世なおしは食なおし/東北食べる通信イベントレポート】
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自分は生産者さんでも、料理人でもないけれど、食にまつわることに対し、なぜ関わっていきたいかというと、生きることのベースにあることだから。つまり、良くも悪くも、積み重なっていくことだから。
歴史を知り、背景を知り、作り手を知り、味の仕組みを知ってゆけば、それは一生を通して日に三度、蓄積の機会があるということになる。積み重ねるほど、自分の体はもちろん、喜ぶ人は増える、増える。逆に、それをおろそかにしてゆけば、マイナス側に積み重なり、結果、体に悪い影響をもたらしたりする。悲しむ人も増える。食べることは死ぬまで続くことだから、圧倒的に前者でいたい。そう思うのです。
「世なおしは食なおし」のコンセプトに賛同し、参加するようになったイベントのレポートを書かせていただきました。時間は少しかかるけど、心からうまい!と言えるソースの作り方も書いてますので、転載します。連休にぜひ!
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【第9回 松嶋啓介×東北食べる通信コラボ料理教室レポート 】
前日からの雨も止み、お陰で緑の薫りが深くなった原宿の杜で、第9回となる「松嶋 啓介松嶋 啓介 (Keisuke Matsushima)×東北食べる通信コラボ料理教室」が開催されました。急遽欠席となってしまった高橋 博之 (Hiroyuki Takahashi)編集長の代打は食べる通信リーグ、Akie Kudo工藤さん。
「第一回目がちょうど一年前の今日で、私、ニートだったんですよー」そんな工藤さんも、今ではすっかり食べる通信リーグの顔。この料理教室も、1年続いて来たことになるんですね。
今回の素材はいわて山形村の短角牛。読者の方にはファンも多いという、柿木畜産さんのもの。
昔、物資輸送で活躍していた南部牛に交配・品種改良を行い誕生した牛であることや、飼料も国産にこだわっており、臭みがなく力強い赤身の旨みが多いこと等、松嶋シェフのデモンストレーションが始まる前に、CSA会員でもある参加者の方がその魅力を語ってくださいました。
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素材の説明を受けてから、いよいよ料理教室の始まりです。「この基準が分かっていれば、家庭でも簡単に焼けますよ」と、片手を上げる松嶋シェフ。人差し指と親指で輪を作り、もう片方の手の人差し指で、親指の付け根の下のふくらみを、ぐいっと押します。
「人差し指からレア、中指がミディアム…」小指に向かうにつれ、硬くなる、つまり火がよく入った状態になるそうです。「それを確かめながら火を入れていくといいんです」参加者一同、自分の手で試してみます。
今回の材料は
・短角牛…360g
<<ソースピサラディエール>>
・玉ねぎ…3コ
・チキンブイヨン…500cc
・アンチョビ…2本
・タイム…1本
・オリーブ…10コ
まずはソース。
時間の関係から玉ねぎをくし切りに、半分量ずつ2つの鍋で炒めてゆきます。こうすることで、限られた料理教室の時間を有効に使えます。玉ねぎは細胞を潰さないように、包丁の特性を活かしてスッ、スッと切ってゆきます。
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加熱の最初には「魔法のおまじない」、ひとつまみの塩をします。これは味をつけるためでなく、素材本来の味を引き出すため、とのこと。これ、ラタトゥイユでもそうなんですが、本当に美味しくなるんです。
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素材の背景や、料理の歴史の講話を聞けるのも、この料理教室の醍醐味。
「イタリア、で連想される食材はピザもパスタも“トマト”だと思うのですが、それは1800年後半になってからのこと。ニースにはピサラディエールという(今日のソース)ピザがあるのですが、それは炒めた玉ねぎをトッピングにオリーブ、アンチョビ、タイムを乗せたもので、チーズもトマトもない。ニースへのつながりを感じさせるローマの味には、玉ねぎのうま味がベースにあったんです。玉ねぎ、オリーブはグルタミン酸、アンチョビはイノシン酸。ひとつの皿の中に、どう、うま味の相乗効果を産むかを考えることが大切です」
歴史背景とうま味の構造を知ることで、目の前で炒められていく玉ねぎと、その横で出番を待つ材料が、なおさら美味しそうに感じられます。
じっくりと、玉ねぎを甘苦いキャラメル状にしてゆきます。こうすることで玉ねぎのうま味、グルタミン酸を凝縮してゆきます。
「苦味は、味の骨格になるんです。人間も一緒です。苦い経験は、人を骨太にします」
甘い、苦い、酸っぱい、しょっぱい…これらは4基本味というそうですが、これら全て、生活の中でも使う言葉ですね。甘い経験、辛い思い…幼少期にこういったことを分かってもらうことが大切です、と松嶋シェフはおっしゃいます。料理は、ゆくゆくの人格形成のベースになると。
