神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] 彷徨える艦隊 3 巡航戦艦カレイジャス

2013-10-22 22:28:21 | SF

『彷徨える艦隊 3 巡航戦艦カレイジャス』 ジャック・キャンベル (ハヤカワ文庫 SF)

 

《彷徨える艦隊》の3巻目。

今度の敵は艦隊内の人間関係と、立て直してきたシンディック軍。さすがに、シンディックもそろそろ殴られっぱなしではなくなってきた。

古来の伝統的手法(!)により艦隊を率いるギアリーの手腕が艦長たちにも認められ、抵抗勢力の主要人物が失脚するにつれ、艦隊内の派閥は反ギアリー派、親ギアリー派、そして、ギアリー本人ではなく伝説の“ブラック・ジャック”ギアリーを信奉するブラックジャック派へと分裂していく。その中で、ギアリーはなんとかバランスを取り、ファルコ大佐が招いたような艦隊の分裂を二度と起こさないように苦心する。

ギアリーは近辺に、親しく、かつ、ギアリーに批判的な人物を置こうとする。これがリオーネ副大統領であるのだが、これまたゴシップ的な噂に付きまとわれ、しかも事実として関係を持ってしまっているわけであるから、人間関係はさらに混乱していく。

デジャーニを含めた三角関係や、艦長派閥の人間関係に苦しめられる展開は宇宙戦争SFとしてどうかとも思うが、そもそも1巻の最初からそういう小説なのだ。ギアリーとリオーネの関係は昼のメロドラマみたいだし、艦長会議でのギアリー派、反ギアリー派の駆け引きは倒産間際の会社の取締役会議のようだ。というか、これって本当に評判通りのミリタリーSFなのか?

一方で、連戦連勝のアライアンス艦隊にも、ついに絶体絶命の危機が訪れる。シンディックだって馬鹿ではないので、ついにギアリーの戦術に対応し始めた。考えてみれば、そんなに都合よく勝ち戦を続けられるのであれば、100年も戦争は続かないわけで。

艦隊内の人間関係と強大なシンディック艦隊。内からと外から、さらには、精神的にも物理的にも追い詰められたギアリーは意外な人物にまで助けを求める。今回はこのあたりのギアリーの壊れっぷりがしっかりと堪能できる。

ここでギアリーはなんとか戦況をひっくり返そうと、有利なフォーメーションを組み、局所的に数的有利な状況を作り出そうとするのだが、この艦隊フォーメーションの記述がいまひとつわかりづらく、理解しづらい。“右舷”の解釈も、なんども説明されるが、どうしても艦の進行方向で考えてしまうので激しく混乱する。このあたりはなんとか図を使ってわかりやすくできないものか。

 

第一部完となる6巻までは中間地点。100年前の英雄がよみがえり、忘れ去られた戦術を復活させて強大な敵を打ち破るというシナリオはここで転換期を迎え、刀折れ矢尽きた等身大のギアリーの戦いへと続いていく。

 


[SF] 彷徨える艦隊 2 特務戦隊フュリアス

2013-10-22 22:25:13 | SF

『彷徨える艦隊 2 特務戦隊フュリアス』 ジャック・キャンベル (ハヤカワ文庫 SF)

 

《彷徨える艦隊》の2巻目。

なんとか艦隊を掌握し、シンディックの裏をかいて逃走と進撃を続けるギアリーの前に現れた強敵は、アライアンスの英雄、ファイティング・ファルコ大佐だった。

このファルコ大佐はシンディックに捕虜としてとらえられていたが、キアリー同様、過去の英雄。しかし、その真実の姿は、アライアンス軍の劣化を如実に示すでくの坊だった。しかし、彼の実績と人望は大きく、遂には艦隊を分裂させてしまう事態となってしまう。

第2巻ではシンディックとの戦いがメインかと思いきや、第1巻に続いて組織運営の難しさがクローズアップされる。それに比べて、戦闘の相手であるシンディック軍は主力から外れた小部隊や訓練艦隊のみで、強大な敵とまではいかない。

このあたりのズレで、宇宙戦争SFを期待していた読者にとっては、退屈な小説に読めるのかもしれない。しかし、組織運営や組織文化といった切り口から見ると、これはこれでおもしろい。なんといっても、ファイティング・ファルコのような、声の大きな無能者に悩まされる組織は少なくないだろう。そこで、あるあると思えるかどうかで、評価は大きくわかれるのではないか。

#っていうか、うちの会社にもいるよ。あいつだ、あいつ。

 

