深いポケット
雨季と言ってもバンコクの雨は1、2時間、土砂降りになるが、後はからりとはれる、男性的な雨が多い。なのに、今日はどうしたことか、朝から霧雨のようなのが、しとしと降っている。傘を差すほどでもないと思い、そぼふる雨の中を一人で、沢山の車が行き交うニュロードを西に向かって歩いていた。
ニュロードはいつものように混雑していて、走りゆく車の騒音と排気ガスが多く、僕はタオルをマスクの代わりにして、口に当ててゆっくり歩いていた。その時、反対車線のほうで、タクシーの窓を開けて、女が何か叫んでいるのが聞こえたが、このバンコクで知り合いがあるわけてなし、何も思いあたる事がないので、聞くともなく通りすごした。窓から体を乗り出している女は必死で、こちらをみながらなにか叫んでいるが、元々言葉が全然わからないので、僕は無視したような顔をしていた。反応を示さない僕に諦めたのか、タクシーは僕の進行方向とは反対の方に走り出した。僕はこのことを気にもとめず、今来た道を歩きだした。
降ったりやんだりしている雨は、小降りからちょっと、きつく降り出した。そうは言っても、雨宿りしなくてならないほどの降りでもなかった。
なんの前ぶりもなく突然、タクシーが僕のそばに横付けされた。びっくりして覗いてみると、先ほど大声でわめいていた女が窓を開けて、また何か叫んでいる。
一体誰に向かってものを言っているのか、僕は立ち止まってあたりを見回したが、見あたるものは何もない。是は僕のことかもしれないと思い女のほうをみた。
言葉では通じないと思ったのか、この女は、今度は身ぶりを交え、僕の方を指さして、しかも英語で話し掛けてきた。よくみるとヨーロッパ人ではない、勿論タイ人でもない。皮膚の色からすると東南アジア系である。大柄ではなく、どちらかと言えば小柄で、肌色は小麦色だ。マレーシア、シンガポール、どうもこの辺からやってきたらしい。
ドアをあけるなり、彼女は英語で書かれたバンコックの市内地図を広げた。左手には500バーツ札を握っている。早口で言ったことを要約すると、こういうことになる。
私は今香港から、生まれて初めてこの町に、やってきたので、町のことがからっきし判らない。空港でタクシーを捕まえたが、運転手は英語が分からないから、今何処を走っているかも判らない。
空港からはもう1時間も走っているけど、ホテルにも行けない。
どこかこの近くで良いホテルがないか。あったら案内して欲しい。とにかく英語が通じないと話にならない。そこであなたに聞くが、英語の通じるホテルを教えて欲しい。この運転手では言葉が通じないから、何を言ってもダメだめで、この車に乗って一緒にいってくれないか、」ということであった。
僕は「いち旅行者で、バンコックはよく知らない。だから何処のホテルがいいかは全く判らない。適当に大きなホテルに飛び込んで、英語で話してみたら、どうだろう、」というアドバイスを残して、歩き出した。雨はかなり激しく降り出した。
しばらくすると、タクシーは追いかけてきて、また僕の横に止まった。これ以上聞きたくはないから、誰か他の人にきいとくれ、そんな思いから、僕は相手にせず無視して歩き出した。
ところが今度は彼女はタクシーから降りてきて、僕を無理やりタクシーのそばまでつれていき、
「助けると思って一緒に、行ってくれ」と言って手を合わせた。
左手に握った500バーツ札を示しながら、タクシー代は私が払うので、とにかく乗ってくれと、強引にタクシの中へ僕を引きずり込んだ。
タクシーのメーターをみると390バーツをさしている。確かに空港からここまで、迷いに迷ってやってきたのだろう。昼間だったら空港から、この辺りまでは150バーツもあれば十分来れる料金だから、それをはるかに越えている。僕はおなじく外国人として、何かよいアドバイスが出来ないのもかと、頭の中で考えを巡らせた。