飴色になってきたところで、チキンブイヨンを注ぎます。「作ることが苦になってはいけないので、こういうものは、上手く使ってくださいね」時間の関係もあるので、今回はマギーの無添加コンソメを使って。ここでコンソメのイノシン酸に、玉ねぎのグルタミン酸のうま味を“アンフュゼ”(移すために)するため10分くらい、お茶のように炊いていきます。動物性と植物性のうま味の相乗効果。カツオと昆布が良い相性であるように。煮詰めると、野菜のペクチンのおかげで濃度がでるそうです。
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さて、肉を焼きにかかります。肉はシャンブル、といって「部屋の温度」に。なぜなら、中が冷たいままだと、火が通っていかないからです。炒った、手離れの良い塩を満遍なく打ってゆきます。この時、左手で影を作ると、塩の量が把握できます。
家庭でのことを考えて、オーブンは使わず、フライパンのみでの実演。皮付きのまま、手で潰したにんにくとオリーブオイルをフライパンへ。強火すぎると中までで火が入らないので、中火と弱火で。強く焼きすぎてしまうと、お肉のアミノ酸が飛んでしまい、焼き味はつくけれど、肉本来の味がしないとのこと。中火から弱火でチリチリと焼くのがポイントだそうです。
その間に、ソースも仕上げてゆきます。できれば30分くらい、とおっしゃっていましたが、飴色の玉ねぎのうま味が溶け出たブイヨンは、それだけですでに美味しそうで、一同からため息がこぼれます。
「わざと甘苦くして、出汁に素材の味をうつすと、ホッとした味になるんです。」
飴色の玉ねぎからのうま味がたっぷり移ったソースを、ざるで漉してゆきます。「作業の“意味”がわかると、素材の味に出会えるんです。そうやって、季節や土地勘を体に刻み込む。なかなか都会だと難しいかもしれませんが、季節と共に生きれば、将来認知症にもならないですよ」過剰に味付けされたものが多い昨今、家庭の、その土地の、ほっとする味の重要性を松嶋シェフは説かれます。
ルーツある土地や、巡った土地、気に入った土地の味を知ること。その大切さ。東北食べる通信高橋編集長と、こうして1年間続けてこられたのはきっと、同じ思想が根底にあるからでしょう。
肉は片面は8分くらいゆっくり焼き、最後に焼いた面を上にして、バットにあげ、アルミホイルで包んで休ませます。落ち着かせることで、熱がしっかりと対流し、切ってもうま味のもとである肉汁が出ないそう。そして、肉を焼いていたフライパンに水を少し入れ、火にかけます。焼き味をこそげてソースの中へ。バットのドリップも一緒に入れてしまいます。こうすると、牛牛しいソースになると。最初500mlあった水分がなんと100mlちょっとに…これは、うま味が凝縮されているということですよね?贅沢!!
最後、タイムは茎から葉っぱのみ取り、ソースに入れ少し煮込みます。アンチョビは斜めに切って、塩気が強くなってしまうので煮込まず、火からおろしたくらいのタイミングで、仕上げに。
「今日は何を伝えようか?と思ったのですが、“もともとを見直す”ということが伝えられたかな、と思います」と松嶋シェフ。
普段から 料理は、コンセプト・ロジック・ディテールとおっしゃっていますが、今回も料理のレシピや手順だけでなくちゃんと「メッセージ」まで、受け取らせていただきました。
「栄養だけじゃなく、教養もね」
オヤジギャクっぽい一言の中にはいつも、人に対する優しさと、食に対する使命感を感じさせてくださいます。
デモンストレーションの短角牛とソースピサラディエールを一口いただき、その肉の牛牛しいうま味とローマをルーツにもつニースの味を舌で、心で味わってから、その後は、お腹を鳴らしながら別室へ。
みなさんあまりご存知ないかもしれませんが、この料理教室は終わった後にその日の料理をメインにした、コースが付いてくるのです!
今回は
・コンソメロワイアル ブロッコーリのピューレと春のグリンピース
・ニース風サラダ 赤パプリカのソースと乾燥黒オリーブ
・ラタトゥイユ
・短角牛とソースピサラディエールとひよこ豆のフライ
・バナナとライムのアイスとココナッツのシャーベット
パンションフルーツのソース
に加えてスパークリングと赤白ワインとコーヒーまで…。
レポートのたび、複雑な気持ちになるんです。本当に、広く知ってほしいけど、すぐ満員になっちゃうんじゃないか!?と…。
初参加の方も多かったのですが、皆食べる通信の話でも盛り上がり、あっという間の3時間。体への栄養はもちろんのこと、頭にも心にも、しっかり教養が染み渡った1日でした。
松嶋シェフ、東北食べる通信スタッフのみなさん、そして何より生産者さん、今回もごちそうさまでした!!次回も楽しみにしております。
以上、ご参加されてない方のご参考になれば幸いです。
また、ご参加された方、ぜひ復習してみましょうね!早速僕も、やってみました。玉ねぎをじっくり炒める間、教わったことを反芻しながら…。おかげで美味しくできました!今度はちゃんと、短角牛でチャレンジしてみたいです。