ちょっと話は違うが、この世界の宗教観がおもしろい。欧米出身作家だと、キリスト教が前提の文化になってしまうのだが、この世界でも、戦艦の中に懺悔室があり、完全なる秘密厳守の元に、乗組員の告解を受け入れることができる。しかし、ここで告解をする相手は神様でも神父様でもなく、なんと、ご先祖様である。そして、ことあるごとに、「神様が見ている」ではなく、「お天道様が見ている」でもなく、「ご先祖様が見ている」という表現で戒めが語られる。この宗教観はいったいどこから出てきたのだろう。

アライアンスは完全民主主義っぽいので、宗教の自由を保障するためにどんな宗教でも対応できるようなシステムを作り上げた結果、このような宗教が生まれてしまったのだろうか。それとも、アライアンスの母体となった組織、あるいは国家の宗教観を受け継いでいるのか。それならば、その母体になった組織とは何か。ちょっと興味深く、気になるポイントだ。

一方で、全体主義のシンディック(どうやら、独裁制ではく、官僚制の意のようだ)では、絶対的善である一神教を信奉しているんじゃないかという気がする。そうでもしないと、絶対服従の社会は成立しないんじゃないか。

何にしても、神様ではなく、ご先祖様に祈るというのは、ちょっと日本的というか、土着宗教的で、この手の戦争小説では珍しいと思った。

 


[SF] 彷徨える艦隊 旗艦ドーントレス

2013-10-22 22:21:58 | SF

『彷徨える艦隊 旗艦ドーントレス』ジャック・キャンベル (ハヤカワ文庫 SF)

 

積読消化。それにしても、早川文庫がトール版になる以前からの積読とは年季が入っている。完結してから読もうと思っていたけど、いつまで続くかわからないので第一部の6巻まで一気読みを決意。

しかし、これは思った以上に燃える小説だった。周りが馬鹿ばかりでどうしようもないのが最大の危機という設定がすごい。

人類が恒星間文明へ発展し、星系同盟(アライアンス)と惑星連合(シンディック)の2大勢力に分かれて戦争を繰り広げている未来。主人公のギアリーは戦いで艦を失い、救命ポッドによる人工冬眠に入っていた。その100年後(!)ギアリーが目覚めると、戦争はまだ続いており、しかも彼を回収したアライアンス大艦隊は窮地の真っただ中。

“最初の戦い”の功績で、知らぬ間に伝説的な英雄に祭り上げられていた“ブラック・ジャック”ギアリー大佐は、最先任士官として艦隊司令官へ。しかし、ギアリー本人は、伝説の英雄と本来の自分とのギャップに戸惑うばかりだった。

ギアリーの最大の敵はシンディックではなく、艦隊を構成する無能な士官ども。という設定がおもしろいが、イライラしてたまらない。

アライアンスはその名の通り、上下関係のない個人の提携として民主主義を重んじる。それが故に、艦隊の指揮においても投票で決めようとしたり、功績に逸るあまりに命令に背いて単独で敵艦に突撃したりする。統制のとれた軍隊の戦い方ではなく、まさに烏合の衆。

一方のシンディックは絶対服従の完全独裁制で、硬直した指揮系統のもと、前線の兵士による柔軟な行動がとれない。これによる問題は、宇宙での艦隊運用の実情が明らかになるにつれ、非常に大きな弱点として見えてくる。

なるほど、これでは100年間も戦争が終わらないはずだ。

しかも、100年以上も戦争が続いた結果、相互の憎悪は復讐の連鎖によって増幅し続け、敵勢力であるならば民間人も皆殺しにすることを辞さないという残虐っぷりを見せるまでになっていた。

ギアリーは艦隊を掌握し、規律を叩き込み、捕虜や民間人への人道的な取り扱いを復活させようとする。しかし、そこに立ちはだかる抵抗勢力の数々。この艦隊戦よりも胃が痛くなる駆け引きが小説の肝。ある意味、組織掌握のリーダーシップの教科書にもなりそうであるが、こんな仕事は俺には真似ができそうにもない。

というか、敵艦隊が弱すぎで、戦争特有の壮絶さや悲壮感は無い。今のところは。

まだ1巻を読んだだけで、物語がどう転ぶかわからないが、かなり惹きこまれるイライラ系燃え小説のようだ。戦争の主体である2大勢力だけではなく、怪しい異星人の影も見えたり、SF的な大仕掛けにも期待したい。

ってことで、第2巻に突入……。