましたが、(上司にチャンスを奪われて)欧州はないんですよね。
スペインか、良いなあ。(笑)

>スカーレット・ヨハンソン
注目すべき作品に次々出ていますね。
僕はその中で「モンタナの風に吹かれて」は凄く高く買っているんですよ。
その時は誰も彼女がこんな大物になるとは思っていなかったのでは?
「ザ・スピリット」はちょうど今WOWOWで放送中。録画して後で観ます。
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オカピーさん (kimion20002000)
2010-06-26 02:40:06
こんにちは。
「モンタナの風に吹かれて」では、別に天才子役ともなんとも騒がれていなかったし、本国ではどうかはしりませんが、「ロスト・イン・トラストレーション」でもいい雰囲気の若手女優だなぐらいにしか、僕は思っていなかったんですね。
それがあれよあれよ、という間に。
やっぱり、才能でしょうね。
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TBありがとうございました (maru♪)
2010-06-26 22:40:18
こんばんわ♪
最近gooの方にこちらからのTBが飛ばないみたいです。
URLも不正なリンクと言われてしまうので、コメントリンクも貼れません(涙)
コメントで失礼します。

スカちゃんいいですよね~ 色っぽいです!
演技はもちろん上手いのですが、自然ですごくいいです。
『アイアンマン2』のスカちゃんも色っぽいです♪
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maru♪さん (kimion20002000)
2010-06-27 00:56:54
gooさんには困ったものですが、変更するのも面倒くさいし。ご迷惑かけますが、こちらからも伺いますね。
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