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夜のピクニック

2009年02月12日 | 本・映画・音楽レビュー
3年ほど前だろうか。
恵比寿の行きつけのダーツバーの店員と話をしている時に、しきりに恩田陸の「夜のピクニック」を薦められた。酒の場の話しでもあったことから適当に聞き流していた。

そして3年の歳月を経て、たまたま「夜のピクニック」が手に入った。

「そういえばあのときしきりに薦められたな・・・」



「夜のピクニック」は高校生が夜を徹して80キロを歩き通すという話だ。
それだけ。
以上。

おいおい、そんな題材で最後まで話が持つのかよ・・・なんて思いながらも、読んでみると意外と面白い。想いの外ヘビーな題材が織り込まれているくせにタッチが柔らかい。かと言いつつ、ダラダラ話が続くわけではなく、メリハリはしっかりしているし、ジェットコースター的な展開もある。だけれどもあくまでソフト。

イメージ的には「3月」といったところか。
もうほぼ春なんだけれども、たまに木枯らしがふいて「うー、ちべてー」と思わずこぼしてしまう感覚。

例えが分かりにくいか。



それにしてもなんなんだ、この不思議な感じの本・・・あ、そういえば似たような作品、昔読んだことあるな。

あ、そうか。完全に忘れていたけど、恩田陸の「光の帝国―常野物語」や「ネバーランド」あたりは過去に読んだことあったな。あー、なるほどね、確かに雰囲気は似てるわな。

そういえば「ヘビーな題材を扱いながらもソフトタッチ」と言えば、伊坂幸太郎もそんな感じなのかな。「重力ピエロ」とか。だけど、伊坂幸太郎は「異常」をふんわりと描きあげるタイプだな・・・その点、恩田陸は「異常」を「日常の中にあるちょっとしたイベント」として描いてるんだろうな。

ピーマンを例にとるならば、伊坂幸太郎は笑顔で「大丈夫だよー、ほら、ピーマンおいしいよー」と言いながら、ムリヤリ生のままピーマンを食べさせようとする。一方で、恩田陸はピーマンをみじん切りにしてハンバーグに混ぜてくれる感じだろうか。

だから、伊坂幸太郎は読んでて息が詰まりそうになるときがあるけど、恩田陸は読みやすい、なんだか暖かい気持ちになる。

例えが分かりにくいか。



それにしても、文調がソフトなのはいいけれども、読んでいてイチイチ何かが引っかかる。何でそう思うのかが分からなかったのだけれども、ふとした部分でその胸のつっかえが何か分かった。

(本文抜粋)

「あえて雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは痛いほど分かるけどさ。もちろん、おまえのそういうところ、俺は尊敬してる。だけどさ、雑音だって、おまえを作ってるんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あの時聞いておけばよかったって後悔する日が来ると思う」

(中略)

「その雑音っていうのは、女か?女とつきあえってこと?」

「うーん、分からない。その一つかもしれないけど、全部じゃない」

「俺はどうすればいいんだ?」

「どうしろとは言わないけど、もっとぐちゃぐちゃしてほしいんだよな」

「今だって結構ぐちゃぐちゃしてるけどな、俺」

「だから、もっとさ」

「もっとぐちゃぐちゃ、ねぇ」


実はこれ、齢30近くにして最近気になっていたことだったりしたのだ。

なんというか「壁を感じる」とは昔から言われ続けていた。
例えば「冷たい」だとか「クール」だとか「私と一緒にいても楽しそうじゃない」とか。
本人としてはそんなつもりは一切無いのだけれども。
いずれにしても、そういう事実なのか誤解なのかをずっと抱えながら生きてきた。



で、もうすぐ30歳。
何かと過去を振り返る機会が多い。

「あんなこともあった、こんなこともあった」

そんな色々な過去を振り返りながら、思い出を整理して、捨てて、梱包して、大事な物を30代に持っていくという、なんというか「引越し」みたいなことを最近よくしていたのだけれども、そんな梱包作業中に、ふとあることに気付いたのだ。

「あぁ、俺って、素直じゃなくて、意固地で、プライドが高いチッポケな人間なんだろうな」と。



なんでこんなことになってしまったのか。
思い当たる点はいくつかある。

例えば、小学生のときにいきなりオーストラリアの現地校に放り込まれて、自分が日本人であり、それが「異質な存在」であるということに気付かされたこと。高校生のときに帰国しても、同様に「異質」扱いされたこと。会社に入ってからも、上司やらお客やら外人やらとやたらと衝突をしてしまったこと。

こういうイベントがきっかけで、無意識のうちに高い壁を作ってしまい、さらに壁の内側で殻に閉じ篭って防衛線を張り続けていたんじゃないのか。雑音には耳を傾けないで、ひたすらその時が過ぎ去るのを待っていたんじゃないか。本当はもっとぐちゃぐちゃになるべきだったんじゃないか。

まぁ、状況的に仕方ないと言えば仕方ないけど・・・なんかちょっと寂しいよな、20代の最後の最後で気付くなんて。テープはもう・・・巻き戻らないよなぁ。



ただ、幸いなことに「夜のピクニック」はそんな自分に救いの手を差し伸べてくれた・・・というか、藁をもすがる自分に藁を放り投げてくれたといったところか。助けてはくれないけれども、まぁ、ヒントはあげるからそこからは自分でどうにかしなさいと。

例えが分かりにくいか。

まぁ、そういうわけで、もし同世代で同じような悩みを抱えている人がいらっしゃるようであれば、恩田陸の「夜のピクニック」は是非ともオススメなので、機会があればアレをナニしてみてください。

コメント (3)
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