道端とはいえ、交通量の激しいこの通りで車を駐車させておくことは迷惑な事であった。先がつかえた車は、先程から幾度と無くクラクションをならしている。女は走ってくれと身ぶりで運転手を促した。車はのろのろと走り出した。後ろの座席に女と僕は座っていたが、何を思ったのか、女は急に服の上から僕の体を触りだした。彼女はシンガポールから来たマッサージ師だと言った。
ははーん。僕に案内してもらったお礼としてマッサージでもしてやろうというのか、成る程。そうだったのか。僕はそれなりに納得したが、その反面、その時何かおかしいと思った。最初は香港から来たと言ったように思う。いや確かにそう言った。しかしいま
シンガポールのマッサージだという。
しかも、待てよ。マッサージとは言いながら、どうもズボンのポケットのあたりに手が伸びてくる。僕はマッサージするなら、肩が凝っているから、肩をしっかりもんでくれと要望した。それにたいして彼女は全く答えることなく、必死になって、僕の金の在処を探しているかのようだ。
これはひょっとしたらスリじゃないか。マッサージにかこつけて、財布から金をすろうとしているのではないか。急に僕は正気にかえった。先ほどからのマッサージぶりをみてみると、まず左ポケットあたりを盛んにさわっていた。それが済んだらさりげなく、今度は右ポケットあたりをさわってきた。しかし彼女の手は僕の財布にはとどかなかった。というのは右ポケットは用心の為に深くしてあって簡単に手をつっこめないように改良してある。
ポケットが浅いとスリにあう確率が高いので、自己防衛のために特別にふかくしてあるのだ。恐らく右ポケットには何も入れていないと判断したのだろう。その時財布は足の関節付近まで降りていて、通常の位置には無かったのだ。さらに腹に巻いているパスポートやら、財布の現金の方へ指をはわしている。
こいつはひどい奴だ。道案内を頼む振りして、車の中に引きずり込み、身体検査よろしく体を触り回って財布や、ポケットにある金目のものを、すり取ろうとしているのではないか。
僕は目がさめた気分になった。なおもあちこち、さわりまくっている女に対して、
僕は「俺の体に触れるな。」と大きな声を出した。
「俺の体にさわるな。もうマッサージはいい。俺はここで降りる。車を止めろ。」
彼女は何を感じたのか、今度はマッサージ、マッサージと叫びながら、腹巻きの中に、手をつっこみそうな気配である。僕は思いっきりその手をはらった。そして小柄な女の体を反対側のドアに向けて突き飛ばした。それから日本語で
「この野郎。人の親切心につけ込んで、スリをやろうとしているのか。ばかもん。どつくぞ。手を引っ込めろ。体にさわるな。今度さわったら、なぐるぞ。」
恥も外聞も無く、僕は大声で怒鳴り、女をにらみつけた。車内でのトラブルだが、何せ僕も大声で怒鳴りつけたものだから、運転手もこちらを見ている。僕は運転手にドアをあけるように言って、身ぶりで、その仕草をした。運転手はドアをあけた。僕はすぐさま飛び降りた。やがて車はさまように、ふらふらと走り出した。女は窓越しに鬼のような面をして、僕をにらめつけていた。
考えてみると奇妙なことである。日本人の感覚からすると、空港で、いくらでもホテルを調べることが出来るし、運転手にホテルと言っただけで、どこか大きなホテルにつれて行くに違いない。
タイ語では何というか知らないが、ホテルは世界共通語になっている。ましてや、運転手をやっていて、ホテルを知らない人はいない。知らなければタクシーの運ちゃんはつとまりっこない。
だからあの女はタクシーを乗り回しながら、カモを探していたのだ。ニュロードへさしかかったときに、独りの外国人の男が傘も差さずにふらふら歩いているのが目に留まり、カモにしょうとしたが失敗した、というストーリーが真実であるような気がした。
「へえ、俺がカモに、」これはやばいところだった。
