サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

72日目「没後40年レオナール・フジタ展(上野の森美術館)」/上野

2008年11月14日 | 姪っ子メグとお出かけ
姪っ子メグ どうしたの、おじさん。プレス用の内見会の招待券なんか持っちゃって。
キミオン叔父 ふふふ。おばさんのおかげ。おばさんがあるメディアの編集の仕事をやっててさ、それで報道関係に対するプレスリリースの一環として、この内見会の案内が、おばさんの編集部にも来たってわけ。
フーン、そうなんだ。なんか、周りを見ても、美術・アート関係者や、記者らしき人が多いわね。おじさん、あんまりそんな感じに見えないから、今日はあたしが記者でおじさんはおつきということで(笑)
まあ、なんでもいいさ。でも、ちゃんとおばさんとの約束で、広報記事はオジサンの責任で書かなくちゃいけないんだからね。ところでメグは藤田嗣治というと、どんな印象持つの?
そうねぇ、まとまった藤田嗣治展は行ったことないのよ。でも、エコール・ドパリの寵児として持て囃されている頃、その頃の華やかしなりのパリでまだまだ無名だけど世界中から才能を持った若者が集まって、そこからピカソやモジリアーニやルソーやユトリロやシャガールやローランサンやキスリングや・・・数え切れない人が出てきて、そのなかにフジタもいたのよね。だから、その頃のパリ派の企画展では、いつも数点のフジタは見てたわね。
だね。結構、自画像書く人だったじゃない。写真も残ってるけどさ。おかっぱ頭で、ロイド眼鏡、チョビ髭して、あのぎょろぎょろした目で、猫ちゃんを脇に遊ばせて・・・というイメージかな。
うん。なんかお洋服もしゃれててさ、モンパルナスとかモンマルトルのカフェに出入りしてたんだろうけど、ボヘミアンって感じよね。
パリに渡ったのが1912年なんだけどね。特に初期は、あのモジリアーニと親交が深かったようだよ。で、エコール・ド・パリ華やかなりし1920年代には、もうなくてはならない画家の一人になってたんだね。



いやぁ、今回の企画は、とっても狙いがはっきりしていて、いい構成だったわね。企画・構成は北海道立近代美術館らしいけど、その学芸員の方が来ていらっしゃって、今回の企画展の意図を、明確に作品の前で解説してくださったしね。
目玉になるのがひとつは幻の群像画が発見され、ちゃんと修復されて、展示されたことだよな。びっくりしたよ。群像大作4点は「ライオンのいる構図」「犬のいる構図」で一対、「争闘1」「争闘2」で一対。一組が3m×6mだから、圧巻だよね。しかも、1928年の制作だとされるけど、それから60年ぐらい行方がわからなくなっていたんだよね。
もうひとつ「馬とライオン」という大作も、これは途上のデッサンかもしれない単色画だけど、世界初公開になるらしいわよ。フジタといえば猫だけど、この猫の屏風に水彩で書かれた作品も、惹きつけられたわ。
「素晴らしき乳白色の地」と絶賛されたフジタの裸婦像を中心とした時代が鮮烈だったしね。デッザン力は素晴らしいわけだけど、やっぱりルネサンス時代の壁画のような大きな題材に、挑戦したかったのかもしれない。この群像図を書き上げて、フジタは「成功者」として、意気軒昂と日本に「錦の御旗」をかかげて凱旋することになるんだな。でも、時代は戦争の色が濃くなっている。ここでフジタは軍国画の方向に入ることになる。まあ、ほとんどの画家がそうせざるを得ない時代だったんだろうけど。で、戦後に、軍への協力者として、同じ画家仲間からチクられるんだな。このことに絶望して、フジタは日本を逃げるようにして、パリに戻る。
その2回目の訪仏から、今回の企画展のもうひとつの大きな目玉であるカトリックへの改宗になってくるのね。フジタは晩年をパリの喧騒から離れたエソンヌ県ヴィリエ=デ=バクルの小さなアトリエに居を構えて、静かな生活を送ることになるのね。今回の展示会では、そのアトリエを実際にフジタが使用していた生活用具や美術道具を持ち込んでのアトリエ再現をしていたのね。
手先が器用な人なんだねぇ。家具や食器、小物、人形なんかを手作りしてるんだ。ミシンも置いてあったね。木の小箱とかが、可愛いのなんの。
自分のアトリエのミニチュアをすべて手作りで再現してたじゃないの。子どものいなかったフジタだけど、村の子どもたちとも親しい関係を持って、フジタの理想の「こども」像を、多く残してもいるわね。どこか、ファンタジーめいたあるいは悪戯天使のような・・・。
最晩年には、君代夫人とともにカトリックに改宗している。名前もレオナール・フジタに改名してね、そして宗教画をひたすら書くようになる。
おじさん、「イブ」の連作を喰いいるように見てたわね。
ああ、あんな美しいイブは、僕はたぶんはじめて見るな。
そんなフジタに依頼が来たのが、ランスの「平和聖母礼拝堂」の仕事。ここに、生前のフジタのすべての技法を注ぎ込んだのね。あのステンドグラスの美しさといったら・・・。
今回の企画展の構成は見事だけど、なにより線描に定評のあるフジタのデッサンを数多く展示していたのは良かったね。美術学生なんかには、すごい刺激になると思うな。
それに、プレス用にいただいた展示会カタログなんだけど、市販されるかどうか知らないけど、すごくいい出来ね。
ああ、これはベタ褒めしてもいいな。とにかく、きちんと資料にあたるとともに、適切な解題が加えられている。なんか、話題作を大宣伝してさ、高いお金とってさ、人の頭しか見えない大展示会ってここ上野公園内の美術館でも多いけどさ、今回の「レオナール・フジタ展」は自信を持って、おすすめだね。
おじさん、ベタ褒めだけど、プレス用の招待状もらったんで、ヨイショし過ぎてない?これは、メディアじゃなくて、私的なブログなのに(笑)。

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2 コメント

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フジタ展見ました (ほんやら堂)
2008-11-16 19:07:37
kimion20002000様,今晩は

レオナール・フジタ展は,11月9日まで宇都宮美術館でやっておりました.
住まいが,この森の中の美術館から歩いて5分ほど所なので,先日見てきた次第です.

仰有るとおり「争闘」「構図」の4作品と晩年の宗教画が印象的でした.
特に後者は極めてモダンで,現在の本邦のアニメ作品の造形にも通じるようなイメージを感じました.

平和聖母礼拝堂のフレスコ画は是非見てみたいです.
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ほんやら堂さん (kimion20002000)
2008-11-16 20:21:23
こんにちは。
ああ、宇都宮が先立ったんですね。

>平和聖母礼拝堂のフレスコ画は是非見てみたいです.

ですねェ。また、フランスに行くことができれば、ぜひあの小さなつつましやかな礼拝堂を見たいものです。
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