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今日のうた

思いつくままに書いています

ロング、ロングバケーション & 春との旅

2021-05-23 17:16:42 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
コロナで死が一歩近づいたように感じるこの頃、
借りる映画も老いを扱ったものが多くなった。
だからと言って死を真正面から扱った映画は、今は観たくない。

①ロング、ロングバケーション(原題はThe Leisure Seeker)
leisureの原義は、好きなように行動する自由が認められている。
バケーションよりもleisureの方が映画に合っている。
ハリウッド映画の名優、ヘレン・ミレンとドナルド・サザーランドが
夫婦役で出ているのでアメリカ映画と思ったら、イタリア映画だった。
全身に散らばったガンを患う妻と、アルツハイマーで記憶が飛ぶ夫。
子どもたちはそれぞれに入院と施設を進めるが、そんなものくそ食らえ
とばかりにキャンピングカーで自由に生きることを選ぶ。

自由はもちろん責任が伴う。
夫はおもらしをするし、すぐに居なくなる。
妻のことも忘れるし、昔の恋人の名前で呼んだりする。
車はパンクするし、レスキューを待っていれば強盗にだって遭う。
その度に、妻は独り言のように怒りや罵りの言葉を発する。
こうすることで、気持ちを整えているのだろう。

冒険の楽しみもいっぱいだ。知らない人と自分たち家族の
昔の幻灯(8ミリ?)を観たり、夫の教え子と出会ったり、
たまにはホテルに泊まって二人でワインやダンスを楽しんだりする。
今は手を煩わす夫だが、永い年月、夫を尊敬し愛してきたのだろう。
ヘレン・ミレンの、何が起きても笑い飛ばす強さ、軽やかさ、
賢さ、逞しさ、そして愛情深さに惚れ惚れした。
笑いながら観ているうちにしっかり心に刻まれる、まさに職人芸を
見る思いだ。ジャニス・ジョプリンの曲(Me & Bobby McGee)がいい。
自由でいたけりゃ責任が伴う。このことをしっかり心に刻み付けた。

②春との旅
こちらは日本のどこにでもいる、仕事は出来ても一人では生きられない
男の物語だ。
原作・脚本・監督小林政広。仲代達矢演じるおじいさんは漁師をして
いたが、今は足が少し不自由で、二十歳の孫の世話になっている。
妻は病死、娘は自死、孫は学校が廃校になり給食の職を失う。
孫の自立を妨げるおじいさん。見ていてイライラする。
自分の面倒を看てくれる兄弟を探して、孫とおじいさんの
旅が始まる。孫役の徳永えりがいい。

メーキングビデオの中で、監督は次のように語っている。
「スタッフをはじめ、役者にやさしくしてはダメだ。
 やさしくすると役者がダメになる」
突き放し、遠くから見守る。徳永は暗闇の中、朝まで一人で海を
見ているように命じられる。
誰も助けてはくれない。頼れるのは自分だけ。
こうした環境の中で、彼女は成長していったようだ。
いい監督に出会うことは、役者冥利に尽きるだろう。

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岸辺のアルバム

2021-05-04 09:28:27 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
「Cats Howling」で、金平さんが「岸辺のアルバム」について語っていた。
1977年にTBSで放送された連続ドラマだが、急に観たくなった。

当時は録画機器がなく、ところどころを観ていたように思う。
印象に残っているのは、初回八千草薫がお風呂を掃除しているシーン
(今、観直すとかなりセクシーで驚く)や、一人でテレビを観ながら
鮭をおかずにお昼を食べているシーンだ。
「専業主婦って孤独だな」と、初めての子が生まれ、てんやわんやの
私には強く心に残った。

今は便利だ。1話から15話までDVDを借りることができる。
(YOU TUBEで観られます)
画質が良く、古びていないどころか内容が瑞々しい。
眼のために少しずつ借りるつもりが、面白くて次々と借りてしまった。
1974年に起きた多摩川水害が背景にあるが、その3年後に作られた。
番組の冒頭にその時のニュース映像が流れる。
そしてジャニス・イアンの「ウィル・ユー・ダンス」の曲と共に、
緑におおわれた岸辺へと変わっていく。この展開は見事だ。

原作・脚本は山田太一、プロデューサーは堀川敦厚(とんこう)。
演出は鴨下信一(2021年2月10日にお亡くなりになりました)を
はじめ3人が担当している。
川沿いに住む4人家族の物語だが、彼らの生活には常に
多摩川と小田急線がある。
川のせせらぎ、子どもたちの水遊び、釣り人、焚火をする人、
ボート遊びや土手を散策をする人。
時間により季節により、川は趣を変えてゆく。そして電車の音。
当時、私鉄沿線にマイホームを持つことは夢だった。

生活に根差した脚本が素晴らしい。手のしぐさ、視線の動き、
掃除機のコードを引っぱる時に見せる心の揺蕩(たゆた)い、
こうしたことを丁寧に描いている。
まさにドラマ作りのバイブルだと思う。
特に鴨下信一演出の時の、八千草薫の可愛らしさ、ちょっとした
仕草に垣間見える控えめな色気が好きだ。
見ているだけで爽やかな風が吹いてくるような気品。
いくつになっても若さや美貌に固執する女優もいるが、
私は八千草薫の自然体の美しさが好きだ。

その他にも24時間戦っている夫の労働環境の悪さや、会社が
立ち行かなくなると、武器の売買や人身売買のようなことにまで
手を染めようとする会社の体質。(この体質は今も変わらない。)
そして70年代は今よりも、アメリカ人による
日本人蔑視があったのだろう。
家庭内の問題だけではなく、こうした社会問題を扱っていて、
44年経った今も決して色褪せず、よくぞこんなドラマが
作れたものだと思う。

