『彷徨える艦隊 3 巡航戦艦カレイジャス』 ジャック・キャンベル (ハヤカワ文庫 SF)
《彷徨える艦隊》の3巻目。
今度の敵は艦隊内の人間関係と、立て直してきたシンディック軍。さすがに、シンディックもそろそろ殴られっぱなしではなくなってきた。
古来の伝統的手法(!)により艦隊を率いるギアリーの手腕が艦長たちにも認められ、抵抗勢力の主要人物が失脚するにつれ、艦隊内の派閥は反ギアリー派、親ギアリー派、そして、ギアリー本人ではなく伝説の“ブラック・ジャック”ギアリーを信奉するブラックジャック派へと分裂していく。その中で、ギアリーはなんとかバランスを取り、ファルコ大佐が招いたような艦隊の分裂を二度と起こさないように苦心する。
ギアリーは近辺に、親しく、かつ、ギアリーに批判的な人物を置こうとする。これがリオーネ副大統領であるのだが、これまたゴシップ的な噂に付きまとわれ、しかも事実として関係を持ってしまっているわけであるから、人間関係はさらに混乱していく。
デジャーニを含めた三角関係や、艦長派閥の人間関係に苦しめられる展開は宇宙戦争SFとしてどうかとも思うが、そもそも1巻の最初からそういう小説なのだ。ギアリーとリオーネの関係は昼のメロドラマみたいだし、艦長会議でのギアリー派、反ギアリー派の駆け引きは倒産間際の会社の取締役会議のようだ。というか、これって本当に評判通りのミリタリーSFなのか?
一方で、連戦連勝のアライアンス艦隊にも、ついに絶体絶命の危機が訪れる。シンディックだって馬鹿ではないので、ついにギアリーの戦術に対応し始めた。考えてみれば、そんなに都合よく勝ち戦を続けられるのであれば、100年も戦争は続かないわけで。
艦隊内の人間関係と強大なシンディック艦隊。内からと外から、さらには、精神的にも物理的にも追い詰められたギアリーは意外な人物にまで助けを求める。今回はこのあたりのギアリーの壊れっぷりがしっかりと堪能できる。
ここでギアリーはなんとか戦況をひっくり返そうと、有利なフォーメーションを組み、局所的に数的有利な状況を作り出そうとするのだが、この艦隊フォーメーションの記述がいまひとつわかりづらく、理解しづらい。“右舷”の解釈も、なんども説明されるが、どうしても艦の進行方向で考えてしまうので激しく混乱する。このあたりはなんとか図を使ってわかりやすくできないものか。
第一部完となる6巻までは中間地点。100年前の英雄がよみがえり、忘れ去られた戦術を復活させて強大な敵を打ち破るというシナリオはここで転換期を迎え、刀折れ矢尽きた等身大のギアリーの戦いへと続いていく。
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