今日のうた

思いつくままに書いています

クララとお日さま

2021-08-21 16:22:07 | ③好きな歌と句と詩とことばと
カズオ・イシグロ著『クララとお日さま』を読む。

私が住んでいる場所には高いビルも山もない。
畑道を行くと360度空が見える。
早朝散歩に出ると、空はまるでキャンバスのように様々な形や色彩を
見せてくれる。雲の下に片脚の虹が見えていたりする。

真正面からお日さまが差すと、まぶしくて前が見えない。
歩く方向を変える時は背中のリュックを外す。
そして背骨にもお日さまが届くようにする。
太極拳の先生に「朝日は体にいいのよ」と言われてからは、
朝日をたっぷり浴びると体が喜んでいるように感じる。
いつだってお日さまは元気の源だ。

この小説でもお日さまが重要な役割を担っている。
AIを搭載したロボット・クララは病弱な少女・ジョジ―のAF(人工親友)
として買われていく。
家にいることの多いジョジ―にとって、クララは大切な友だちだ。
ジョジ―の母親の次の言葉からもそれが窺える。

「子供って、ときどき残酷よね。大人相手なら、何をやったって
 相手は傷つかないと思っている。それでも、あなたが来て
 くれてからは少しは成長したわ。昔より他人を思いやれるように
 なってる」               (引用ここまで)

クララはお日さまから特別な栄養をもらって生きている。
そしてお日さまを、ほとんど信仰の対象のように崇拝している。
ジョジ―の体が衰えていった時に、お日さまに助けを求めたのは
当然のことだ。
クララの奮闘があり、ジョジ―は病が癒えてゆく。

私は小説の細部に納得できない描写があると、そこからは
読んでいても白けたものになってしまう。
だがこの小説は十分に練られた言葉で丁寧に描かれている。
丁寧に描かれた小説を丁寧に読む楽しみを、この小説は
教えてくれる。
饒舌に語ることなく余韻を残した品のある終わり方で、
この小説が忘れられないものになった。

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