最終回は当時の多摩川本堤防決壊の映像を交え、
まるでドキュメンタリーのようで、水の力に言葉を失う。
そして渦巻く濁流の上をゆく電車。
総力をあげて本気で作ったドラマに、涙が止まらなくなった。

現在のように規律にがんじがらめにされることなく、
自由に作りたいドラマを作っているように感じた。
当時の方が、自由に良質なドラマが作れる時代だったのだろう。
人間はもしかして、退化しているのかもしれない。

最近、このドラマに出演している風吹ジュンと国広富之を観る
機会があった。風吹ジュンは映画「浅田家!」に出ていた。
この映画では黒木華が日本アカデミー賞の最優秀助演女優賞を
受賞しているが、もし彼女が出演していなかったら、
風吹ジュンが優秀助演女優賞を受賞したのでは、と個人的には思った。
国広富之はNHKのドラマ「今ここにある危機とぼくの好感度について」で
気の弱い上田教授役を演じている。

鴨下信一、堀川敦厚、八千草薫、杉浦直樹、津川雅彦、竹脇無我が
お亡くなりになっている。
44年の年月を思った。              (敬称略)

追記1
「今ここにある危機とぼくの好感度について」は、「ジョゼと虎と魚たち」
の渡辺あやが脚本を担当している。
この脚本が抜群にいい。ドラマだとここまで言えるのか!と感心してしまう。
そして毎回、あの人を想像して笑ってしまう。あと2回が楽しみだ。
(2021年5月11日 記)

追記2
2023年11月29日に山田太一さんがお亡くなりになりました。
ご冥福をお祈りいたします。
これからゆっくり山田さんが遺された作品を観ていこうと思います。
(2023年12月2日 記)

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Cats Howling (ねこたちの遠吠え)

2021-04-24 09:31:13 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
私は金平茂紀(かねひらしげのり)さんの動画「Cats Howling 」を
楽しみにしている。
初回のゲスト桃井かおりさんに始まり、毎回、ゲストが素晴らしい。
5回目は、私の大好きな桐野夏生さんだ。

最近の私は何をやっても変わらないという無力感とコロナ鬱で、
何事も無難にといった、なあなあな生き方をしている。
だがお二人の会話を聴いて、頬を張り飛ばされたような思いだ。
前のページの「ライオンのおやつ」の追記は、お二人の会話から
インスパイア―されて書いたものです。
自分なりに、自分に誠実に生きていこうと思った。

Cats Howling (ねこたちの遠吠え)5回目
桐野夏生×金平茂紀 その1「今、表現の自由が危機に」
            ↓
https://www.youtube.com/watch?v=LU2p95rNZxg

桐野夏生×金平茂紀 その2「今、表現の自由が危機に」
            ↓
https://www.youtube.com/watch?v=9nVSuAOJG_k

桐野夏生×金平茂紀 その3「今、表現の自由が危機に」
            ↓
https://www.youtube.com/watch?v=1WvSI8b2z0M

2020年11月23日のブログ「日没」
         ↓
https://blog.goo.ne.jp/keichan1192/e/12b49ff540065e99bed95f817dfab4cd

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チィファの手紙

2021-02-25 10:05:38 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
岩井俊二原作・脚本・監督の「チィファの手紙」を観る。
この作品は同じ題材で、日本と中国とで作られている。
日本での映画のタイトルは「ラストレター」。

あらすじは、
中学時代に妹が憧れていた姉のクラスの転校生は、
お姉ちゃんのことが好きだった。
二人は大学で再会し、交際が始まる。
だが姉はならず者と結婚してしまう。そして二人の子どもをもうけるが、
夫は蒸発し、姉は自殺する。
妹は姉の代理で中学の同窓会に出席し、姉の死を報告しようとする。
だが姉と間違えられ、スピーチまですることになる。
そこで憧れの転校生と再会し、手紙を介した物語が始まる。

脚本もさることながら、妹役のジョウ・シュンが抜群にいい。
遺された二人の子どもを見守る妹家族があったかい。
妹が、姉の息子に
「もういいから 大丈夫だから
 心配ないよ きっと大丈夫だから
 そんなに苦しまないで 分かってるよ
 大丈夫だから 大丈夫だよ 一緒に帰ろう」   (引用ここまで)

妹の子(Aとする)は、姉の娘(Bとする)が心配で
しばらく泊まることになる。

A:「あたしね、好きな人ができた
  この人好きかもって 気づいたのが12月
  隣の席の男子
  やっぱり この人のことが好きだって
  気づいたのが1月
  そのまま冬休みに入って
  そのまま気持ちが膨らんで
  もうどうしようもないくらい膨らんで
  そうしたら だんだん怖くなってきて
  冬休みが終わって教室で再会したら
  絶対 顔真っ赤になる
  授業中 彼が隣にいたら
  絶対 顔真っ赤になる

B:「まさかそれが登校拒否の理由?
  そんなこと?」

A:「言わなきゃよかった」

B:「いいじゃん そんなの大丈夫よ」

A:「だからね、わたし学校に行く
  今日 睦睦(ムームー=姉の娘)の話を聞いたら
  恥ずかしくなった
  自分はちっちゃいなって思った
  だから あたしも頑張って
  学校に行こうと思った 彼に会いに」    (引用ここまで)

妹が、姉の息子に
「泣いていいのよ 泣いたらきっと楽になる
 男の子も 泣いていいの
 いい子ね 泣きなさい   (引用ここまで)