実は僕はこのときヨーロッパ行きの航空券を買うために、かなりの現金を持っていたのだ。幸いこの金は右側の深いポケットの一番奥に入れてあったから、あの泥棒女も手に触れることなく、僕をみなり同様の貧乏人と思ってあの程度のことしか、しなかったのだろう。
はっはっはー。これは俺の勝ちか。それにしてもポケットを深くしておいてよかった。
あの歳格好からすると、とうに40歳はすぎていように。本人の責任とはいえ、なんとかわいそうな人生なんだ、僕は被害に遭わなかった安心感からか、あの女に同情すら寄せる余裕があった。
財布をすられたら一大事である。すられないように気をつけることは勿論であるが、人間の注意力には限度がある。そこで僕は知恵をしぼって、出来るだけとられにくくするという工夫をした。ズボンのポケットの深さを普通の倍以上の深さにした。これだと余程中に手をつっこまないと中のものを取り出すことは出来ない。腕をまるっぽつっこまないと財布を引き出すことは出来ないのである。
今回のこの件でも彼女は通常のポケットの位置をさわりまくったが、ついぞ、財布の存在に付いては、わからなかったようだった。ズボンの上から手を回して、右ひだりのポケット付近を盛んにさわっていたが、財布のあるところまで、指は伸びていなかった。
もしこれを知恵比べと言うのなら僕の完勝だ。
ざまあみろ、お前ほど頭は悪くないよ。しっかり考えて旅をしているんだ。日本を一歩でりゃ、ろくな人間が待ってやしない。
だから生活の知恵として、自己防止に、予防に予防を重ねているんだ。お前クラスに、そう易々やられてたまるもんか。僕は思わぬ事件に遭遇してこんな勝ち誇ったような気分になった。雨は少し小降りになってきた。
ところで今回は僕は被害が無かったけど、あの手口からみると、又どこかで、いつかきっとやる。 油断した誰かがきっと被害にあう。
僕は警察に届けたものがどうか考えた。しかし事の顛末を英語で、いやタイ語で説明しなければならないだろうから、とても警察に行く気にはなれなかった。すべてが終わった後になって、
考えたことはこんなことだった。
雨季と言ってもバンコクの雨は1、2時間、土砂降りになるが、後はからりとはれる、男性的な雨が多い。なのに、今日はどうしたことか、朝から霧雨のようなのが、しとしと降っている。傘を差すほどでもないと思い、そぼふる雨の中を一人で、沢山の車が行き交うニュロードを西に向かって歩いていた。
ニュロードはいつものように混雑していて、走りゆく車の騒音と排気ガスが多く、僕はタオルをマスクの代わりにして、口に当ててゆっくり歩いていた。その時、反対車線のほうで、タクシーの窓を開けて、女が何か叫んでいるのが聞こえたが、このバンコクで知り合いがあるわけてなし、何も思いあたる事がないので、聞くともなく通りすごした。窓から体を乗り出している女は必死で、こちらをみながらなにか叫んでいるが、元々言葉が全然わからないので、僕は無視したような顔をしていた。反応を示さない僕に諦めたのか、タクシーは僕の進行方向とは反対の方に走り出した。僕はこのことを気にもとめず、今来た道を歩きだした。
降ったりやんだりしている雨は、小降りからちょっと、きつく降り出した。そうは言っても、雨宿りしなくてならないほどの降りでもなかった。
なんの前ぶりもなく突然、タクシーが僕のそばに横付けされた。びっくりして覗いてみると、先ほど大声でわめいていた女が窓を開けて、また何か叫んでいる。
一体誰に向かってものを言っているのか、僕は立ち止まってあたりを見回したが、見あたるものは何もない。是は僕のことかもしれないと思い女のほうをみた。
言葉では通じないと思ったのか、この女は、今度は身ぶりを交え、僕の方を指さして、しかも英語で話し掛けてきた。よくみるとヨーロッパ人ではない、勿論タイ人でもない。皮膚の色からすると東南アジア系である。大柄ではなく、どちらかと言えば小柄で、肌色は小麦色だ。マレーシア、シンガポール、どうもこの辺からやってきたらしい。
