ふとしたことがきっかけで,本腰を入れて電気回路を学ぼうという意欲が増してきた。
火種は一年前からずっとくすぶっていたのだが,タイミングよく電気回路の教科書を人から借りることが出来たので,ここ一週間ほど持ち歩いてはことあるごとに眺めて楽しんでいる。
今日,ようやく回路の Δ-Y 変換の変換公式を自力で導くことができたので,一年来の宿題をようやく解決できて嬉しい限りである。といっても,喜んだのはほんの一瞬で,おそるおそる電気回路の教科書を見てみると,僕のやり方よりずっと自然でエレガントな導出法が述べられていたので,有頂天から一転,落胆してしまった。
その話はいずれ機会を改めて述べることにして,最近電気回路の教科書を見て感じたことを書き留めておく。
電気回路とは,抵抗,コイル,コンデンサの3種類の受動素子で構成された回路のことをいう。抵抗は電流を電位差に,あるいは電位差を電流に変換する素子だというのが,一年前から持ち続けている持論である。また,コンデンサは電圧と電荷に関する「電場担当」の素子であり,コイルは電流と磁場を担った「磁場担当」であるという風にとらえている。コンデンサとコイルの振る舞いは Maxwell の方程式系を基礎に理解できるが,抵抗は電位差と電流を結びつける役割を果たしており,それは Maxwell の方程式系から外れて Ohm の法則を体現している。そしてこれらは Kirchhoff の法則という一つの回路解析の基本ツールとして統合されるわけである。
全くの余談であるが,Maxwell の方程式系からわかることは,電場があると電荷は加速されて電流が増大するということである。もちろん,電荷が加速度運動すると電磁場が変動し,その変動が電磁波となって放射されるため,エネルギーが減少して多少は減速するだろうが,とにかく放っておけば速さは増大する一方であろう。ところが Ohm の法則の教えるところは,加速は無制限ではなく,むしろ何かの妨害によって加速度は打消され,電流,つまりは電荷の移動速度(に相当するもの)は一定に保たれるわけである。
電荷の移動を妨げるのは抵抗内の原子である。電荷が電場の作用で加速されて獲得するはずだった運動エネルギーの増加分が何に吸い取られるかと言えば,電荷を担っている電子がぶつかる相手の原子の振動である。それが Jourle 熱に他ならない,という見方ができるだろう。
こうして,電気回路を学ぶと必然的にエネルギーやら熱やらと付き合う羽目になる。
そもそも電気回路は Maxwell の方程式系という微分方程式に基礎をおくわけだから,微分積分や微分方程式の知識が必須である。
また,複素インピーダンスやリアクタンスという概念を導入することで交流回路の解析が極めて容易になるわけだが,その際,ベクトルや複素数の知識が必要となる。
さらには,これらの受動素子は抵抗のみならずコイルやコンデンサにまで適用される「拡張された」 Ohm の法則に従うと考えて回路に流れる電流に関する方程式系が導かれるが,それは連立1次方程式である。したがって線形代数も必要である。
もっと言えば,正弦波以外の交流を取り扱う際に有効な Fourier 級数も顔を出す。
というわけで,回路理論をきちんと学ぶためには高校の新旧の学習指導要領で取り扱われている数学のほぼすべての知識を総動員しなければならない。場合の数と確率,集合と論理,そして不等式や整数,整式の理論は使う機会がないが。
こう考えると,大学に入ってまた微分積分や行列を習うのは電気電子系の学生にとっては必然であるように思われるのである。ただ,それらが専門科目にどう使われるのかをちゃんと見据えた取扱いをするべきである。
さて,電気電子系以外の分野の学生,特に物理学を専攻する学生にも電気回路を学ぶことを強く勧めたい。例えば複素数を用いた交流回路の取り扱いに習熟していれば,量子力学の波動関数の取り扱いもずいぶん楽になることと思う。特にフェーザ表示と呼ばれる,位相差を含めた電圧や電流の表示などからは学ぶことが多いのではないだろうか。また,線形回路の取り扱いで鍵となるのは重ね合わせの原理であるが,これはそっくりそのまま量子力学でも基本的な原理として重宝されている。思えば,この重ね合わせの原理を量子力学の重要な特性として前面に押し出したのは,他ならぬ電気工学科出身の Dirac ではなかったろうか。
また,システム理論や制御理論,通信理論でよく出てきそうな理論のひな形は2端子対回路ではないかとも思われる。そもそもシステムの理論は回路理論から派生しただろうから,回路理論を学ぶ意義は明らかであろう。
かくいう僕は学部生の頃に電気回路の授業を受講しようとしたことがあるが,授業で紹介された「鳳―テブナンの定理」という定理の名称だけが記憶に残っているだけで,肝心の定理の内容や他の理論は全く理解せずに挫折してしまった。若かりし頃にできる限りマスターしておけばよかったという気もするが,今こうして自発的に学ぶ気になって楽しみが一つ増えたことを思えば,昔にさぼってしまったこともあながち悪いともいえまい。
などと書くとさぞかし今真面目に一所懸命電気回路について勉強しているのだろうと思われるかもしれないが,恥ずかしながら理解できる事柄は未だにほんのわずかでしかない。できれば標準的な教科書を一冊,じっくりと読み解き,そこに書かれた内容を確実にマスターしたいものだが,2端子対回路や三相交流という,教科書の最後の方で書かれている単元は,正直,理解できそうな気がしない・・・。
とりあえず,インピーダンスやリアクタンスを使いこなせる程度を目標に,もう少し粘ろうとは思っている。