当時の姉は、中学の卒業式で挨拶をすることになっていた。
姉のことが好きな転校生は文章を書くのが上手なので(後に作家になる)、
挨拶を見てもらうことになる。
その時の様子がフラッシュバックされる。

「本日、私達は卒業の日を迎えました
 中学時代は私達にとって
 おそらく生涯忘れがたい
 かけがえのない想い出に なることでしょう

 将来の夢は? と問われたら
 私自身 まだ何も浮かびません
 でも それでいいと思います
 私達の未来には 無限の可能性があり
 数えきれないほどの人生の
 選択肢があると思います

 ここにいる卒業生 一人ひとりが
 今でも そしてこれからも
 他の誰とも違う人生を歩むのです

 夢を叶える人もいるでしょう
 叶えきれない人もいるでしょう
 つらいことがあった時
 生きているのが苦しくなった時
 きっと私達は幾度も
 この場所を思い出すのでしょう
 自分の夢や可能性が
 まだ無限に思えた この場所を
 お互いが等しく 尊く 輝いていた
 この場所を」          (引用ここまで)

こんなに素晴らしい挨拶をした姉が・・・
姉の結末が分かっているだけに、涙が出た。
心が柔らかくなるような、いい映画だ。


追記1
同じ題材で同じ監督が作った日本版「チィファの手紙」を観る。
タイトルは「ラストレター」。
「チィファの手紙」は岩井監督が伸び伸び撮った様子が窺われる。
上にも書いたが、妹役のジョウ・シュンが抜群にいい。
軽妙な演技で笑わせたり、甥をいたわるシーンなど彼女なしには
この映画は考えられないほどだ。

とかく日本映画は、内容よりも客を呼べる俳優にスポットライトを
当てがちだ。俳優を引き立たせるために作られた映画ほど
つまらないものはない。
「ラストレター」の出だしは妹役の松たか子から始まる。
声が甲高い。(歳をとると高い声が苦手になる。)
美人で明るくて素敵なお母さん、もしかして彼女のために作られた
映画なのだろうかと不安になった。
以前テレビでラグビーを題材にしたドラマを観たが、
その時は夫や息子を怒ってばかりいる役だった。
怒るにしてもそれぞれ状況が違うはずだが、ワンパターンだった。
今回は明るい役だが、明るさが独りよがりで平面的なのだ。
このままドラマは進行してしまうのだろうか。

だが脇を固める役者に救われた。
木内みどり、森七菜、豊川悦司、中山美穂。
妹の子の役の森七菜は、自然な演技が際立っている。
これは天性のものなのだろうか。
「チィファの手紙」では、ならず者の夫の肩書くらいしか語られていない。
「ラストレター」では、豊川悦司によって彼の苦悩やそうせざるをえなかった
心の内を生身で知ることができた。
中山美穂は、下に書く「ラブレター」から25年が過ぎ、堂々とした
女優に成長していた。そして
最初に感じた私の危惧を吹き飛ばすようにして、映画は終わりを迎える。
だがやはり私は、「チィファの手紙」が一番好きだ。

最後に、岩井俊二監督三部作の最初に撮られた「ラブレター」を観る。
冬山が美しく印象的だ。
初々しい中山美穂が二役を演じ、ファンにはたまらないだろう。
この映画も、中山美穂のためにあるような映画だった。
それにしても、25年前も豊川悦司は相も変わらずうまい。
岩井俊二監督には伸び伸びと、外国で映画を撮って欲しいと
個人的には思った。
(2021年3月17日 記)

追記2
私は森七菜を「ラストレター」で初めて知ったのだが、
第44回 日本アカデミー賞の新人優秀賞に選ばれていた。
おめでとうございます。これからが楽しみな役者だ。
(2021年3月20日 記)

追記3
2024年12月6日に中山美穂さんがお亡くなりになりました。
ご冥福をお祈りいたします。
私が一番好きな彼女の映画は「東京日和」です。(竹中直人監督)
是非、NHKか民放で放送して欲しいです。
(レンタルで借りられないので)
(2024年12月7日 記)

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i-新聞記者 ドキュメント-(2)

2021-01-13 09:26:18 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
この映画について書き終えて投稿しようとしたところ
突然、最初の1行とお借りしようとした画像を除いて、
記事の全てが消えてしまった。
記事をアップする前だったので、内容は分からないはずだ。
私には、お借りしようとした映画のポスターの画像から
侵入したとしか思えない。
昨日、このことを書き加えてアップしたところ、変更はされていなかった。

なぜか変更されていないものと、変更されたものが見つかりました。
今、変更されていない方に書き加えています。

「悪意あるソフトウェアの削除ツール」から削除して、再度書いています。
それにしても、なぜこのようなことをされなければならないのか。
今の日本には、自分の考えを述べる場がすでに無くなって
しまったのでしょうか。そら怖ろしいことです。

キネマ旬報ベストテン「文化映画ベストテン第一位」に選ばれた
森達也監督の「i-新聞記者 ドキュメント-」を観る。
東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者を追ったドキュメントだ。
映画を観終わって、この映画のタイトルになっている
【 i 】の意味が分かった。
書きたいことはたくさんあるけど、森監督の最後の言葉だけ
引用させて頂きます。

 俺は憲法9条は守るべきだと思うし
 原発再稼働には反対だ
 沖縄から基地をなくしたい
 つまりリベラルだ

 でもイデオロギーの違いとか
 誰を支持するとか しないとか
 どこの集団に属するかとか
 そうした違いが大切だとは思わない

 主語を複数にした集団は 一色に染まる
 一色に染まった正義は 暴走して
 大きな過ちを犯す
 それは歴史が証明している

 一人称単数を大切にする 持ち続ける
 きっとそれだけで
 世界は変わって見えるはずだ          (引用ここまで)


