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言葉の力/『出世ミミズ』

2009-08-11 00:32:44 | 読書
出世ミミズ (集英社文庫(日本))
アーサー・ビナード
集英社

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 アーサー・ビナード氏をテレビで初めて見たのは、東京のローカル局のMXテレビの番組であった。秋葉原を紹介した番組の中で、白人の男性が自転車に乗って、色々な所を訪れ、俳句なども詠んでいる。もちろん、話す時も流暢な日本語である。はっきりした名前は覚えることはできなかった。

 第五福竜丸の本が出版されてるのを知った。ベンシャーンのラッキードラゴンシリーズの絵。その絵に言葉を付けたのが、あのテレビで見たアーサー・ビナード氏だと確認した。その時は、夢の島公園にある第五福竜丸で、その本に関する展示があるというニュースを見たのがきっかけであった。

 また、各地にできた憲法9条の会で、講演をしていることも知った。

 1967年、アメリカミシガン州の出身で、1990年に来日し、日本語での詩作・翻訳を始めた。そんなことを知ったのは、だいぶ後のことであった。

 今回は、エッセー集『出世ミミズ』を読んでみた。日本に来てから、習字を習い、短歌にいそしみ、謡いの稽古に通っているという。恐れ入りました。

 アメリカでの少年時代からの生活のこと、日本での日本語との関係についてなどの日本語によるエッセーは、呼んでいて楽しい。英語、日本語という言葉についての記述は、言葉の持つ意味や力を感じさせてくれた。また、どの小文も最後に落ちが付いている。時には、落語流のダジャレで落としている。われわれ日本人は、日本語を大切に扱っているのかな。

 また、政治的な自己主張もはっきりしている。ブッシュのイラク侵攻や、ボヘミヤ紛争に関するまなざし。

 7月28日付のしんぶん赤旗にアーサー・ビナード氏に聞くという記事が載っていた。言葉に対する力について述べられていた。一部は、『出世ミミズ』でも触れられていた内容である。

 言葉の力で社会を変えようというのは、いかにも詩人の言葉だ。そして、対抗勢力の使う言葉に対しては、“ウソ発見”の能力を高めようと呼び掛けている。

 「詩人の仕事は、読者と一緒に現実を発見すること。新しいところに、人々を連れていこうとすること。でも言葉がむしばまれてしまうと、それを立て直すのも詩人の仕事です。」

 たとえば、
「民営化」「官から民へ」の「民」は市民のことではなく、大資本の民間企業のこと。ネーミングによるすり替え。

「規制緩和」、大企業のために規制を緩めた社会では、市民が危険にさらされ、自然環境も犠牲になる。

 当然、アメリカでもすり替えが行われてきた。「war」を「defense」と言い替えることで、侵略戦争をカモフラージュしてきた。

「国益」は、最近は日本でもすり替えが行われて使われるようになった。国民の利益を指すのではなく、逆に大多数の国民の利益に反することが多い。

 言葉に騙されないこと、アーサー・ビナード氏は、ヘミングウェイが作家にとって必要なものは何かと聞かれた時の答え「ウソを見破る能力だ。どんな衝撃にも耐えうる完全内蔵型のウソ発見機」を紹介し、現代社会では、作家だけでなく、われわれ自身もそれを持たなくてはならないと。

 そう、「国際社会」を政治家や官僚がいうときは、実は米政府の事をよんでいるんだと。「グローバリズム」=「一部の特権階級がいつでもどこでも、何の縛りも受けずに、ぼろもうけする『ムサボリズム』、「サブプライムローン」=「低所得者たぶらかし餌食住宅ローン」、「ソマリア沖の海賊」=「追いつめられた漁民」。
 詩人により立て直された言葉。

 言葉は人をだます道具になるが、ウソを見抜く道具にもなるというアーサー・ビナード氏の言葉、しっかり胸にしまっておこう。そして、ウソを見抜く力を付けよう。

 アーサー・ビナード氏の著作を続けて読んでみようと思う。