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読書『害虫の誕生―虫からみた日本史』

2009-08-20 08:18:03 | 読書
害虫の誕生―虫からみた日本史 (ちくま新書)
瀬戸口 明久
筑摩書房

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 「害虫」―人間の手で排除すべき有害な生き物という概念が、近代国家がもたらしたものであるということは、当初は意外な感もした。

 黄金虫は金持ちだという、童謡こがねむしに出てくるこがねむしは本来は、ゴキブリのことだと言う。江戸時代などにも、ゴキブリは、餌となる食糧が多く存在する金持ちの家にしか生息しなかったからだ。また、一茶の俳句にも出てくるハエも、衛生害虫という概念がなく、かわいらしい虫と解釈する例も珍しくはなかった。
 農業に関しても、稲作に関する害虫は、一般には、「自然にわいてくるもの」という自然発生説の考えをとるのが普通であった。だから、そうした虫が大発生した場合、ないしは予防するためには、神仏の力を頼み、寺社のお札を使用したり、虫送りなどの行事を行っていた。
 こうした考えに対して、明治政府から始まる近代国家が、国民に「害虫」という概念を力を持って啓もうしていった。食糧増産という国策によるものであったが、当初は、農民たちの「サーベル行政」に対する反発も当然のように起こった。
 大正期からは、病気を防ぐという「衛生害虫」の概念が国民に広められていった。

 このように、「害虫」概念と「害虫」対策は、科学の進歩と同時に、国家の国策により、国民の間に広められて行った。その過程で、牧歌的な昆虫学を専攻していた昆虫学者も「応用昆虫学」という分野で、国策の協力に組み込まれていった。後には、他分野の科学者に置き換えられて行ったが。こうした動き、科学者の関与は、戦時において顕著な動きを見せた。農薬をもとに毒ガスが製造されたり、毒ガスから農薬が製造されたりすることが行われた。

 日本においても、台湾をはじめとする植民地統治政策や、第二次世界大戦の侵略における「マラリア」対策における、「害虫」「衛生害虫」対策も本書では詳しく述べられている。

 人間が自然をコントロールするこうした国家による歴史観が、「害虫」概念を通して本書では語られていく。そこには、科学研究が社会と国家に無関係に展開されたものではないことを指摘する。今、台湾に関する報道の対する右翼やネット右翼による攻撃が行われているが、まずは、事実を冷静に見つめる必要があろう。本書における「害虫」対策が台湾において積極的に進められ、戦地でも展開されていた意味を良く考えてみる必要があるだろう。