今、観るべき映画だと思う。
この映画から、今の日本の現実を知って欲しいと思います。
私たちは、望月衣塑子記者におんぶに抱っこでいいのだろうか。
 
 
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i-新聞記者 ドキュメント-

2021-01-12 09:59:55 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
この映画について書き終えて投稿しようとしたところ
突然、記事全体が消えてしまいました。
(おそらく、お借りしようとした映画のポスターから侵入したと思われます)
「悪意あるソフトウェアの削除」をお願いして、再度書いています。
それにしても、なぜこのようなことをされなければならないのですか。
今の日本には、自分の考えを述べる場がすでに無くなって
しまったのですか。そら怖ろしいことです。
再度、書きます。

キネマ旬報ベストテン「文化映画ベストテン第一位」に選ばれた
森達也監督の「i-新聞記者 ドキュメント-」を観る。
東京新聞の望月衣塑子(いそこ)記者を追ったドキュメントだ。
映画を観終わって、この映画のタイトルになっている
【 i 】の意味が分かった。
書きたいことはたくさんあるけど、森監督の最後の言葉だけ
引用させて頂きます。

 俺は憲法9条は守るべきだと思うし
 原発再稼働には反対だ
 沖縄から基地をなくしたい
 つまりリベラルだ

 でもイデオロギーの違いとか
 誰を支持するとか しないとか
 どこの集団に属するかとか
 そうした違いが大切だとは思わない

 主語を複数にした集団は 一色に染まる
 一色に染まった正義は 暴走して
 大きな過ちを犯す
 それは歴史が証明している

 一人称単数を大切にする 持ち続ける
 きっとそれだけで
 世界は変わって見えるはずだ          (引用ここまで)


今、観るべき映画だと思う。
民主主義がないがしろにされている今、この映画から日本の現実を
知って欲しいと思います。
私たちはただ、望月衣塑子記者におんぶに抱っこで
あってはならないと思う。
 
 
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ホテルビーナス

2021-01-02 17:24:19 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
昨年はお読みくださりありがとうございます。
今年がどんな年になるのか皆目わかりませんが、
体にはくれぐれもお気をつけてお過ごしください。


草彅剛主演の映画「ミッドナイトスワン」が観たくてたまらない。
だが映画館には行けそうにないので、代わりに「ホテルビーナス」を借りた。
セリフは全部韓国語。草彅も韓国名で出演している。
これが成功している。
無国籍な場所、そしていわくありげな人たちの世界に
どっぷり浸かることが出来た。

草彅はもとより芸達者が揃っている。中谷美紀、チョ・ウンジ、
パク・ジョンウ、そして無口な香川照之。
最後まで気づかなかった老婦人役の市村正親が、
抑えた演技でいい味を出している。
こんな芸達者な中で仕事ができて、草彅は日本だけでなく、
世界に通用する役者に育っていくのだろうと思った。

老婦人が経営するビーナスカフェの奥にある「ホテルビーナス」には、
合言葉を知らないと入れない。
「ビーナスの背中を見せてくれ」
それは名も無い連中が
無い名前まで隠しながら
   暮らすとき
この古ぼけたカフェのその奥に
潜むための言葉

そして今日もいわくありげな親子がやってくる。

市村と草彅が交わすセリフがすばらしいので、引用させて頂きます。
草彅はK、市村はIと表示します。

K:星が減った 
 別に星の数は変わってないのに

I:遠く見てるつもりでもね 
 みんな不安だからさ
 すぐ自分の近くを照らしたがる
   でも
 自分の近くを明るくしてくと
   遠くの星が
 どんどん見えなくなって
 あるのに見えなくなっちまう
 そのうち目印にしてた星も
   見失っちまう
   堂々巡りだ
   誰の人生だって
 どんなささやかな人生だって
 よそ様には見せたくない背中がある

 挫折とか後悔とか
 言い様はそれぞれだけど
 それでもみんな
 気張って生きてる
 気張って世間に胸を張るんだ
 けどそうやって胸を張れば
 そいつの背中はまた 悲鳴を上げる
 もがけばもがくほど
   そんな背中が
 ますます重くなって
   諦めて
 地面に突っ伏したくなる

 重い背中をしょって
   生きるのは辛い
 ただ不思議なもんさ
 そんな背中に限って
 必ず翼が生えてくる
 背中が重たい奴ほど
 きっといつかは高く飛べるんだ
   ここにいるのは
   そんな連中だ

 生きてても死んでてもいいって?
 死んじまえ チョナン
   迷ったね
 迷うってのはね
 生きたいって事さ
 ホントに死にたきゃ
 迷う前に死んでる
   だとしたら
 生きるって
 決めちまった方が楽だ
 自分は
 生きるんだって

K:みんなひとりぼっちだ
   それでいい
 だからこそ 誰かといられる事を
 嬉しく思えるから
   相手がいるから
   意地も張れる           (引用ここまで)

追記1
第44回日本アカデミー賞の最優秀作品賞に「ミッドナイトスワン」が、
最優秀主演男優賞に草彅剛が選ばれていた。
おめでとうございます。早くDVDで観たいです。
(2021年3月20日 記)