ドアをあけるなり、彼女は英語で書かれたバンコックの市内地図を広げた。左手には500バーツ札を握っている。早口で言ったことを要約すると、こういうことになる。
私は今香港から、生まれて初めてこの町に、やってきたので、町のことがからっきし判らない。空港でタクシーを捕まえたが、運転手は英語が分からないから、今何処を走っているかも判らない。
空港からはもう1時間も走っているけど、ホテルにも行けない。
どこかこの近くで良いホテルがないか。あったら案内して欲しい。とにかく英語が通じないと話にならない。そこであなたに聞くが、英語の通じるホテルを教えて欲しい。この運転手では言葉が通じないから、何を言ってもダメだめで、この車に乗って一緒にいってくれないか、」ということであった。
僕は「いち旅行者で、バンコックはよく知らない。だから何処のホテルがいいかは全く判らない。適当に大きなホテルに飛び込んで、英語で話してみたら、どうだろう、」というアドバイスを残して、歩き出した。雨はかなり激しく降り出した。
しばらくすると、タクシーは追いかけてきて、また僕の横に止まった。これ以上聞きたくはないから、誰か他の人にきいとくれ、そんな思いから、僕は相手にせず無視して歩き出した。
ところが今度は彼女はタクシーから降りてきて、僕を無理やりタクシーのそばまでつれていき、
「助けると思って一緒に、行ってくれ」と言って手を合わせた。
左手に握った500バーツ札を示しながら、タクシー代は私が払うので、とにかく乗ってくれと、強引にタクシの中へ僕を引きずり込んだ。
タクシーのメーターをみると390バーツをさしている。確かに空港からここまで、迷いに迷ってやってきたのだろう。昼間だったら空港から、この辺りまでは150バーツもあれば十分来れる料金だから、それをはるかに越えている。僕はおなじく外国人として、何かよいアドバイスが出来ないのもかと、頭の中で考えを巡らせた。
道端とはいえ、交通量の激しいこの通りで車を駐車させておくことは迷惑な事であった。先がつかえた車は、先程から幾度と無くクラクションをならしている。女は走ってくれと身ぶりで運転手を促した。車はのろのろと走り出した。後ろの座席に女と僕は座っていたが、何を思ったのか、女は急に服の上から僕の体を触りだした。彼女はシンガポールから来たマッサージ師だと言った。
ははーん。僕に案内してもらったお礼としてマッサージでもしてやろうというのか、成る程。そうだったのか。僕はそれなりに納得したが、その反面、その時何かおかしいと思った。最初は香港から来たと言ったように思う。いや確かにそう言った。しかしいま
シンガポールのマッサージだという。
しかも、待てよ。マッサージとは言いながら、どうもズボンのポケットのあたりに手が伸びてくる。僕はマッサージするなら、肩が凝っているから、肩をしっかりもんでくれと要望した。それにたいして彼女は全く答えることなく、必死になって、僕の金の在処を探しているかのようだ。
これはひょっとしたらスリじゃないか。マッサージにかこつけて、財布から金をすろうとしているのではないか。急に僕は正気にかえった。先ほどからのマッサージぶりをみてみると、まず左ポケットあたりを盛んにさわっていた。それが済んだらさりげなく、今度は右ポケットあたりをさわってきた。しかし彼女の手は僕の財布にはとどかなかった。というのは右ポケットは用心の為に深くしてあって簡単に手をつっこめないように改良してある。
ポケットが浅いとスリにあう確率が高いので、自己防衛のために特別にふかくしてあるのだ。恐らく右ポケットには何も入れていないと判断したのだろう。その時財布は足の関節付近まで降りていて、通常の位置には無かったのだ。さらに腹に巻いているパスポートやら、財布の現金の方へ指をはわしている。
こいつはひどい奴だ。道案内を頼む振りして、車の中に引きずり込み、身体検査よろしく体を触り回って財布や、ポケットにある金目のものを、すり取ろうとしているのではないか。
