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ブログ的なアレです。

天衣無縫

2007年01月11日 | なんとなくアレなやつ
昭和十一年八月のことである。
横浜からサンフランシスコに向かう大洋丸の甲板で、辰巳栄一は不思議な日本人と知り合いになった。辰巳栄一は帝国陸軍の軍人である。その軍人に向かって軍部の悪口をずけずけと言う。
「軍人は戦争のことだけ考えてりゃいいじゃないか。軍が政治や経済にまで口出すなんていうのはどんでもない話だ」
男は日本人ばなれのした風貌、一メートル八十センチを越す長身、右側の上唇をややつり上げて大きな声で思っていることをまくしたてる。三十四、五歳か。言葉は乱暴だが、目は澄んでいて微塵も悪意が感じられない。彼はその年の二月に起きた皇道派青年将校の暴走(二・二六事件)にしんから怒っているようであった。辰巳はこの男はただものではないと直感した。男の名は白州次郎といった。




見た目はさしずめ上品なジェームスディーンといったところだろうか。

その性格は、粗暴で、ワガママで、子供じみている。
しかしながら、その本質は理路整然とした知識人。
その溢れんばかりの知性を持って、誰とでもガチンコベタ足インファイトで戦い続ける。
相手がマッカーサーだろうが吉田茂だろうが、自分の筋は絶対に曲げずに自分を貫き通す。
「ウルセー!黙れ、バカヤロー!」なんて言葉が聞こえてきそうなぐらいに。

そんな白州次郎。
死に際もアッパレだった。

遺言により、葬式は行わず、遺族だけが集まって酒盛りをした。彼は葬式が嫌いで、知りもしない人たちが、お義理で来るのがいやだ、もし背いたら、化けて出るぞ、といつもいっていた。そういうことは書いておかないと、世間が承知しないというと、しぶしぶしたためたのが「葬式無用 戒名不用」の二行だけである。

こんなにも子供でワガママで素直で真っ直ぐで純粋で。

自分もこうなりたいッスね、ホントに。

<出典:風の男白州次郎 青柳恵介著

コメント (2)
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