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火口のふたり

2020-12-17 15:39:05 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
新型コロナウィルスの感染拡大から1年が過ぎようとしている。
この間、レストランや映画館、美術館、デパートに行くこともなく、
友だちや孫に会うこともなく、ワンマイル圏内でひっそり生きている。
知らず知らずに疲れが澱のように溜まり、心が委縮していくのが分かる。
やたらとイライラすることがある。
些細なことが気になるのだ。

たとえば、2000年に出版されたT氏のエッセイの中で、
彼女は38歳の時に出産したとある。
だが最近の生協の小冊子、「生活と自治」に連載している
彼女のエッセイでは、37歳になっている。
子どもが大勢いるならまだしも彼女は1人だし、歳も還暦を過ぎたばかりだ。
初めて子どもを出産した記憶は生々しく、その年齢を忘れたとは思えない。
37は36、7と数えるが、38は38、9と数えることが多い。
この微妙な1歳の差を計算したのだろうか。

1歳の差などどうでもいいことだけれども、言葉を生業(なりわい)に
している彼女には、37でも38でもいいから統一して欲しかった。
こうした些細なことでも、私は彼女の言葉が信じられなくなる。
「真実は細部に宿る」、この言葉は以前に参加していた歌会で
教えてもらったものだが、私の好きな言葉だ。

前書きが長くなったが、白石一文原作、荒井晴彦監督の
「火口のふたり」を観る。(R-18指定)
何なのだ、この女優は!
しゃべるのも、ラーメンを食べるのも、
まるで私が節穴から覗いているように自然なのだ。
こんなにセリフを自然に言う役者を観たことがない。

内容は、以前恋人だった従兄が、自分の結婚式に参加するため
秋田に帰ってくる。
その彼を早朝並ばせて、テレビを安く買うのに付き合わせたり、
恋人同士だった頃のふたりのエピソードや考え方の違いを語り合ったり、
今も抱いている彼に対する感情や欲望をぶつけたりしながら、
結婚式までのふたりの5日間を濃厚に描いている。

瀧内公美と柄本佑の演技があまりにも自然でドラマには思えず、
一気に観た。
細部を丁寧に描いているからこそ、映画が真実味を帯びてくる。
瀧内公美にかかれば、富士山の噴火だって真実になる。
この映画で瀧内公美は、キネマ旬報ベスト・テンの
主演女優賞を受賞している。

ひさしぶりに胸がスカッとした映画です。

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ノースライト

2020-12-12 10:14:14 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
横山秀夫著『ノースライト』はかなり面白かった。
依頼人が建築士に、「あなた自身が住みたい家を建ててください」と
言い残して失踪する。
どんな家を建てたのか、ずっと気になっていた。

今日(12月12日)と12月19日の21時から、NHKで放送するという。
どんな家になったのか楽しみだ。

今朝の小林克也氏のラジオ番組で、ビリー・ジョエルの
「Goodnight Saigon」を流していた。
すばらしい曲だ。YouTubeで観られます。
        ↓
https://www.youtube.com/watch?v=Qjzjhl-QztE

追記1
429頁に及ぶ小説を150分のドラマにする。
あらすじを追うだけでも大変なのではと思っていたが、前編を観る限り
お見事でした。
場面展開によって物語にメリハリが生まれ、話の流れが分かりやすい。
脚本がすばらしかった。
家の建築費を含めれば(家はCG?)、1本の映画並みの予算(?)と人材。
さすがNHK。後編も期待してます。
(2020年12月13日 記)

追記2
YouTubeで「Goodnight Saigon」のライブを見つけました。
ライブ会場の暗闇をサーチライトが照らし、頭上をヘリが飛び交う音がする。
まるでサイゴンにいるような錯覚に陥る。
そんな中、静かにビリー・ジョエルのピアノと歌が始まる。
海兵隊(?)の若者たちが立ったまま、うなだれて聴いている。
音楽もさることながら、歴史と向き合う姿に
アメリカ文化の深みを感じた。
       ↓
https://www.youtube.com/watch?v=0e5AUckHNps
(2021年1月5日 記)

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人間

2020-08-25 11:52:02 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
1962年公開、近代映画協会製作「人間」を観る。
「裸の島」と同じく、脚本・監督は新藤兼人、主演の殿山泰司、乙羽信子の
二人に佐藤慶、山本圭が加わり、濃密な人間ドラマが繰り広げられる。
内容を表わすのに登場人物の名前ではなく、役者の名前を
使わせてもらいます。

伊豆大島を行き来している魚船の船長・殿山泰司は、1泊2日で荷を運ぶ
予定だった。それに甥の山本圭と、隣の島にアワビを売りに行く乙羽信子、
小遣い稼ぎに船を手伝うことになった佐藤慶の4人が乗るが、急な嵐に巻き
込まれる。燃料は流出し、舵取りも出来なくなり、漂流することになる。
自分たちの位置すら分からず、行き交う船も見当たらない。
わずかな食料でいつ終わるともしれない4人の漂流生活が始まる。

食料はたちどころに無くなる。どこかにこっそり隠しているのではないか
との疑心暗鬼から、殿山・山本、乙羽・佐藤との間に諍いが生じる。
漂流して30日が経ち、空腹は極限に達する。そして
佐藤が乙羽に、若い山本を殺して喰うことを提案する。

戦争を描いた映画、「ゆきゆきて、神軍」や「野火」は人肉食を扱っている。
南方で亡くなった太平洋戦争の戦死者は、戦いで亡くなるよりも
飢餓や病気で亡くなる人の方が多かったのだ。
この映画は戦争を描いたものではないが、やはりこのことを扱っている。
極限まで追い詰められると、人間はなんだってする。