火種は一年前からずっとくすぶっていたのだが,タイミングよく電気回路の教科書を人から借りることが出来たので,ここ一週間ほど持ち歩いてはことあるごとに眺めて楽しんでいる。
今日,ようやく回路の Δ-Y 変換の変換公式を自力で導くことができたので,一年来の宿題をようやく解決できて嬉しい限りである。といっても,喜んだのはほんの一瞬で,おそるおそる電気回路の教科書を見てみると,僕のやり方よりずっと自然でエレガントな導出法が述べられていたので,有頂天から一転,落胆してしまった。
その話はいずれ機会を改めて述べることにして,最近電気回路の教科書を見て感じたことを書き留めておく。
電気回路とは,抵抗,コイル,コンデンサの3種類の受動素子で構成された回路のことをいう。抵抗は電流を電位差に,あるいは電位差を電流に変換する素子だというのが,一年前から持ち続けている持論である。また,コンデンサは電圧と電荷に関する「電場担当」の素子であり,コイルは電流と磁場を担った「磁場担当」であるという風にとらえている。コンデンサとコイルの振る舞いは Maxwell の方程式系を基礎に理解できるが,抵抗は電位差と電流を結びつける役割を果たしており,それは Maxwell の方程式系から外れて Ohm の法則を体現している。そしてこれらは Kirchhoff の法則という一つの回路解析の基本ツールとして統合されるわけである。
全くの余談であるが,Maxwell の方程式系からわかることは,電場があると電荷は加速されて電流が増大するということである。もちろん,電荷が加速度運動すると電磁場が変動し,その変動が電磁波となって放射されるため,エネルギーが減少して多少は減速するだろうが,とにかく放っておけば速さは増大する一方であろう。ところが Ohm の法則の教えるところは,加速は無制限ではなく,むしろ何かの妨害によって加速度は打消され,電流,つまりは電荷の移動速度(に相当するもの)は一定に保たれるわけである。
電荷の移動を妨げるのは抵抗内の原子である。電荷が電場の作用で加速されて獲得するはずだった運動エネルギーの増加分が何に吸い取られるかと言えば,電荷を担っている電子がぶつかる相手の原子の振動である。それが Jourle 熱に他ならない,という見方ができるだろう。
こうして,電気回路を学ぶと必然的にエネルギーやら熱やらと付き合う羽目になる。
そもそも電気回路は Maxwell の方程式系という微分方程式に基礎をおくわけだから,微分積分や微分方程式の知識が必須である。
また,複素インピーダンスやリアクタンスという概念を導入することで交流回路の解析が極めて容易になるわけだが,その際,ベクトルや複素数の知識が必要となる。
さらには,これらの受動素子は抵抗のみならずコイルやコンデンサにまで適用される「拡張された」 Ohm の法則に従うと考えて回路に流れる電流に関する方程式系が導かれるが,それは連立1次方程式である。したがって線形代数も必要である。
もっと言えば,正弦波以外の交流を取り扱う際に有効な Fourier 級数も顔を出す。
というわけで,回路理論をきちんと学ぶためには高校の新旧の学習指導要領で取り扱われている数学のほぼすべての知識を総動員しなければならない。場合の数と確率,集合と論理,そして不等式や整数,整式の理論は使う機会がないが。
こう考えると,大学に入ってまた微分積分や行列を習うのは電気電子系の学生にとっては必然であるように思われるのである。ただ,それらが専門科目にどう使われるのかをちゃんと見据えた取扱いをするべきである。
さて,電気電子系以外の分野の学生,特に物理学を専攻する学生にも電気回路を学ぶことを強く勧めたい。例えば複素数を用いた交流回路の取り扱いに習熟していれば,量子力学の波動関数の取り扱いもずいぶん楽になることと思う。特にフェーザ表示と呼ばれる,位相差を含めた電圧や電流の表示などからは学ぶことが多いのではないだろうか。また,線形回路の取り扱いで鍵となるのは重ね合わせの原理であるが,これはそっくりそのまま量子力学でも基本的な原理として重宝されている。思えば,この重ね合わせの原理を量子力学の重要な特性として前面に押し出したのは,他ならぬ電気工学科出身の Dirac ではなかったろうか。
また,システム理論や制御理論,通信理論でよく出てきそうな理論のひな形は2端子対回路ではないかとも思われる。そもそもシステムの理論は回路理論から派生しただろうから,回路理論を学ぶ意義は明らかであろう。
かくいう僕は学部生の頃に電気回路の授業を受講しようとしたことがあるが,授業で紹介された「鳳―テブナンの定理」という定理の名称だけが記憶に残っているだけで,肝心の定理の内容や他の理論は全く理解せずに挫折してしまった。若かりし頃にできる限りマスターしておけばよかったという気もするが,今こうして自発的に学ぶ気になって楽しみが一つ増えたことを思えば,昔にさぼってしまったこともあながち悪いともいえまい。
などと書くとさぞかし今真面目に一所懸命電気回路について勉強しているのだろうと思われるかもしれないが,恥ずかしながら理解できる事柄は未だにほんのわずかでしかない。できれば標準的な教科書を一冊,じっくりと読み解き,そこに書かれた内容を確実にマスターしたいものだが,2端子対回路や三相交流という,教科書の最後の方で書かれている単元は,正直,理解できそうな気がしない・・・。
とりあえず,インピーダンスやリアクタンスを使いこなせる程度を目標に,もう少し粘ろうとは思っている。