僕は目がさめた気分になった。なおもあちこち、さわりまくっている女に対して、
僕は「俺の体に触れるな。」と大きな声を出した。
「俺の体にさわるな。もうマッサージはいい。俺はここで降りる。車を止めろ。」
彼女は何を感じたのか、今度はマッサージ、マッサージと叫びながら、腹巻きの中に、手をつっこみそうな気配である。僕は思いっきりその手をはらった。そして小柄な女の体を反対側のドアに向けて突き飛ばした。それから日本語で
「この野郎。人の親切心につけ込んで、スリをやろうとしているのか。ばかもん。どつくぞ。手を引っ込めろ。体にさわるな。今度さわったら、なぐるぞ。」
恥も外聞も無く、僕は大声で怒鳴り、女をにらみつけた。車内でのトラブルだが、何せ僕も大声で怒鳴りつけたものだから、運転手もこちらを見ている。僕は運転手にドアをあけるように言って、身ぶりで、その仕草をした。運転手はドアをあけた。僕はすぐさま飛び降りた。やがて車はさまように、ふらふらと走り出した。女は窓越しに鬼のような面をして、僕をにらめつけていた。
考えてみると奇妙なことである。日本人の感覚からすると、空港で、いくらでもホテルを調べることが出来るし、運転手にホテルと言っただけで、どこか大きなホテルにつれて行くに違いない。
タイ語では何というか知らないが、ホテルは世界共通語になっている。ましてや、運転手をやっていて、ホテルを知らない人はいない。知らなければタクシーの運ちゃんはつとまりっこない。
だからあの女はタクシーを乗り回しながら、カモを探していたのだ。ニュロードへさしかかったときに、独りの外国人の男が傘も差さずにふらふら歩いているのが目に留まり、カモにしょうとしたが失敗した、というストーリーが真実であるような気がした。
「へえ、俺がカモに、」これはやばいところだった。
実は僕はこのときヨーロッパ行きの航空券を買うために、かなりの現金を持っていたのだ。幸いこの金は右側の深いポケットの一番奥に入れてあったから、あの泥棒女も手に触れることなく、僕をみなり同様の貧乏人と思ってあの程度のことしか、しなかったのだろう。
はっはっはー。これは俺の勝ちか。それにしてもポケットを深くしておいてよかった。
あの歳格好からすると、とうに40歳はすぎていように。本人の責任とはいえ、なんとかわいそうな人生なんだ、僕は被害に遭わなかった安心感からか、あの女に同情すら寄せる余裕があった。
財布をすられたら一大事である。すられないように気をつけることは勿論であるが、人間の注意力には限度がある。そこで僕は知恵をしぼって、出来るだけとられにくくするという工夫をした。ズボンのポケットの深さを普通の倍以上の深さにした。これだと余程中に手をつっこまないと中のものを取り出すことは出来ない。腕をまるっぽつっこまないと財布を引き出すことは出来ないのである。
今回のこの件でも彼女は通常のポケットの位置をさわりまくったが、ついぞ、財布の存在に付いては、わからなかったようだった。ズボンの上から手を回して、右ひだりのポケット付近を盛んにさわっていたが、財布のあるところまで、指は伸びていなかった。
もしこれを知恵比べと言うのなら僕の完勝だ。
ざまあみろ、お前ほど頭は悪くないよ。しっかり考えて旅をしているんだ。日本を一歩でりゃ、ろくな人間が待ってやしない。
だから生活の知恵として、自己防止に、予防に予防を重ねているんだ。お前クラスに、そう易々やられてたまるもんか。僕は思わぬ事件に遭遇してこんな勝ち誇ったような気分になった。雨は少し小降りになってきた。
ところで今回は僕は被害が無かったけど、あの手口からみると、又どこかで、いつかきっとやる。 油断した誰かがきっと被害にあう。
僕は警察に届けたものがどうか考えた。しかし事の顛末を英語で、いやタイ語で説明しなければならないだろうから、とても警察に行く気にはなれなかった。すべてが終わった後になって、
考えたことはこんなことだった。