殿山泰司扮する船長はあまりの空腹に、戦時中に見た兵士が人肉を食らう
場面を思い出す。
こうした人間の本質を描くために、新藤兼人は極限の状況を作り出した
のではないだろうか。
飢餓の恐ろしさを嫌というほど見せつけられた。

乙羽が太ももを露わに、男勝りの海の女を見事に演じている。
2組に分かれての諍いの後に、甲板の方には殿山と山本が、そして
佐藤と乙羽は船底へと棲み分けするようになる。
暗い船底に血気盛んな男女がいて、一度は拒絶されたものの、その後は
何も起きない、というのが私にはどうにも不自然に思えた。
こうした極限状態でも、極限状態だからこそ、
人間は本能を抑えられるのだろうか。

最後に殺人を犯した二人は、罪の呵責から命を落とすことになる。
重い内容で、タイトルが「人間」というのも分かる気がした。  (敬称略)



(画像はお借りしました)



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転々

2020-07-28 10:07:15 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
国内外を問わず、信じがたいような稚拙な政策が連日報道されている。
あまりにもそれが酷すぎると、反論するどころか、もう何も考えたくない、
殻に閉じこもっていたくなる。
これにコロナ報道が加わって、何をしても何を観てもつまらない。

そんな中で出会ったのが、超おもしろくて癒される映画「転々」だ。
三木聡脚本・監督「転々」。登場人物は皆どこか壊れている。
大学8年のオダギリジョーは小さい頃に両親に捨てられ、
今も84万もの借金の返済に追われている。
その借金取りを演じる三浦友和は、小太りの冴えない中年で、
おまけに妻を殺して自首しようとしている。
どうせ自首するなら近くの交番ではなく、桜田門の警視庁。
その前に思い出の場所を散歩したい。
その相棒に選んだのが、オダギリジョーだ。
100万やるから俺に付き合え、と。

オダギリジョーは、どうしようもないダメ人間を演じたら、この人の
右に出る者はいないだろう。
「湯を沸かすほどの熱い愛」のダメ夫ぶりは圧巻だった。
若い頃の三浦友和を、ある人が「画用紙みたいな人」と形容していた。
清潔感はあるが、個性がないという意味か。
私は彼の演技をほとんど観たことがない。私の印象では弁護士、医師、
警察官などが似合いそうな俳優だ。
ところがこの映画ではまるで別人のように、茶目っ気たっぷりの
ダメ中年男を演じている。演じることを楽しんでいるようだ。
そしてこの二人を中心に、つかの間「にせの家族」を作る。

セリフの一つ一つに、ふるまいの一つ一つに、血が通っている。
時々挟まれるエピソードが絶妙だ。
愛卵子(オーギョーチイ)の店で、息子が老母を罵倒するシーンでは
二人の関係性の歴史が、手に取るように想像できる。
「岸部一徳に道で会うと、その日はいいことがある」、という都市伝説。
岸部一徳が登場する度に笑ってしまう。

ふせえりという役者が端役で出ると、こんなにも映画が現実味を
帯びてくるのか。
彼女は日本映画にとって、なくてはならない存在だ。
ウィキペディアによると、三木聡監督の奥さんということだ。

「東京の思い出の場所の半分は、コインパーキングになっている」とか、
「東京のOLは財布の留金を上にして持つ」とか、
「花やしき」が出てきたり、「思い出横丁」が出てきたり、
懐かしくておかしくて、哀感あふれる映画だ。

最後に次のセリフに胸がキュンとなった。

「幸せは来ていることに気づかないほど、じんわりとやってくる。
 でも不幸せはとてつもなく、はっきりやってくる」

エンドロールを見て驚いた。原作が藤田宜永だった。
彼の600頁に及ぶ『愛さずにはいられない』を読んだばかりだったので、
そのギャップにくらくらした。




(画像はお借りしました)
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初恋・地獄篇

2020-07-15 04:54:00 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
以前にも書いたが、年を取ると好きなものはより好きに、
嫌いなものはより嫌いになってゆく。
特にあの政治家がテレビに出ようものなら、一人だとチャンネルを替えるが、
連れ合いが一緒だと席を立たずにはいられなくなる。
神経が剥き出しになってしまう感覚なのだ。

嫌いなものを挙げたらきりがないので、好きなものを挙げます。
私の一番信頼しているキャスターは金平茂紀さんです。
その彼が、「私を作った3本の映画たち」を書いている。
2本は観たのだが、「初恋・地獄篇」はまだだったので借りることにした。
寺山修司・羽仁進脚本、羽仁進監督で1968年の作品だ。
私は羽仁進の映画をあまり観たことがないので分からないが、
いかにも寺山というシーンがいくつかあった。

主人公の男は7つの時に父が亡くなる。そして母も男と出ていく。
その後、養父母のもとで暮らし始める。
だがこの養父が男の子に性的いたずらをする。
養母は見て見ぬふりをする。
青年になった男の楽しみは、小さな女の子と公園で遊ぶことだ。
それも邪険な考えの大人に通報されてしまう。
そしてついに養父の性的虐待に逆らったことで、彫金の仕事も家も失う。

主人公の女は集団就職で東京に出てきたが、お金のために
ヌードモデルをしている。
ヌードスタジオでは裸になるだけではなく、マド・サドや変態ショーなどで
邪悪な大人に傷つけられる。
こうした社会の底辺を生きる二人が出会う。
初めて入った旅館での男の行いが痛々しい。

男役の高橋章夫といい、女役の石井くに子といい、この二人にしか
出来ない役だ。
大人になりきらない、寡黙でいつも怒っているような男。
童顔なのに豊満な体の女。
そして男と遊ぶ小さな女の子は、まるで岸田劉生の「麗子像」のようで
不思議な雰囲気を醸し出している。

女の子のなぞなぞの答えが分からずに、男は女に聞く。
「キャベツをむくと芯がでる。ではタマネギをむくと何が出る?」
答えを知って男は初めて笑う。
文通のための切手を交換するなど、やっと二人に幸せが訪れると思いきや、
初めて結ばれるその直前に、男は邪悪な大人によって殺される。

天狗のお面、かくれんぼ、男の子の性器、母親が出ていく際に
少年とキスをするシーンなど、寺山を思わせるシーンがいくつかあった。
それにしても初恋とは、なんとヒリヒリしているのだろう。

緑魔子のファンなので、一緒に「非行少女 ヨーコ」を借りる。
降旗康男監督のデビュー作で、1966年の作品だ。
こちらも輪姦されたり、父親に迫られたりして田舎にいられなくなった女が、
東京に出てくる。
そしてハイミナール(睡眠薬)中毒になってゆく。
「ラリる」という言葉があるが、当時は大麻でも覚せい剤でもなく、
睡眠薬の過剰摂取だったのには驚いた。
石橋蓮司がおかま役で、寺山修司がちょい役で出ている。

広辞苑によると、不良は品行が悪いこと、非行は法律や社会規範に
反した行為をいうとのことです。

※ラジオで面白い曲をやっていました。
 「【OBK-RECORDS】 あがた森魚・緑魔子ー昭和柔侠伝の唄」
              ↓
https://www.youtube.com/watch?v=irABYHEKvEA







(画像はお借りしました)

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生きたい

2020-06-23 16:48:16 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
「裸の島」の成功で、近代映画協会は解散をせずに済んだ。
1998年、近代映画協会製作(公開は1999年)、新藤兼人監督「生きたい」を観る。
乙羽信子が生きていらしたら、老婆の役だっただろうか。
この映画の老婆役の吉田日出子は素晴らしかった。
22年前の映画なので54歳のはずだが、70歳の老婆にしか見えない。

この映画は三國連太郎扮する、所かまわず大便をもらす老人の日常と、
老人がたまたま手にする「姥捨て伝説」を描いた本とがオーバーラップしている。
吉田日出子扮する老婆は、「姨捨て伝説」の方に出てくる。
老人ばかりが多い小さな寒村では、70歳になると姥捨て山に行かなくてはならない。
この村の息子二人には、嫁になる若い女性がいない。それが心残りだ。
嫁をもらうチャンスは、夫を亡くした人が出た時だけだ。
夫を亡くした人が出ると、村中の人たちが集まってくじを引く。
くじを当てた家が、その人を嫁として迎えることができるのだ。

今回はこの老婆がくじを引き当てて、嫁を迎えることができた。
これで心置きなく姥捨て山に行ける。
一家はその準備に取りかかる。老婆をおぶう背負子(しょいこ)、
息子が履いてゆく草履、姥捨て山で敷く筵(むしろ)。
いよいよその日を迎える。
嘴太鴉(はしぶとからす)が巧みに使われている。
鴉は生きているうちは人間を喰わない。
山を登り谷を下り、やがて老婆と息子は鴉や野犬が待ち受ける仏が谷に着く。
息子が去った後、雪の降る中を老婆は筵に坐り合掌する。
その姿は、この世の物とは思えぬほど神々しく美しかった。

三國連太郎扮する老人は、躁鬱病を抱える娘(大竹しのぶ)、バーのマダム(大谷直子)、
医師(柄本明)などと騒動を引き起こす。
これだけだったら、騒々しい物語に終わってしまっていたことだろう。
だが「姥捨て伝説」を入れることで、映画に深みが出たように思う。
老いるとはかくも残酷なものか、と姥捨て山に行く年齢になり痛切に思う。
せめて排泄が一人で出来るうちに、あの世に行きたいものだ。

老人ホームの院長役で麿赤児が出ている。
このワンシーンだけで映画が引き締まる。
また、菊地凛子がこの映画でデビューしている。   (敬称略)








(画像はお借りしました)

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裸の島

2020-06-18 10:07:19 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
終活が一向に進まない。一人の人間が生きてきて、その付属物となると
至る所から出てくる出てくる。録画した映画も結構な数だ。。
整理していくとその中に、新藤兼人監督・脚本の「裸の島」があった。

1960年の映画だ。ウィキペディアによると、「近代映画協会」が資金難から
解放することになり、その記念として作られたそうだ。
キャスト4人、スタッフ11人、撮影期間1か月。500万の低予算だというから驚きだ。
モスクワ国際映画祭でのグランプリをはじめ、数々の国際映画賞を受賞している。
その結果、「近代映画協会」は解散せずに済んだ。

お椀を伏せたような小さな孤島に、父母、長男(小学生)、次男(未就学児)の
4人だけで暮らしている。
水もない、店もない、学校もない、医院もない、隣人もいない。
あるのは山の急斜面を開墾してできた段々畑と海だけだ。
畑といっても痩せた土地で、水やりしても直ぐに地面にしみ込んでしまう。
その水も小舟を漕いで、隣の島まで汲みに行かなくてはならない。
桶に汲んできた水が、4人の命と作物を支えている。

乙羽信子演じる母親が、汲んできた水を天秤棒で担いで、山の急斜面を一歩一歩
登っていく。この場面が何度も何度も繰り返される。
ある時、転んで水をこぼしてしまう。
すると殿山泰司扮する夫が飛んできて平手打ちする。
それくらい水は命と同じなのだ。

鯛が釣れると、一家四人が小舟に乗って町に売りに行く。
何軒も回ってやっと売れると、そのお金で食堂に入り楽しそうに食事をする。
子どもの下着のシャツも買うことができた。
この映画はモノクロでセリフは殆どない。だが感情はしっかり伝わってくる。
乙羽信子の笑顔はなんであんなに美しいのだろう。

長男の具合が悪くなった時に、両親は水くみに出ていた。
島には医者も隣人もいない。次男はただ両親が帰って来るのを待つしかない。
医者を連れてきた時にはすでに手遅れで、長男は命を落とす。
お葬式の時の母親の正装が浴衣だったのが哀しい。

いつものように畑に水やりをしていると、母親は急に気がふれたように
桶をひっくり返し、作物を引っこ抜き始める。そして地面に突っ伏して号泣する。
父親は分かっているだけに、なすすべもなく見守るしかない。
この時の殿山泰司のやるせないような、困ったような表情が、何とも言いようがない。
しばらくするとまた、母親は黙々と水やりを続けるのだ。

この映画を観ていると、せりふは邪魔だということが分かる。
目にしっかり刻まれて、忘れられない映画になった。
こうした経験は、「ニーチェの馬」以来のことだ。
二つの映画に、「生きる」ということを教えてもらった。

最近、奇をてらった内容の映画が多いように思う。
興行成績は良いようだが、筋だけの、派手で騒々しいだけの映画はごめんだ。
(敬称略)







(画像はお借りしました)

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「Play back 」 「 きみの鳥はうたえる」

2020-06-06 10:53:04 | ④映画、テレビ、ラジオ、動画
日本映画専門チャンネルで、【いま、映画作家たちは 2020】を特集している。
三宅唱監督の「Play back」と「きみの鳥はうたえる」を観る。
1984年生まれの監督ということだが、観終わった後に静かな感動があった。

(1)Play back
端正な甘いマスクをした、昔の映画スターを思わせる男が主人公だ。
そう感じたのは、全編モノクロだからか。
しなやかにスケボーを乗り回し、ときおり人懐っこい表情を見せる。
映画は多くを語らないので想像するしかないのだが、どうも記憶がキーワードのようだ。
彼と彼を取り巻く人たちが、高校時代にタイムスリップしたり、現在に戻ったりする。
また同じ場面を時を経てPlay backすることにより、「ああ」と納得がいったりする。

男は俳優として声優として、それなりに名前が売れているようだ。
だが体の変調からか仕事に不都合が生じているようで、その埋め合わせをする
マネージャとおぼしき男の電話対応が面白い。
謝ったり時間を変更したりする時の対応が、まさにマネージャそのものなのだ。
男が検査を受けているところをみると、何やら深刻な病気を抱えているようだ。
それで記憶が飛ぶのだろうか。

この男の顔や体、身のこなしなど全てが魅力的なのだ。
特にスケボーをする姿など、彼を見ているだけで2時間が経ってしまった。
最後のテロップで村上淳と知り驚いた。村上虹郎のお父さんだった。





(2)きみの鳥はうたえる
この作品も三宅唱監督である。
本屋でバイトをしていてセフレの関係にある男女と、男とアパートをシェアしている
男の3人の物語だ。柄本佑(えもとたすく)、石橋静河、染谷将太。
お互いに考えを述べるわけではなく、感情を伝えるわけではなく、3人は一緒に遊ぶ。
実に楽しそうに酒を飲み、ビリヤードをし、ライブに行く。

柄本が演じる男が、なんともいい加減なのだ。仕事はさぼるし、やる気はないし、
臭そうだし、キスをする時にやたらと音を立てるし、何を考えてるのか分からないし、
怖いし。こんな男と別れて、誠実でやさしい染谷と付き合っちゃえば、と老婆心ながら思う。
女の心の変化を表わすのに、染谷から借りたTシャツのにおいを嗅ぐシーンは見事だ。
だが、ラストは王道だった。

それにしてもこの女優はただ者ではない。
普通のことを、普通に演じるほど難しいことはない。
のびやかに、あっけらかんと楽しんで演じている。
石橋静河、あとで調べて驚いた。
石橋凌と原田美枝子の子どもだった。納得です。
柄本佑も両親、弟、妻・・・が役者の芸能一家だ。
彼のいろいろな映画やテレビドラマを観てきたが、どれも素晴らしかった。
でもこの役だけは、嫌いになりそうなくらい嫌な役だった。

2世、3世の政治家は弊害ばかりが目立つが、
芸術家のDNAは確実に引き継がれていると思った。
(そうでない人も多いとは思いますが)






(3)燕 Yan
木村大作監督のように、撮影技師だった人が監督をするケースはある。
新聞によると、この映画の監督(今村圭祐)も気鋭のカメラマンということだ。
「新聞記者」の撮影を手がけ、米津玄師のミュージックビデオ(Lemon)の
撮影を手掛けている。
1988年生まれ、これから若い才能が発揮できる日が待ち遠しい。

※燕 Yanの監督の名前を書き忘れました。大変失礼しました。






(4)Drill & Messy
私は以前、短歌結社「塔」に所属していた。
私が辞めてから主宰になった方が吉川宏志だ。
吉川さんに次の歌がある。
「わが家にて性のシーンの撮られしを初めて知りぬ箪笥が黒い」

吉川さんの息子である吉川鮎太が、映画を撮るようになったことを知った。
才能のある人で賞を取っていた。
分野は違ってもこれからが楽しみだ。



(画像はすべてお借りしました)


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