神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] ZOO CITY

2013-10-01 22:38:41 | SF

『ZOO CITY』 ローレン・ビュークス (ハヤカワ文庫 SF)

 

2011年度アーサー・C・クラーク賞受賞。この賞は選考委員会方式なので、アメリカのネビュラ賞や日本の日本SF大賞に相当するらしい。しかし、選考委員の顔ぶれのせいか、受賞傾向が見えにくい賞だ。

「読みにくいしSFじゃない」という感想が多いのは知っていたが、2012年度受賞の『世界を変える日に』がなかなか良かったので、英国SFの現状を知る上でも読んでみようと思った。

結果、感想は……読みにくいしSFじゃない。

アフリカSFとして頭に浮かぶのはレズニックの『キリンヤガ』あたりだが、そこまでアフリカっぽいわけではない。時代は現代。つまり、パラレルワールド的ヨハネスブルグ。舞台となるこの街は2chの“ヨハネスブルグのガイドライン”そのままな犯罪都市。しかしながら、アパルトヘイトや、急激な社会変化によって空洞化した都市中心街といったヨハネスブルグ特有な味付けは薄く、中南米や東南アジアのスラム街が舞台と言っても通るぐらいな感じ。よく言えば普遍性があるということなのだろうけど、南アらしさが、いまひとつ感じられなかった。

著者は南アフリカ在住とのことなので、これが本当の南アであって、著者から見たリアルなスラムであるということなのだろうか。

物語に大きく影響する呪術的側面も、事件を巡る大きなカギではあるけれども、社会情勢や市民生活の中にはそんなに入り込んでいない。実際、主人公も呪術には懐疑的であるし、小説中の描写においてもオカルティックな現象ではなく、ドラッグ的な描写にとどまっている。

で、SF的、もしくはファンタジー的設定である“動物連れ”(“動物憑き”とは違う)にしても、いまひとつ解釈が定まらない。アフリカ特有の文化や、呪術的な何かのアナロジーかとも思うのだけれど、全世界的な現象であるということから、この解釈も成り立たない。

人間の根源的何か、性格や原罪といったものを示しているのだろうかとも思うが、断片的に挟まれる記事からの類推では、なかなかしっくり来るものは見つけられない。あるいは、日本でいうところの“犬”の刺青とか、まったく正反対に聖痕とか。

物語としても、これらの動物連れや、それに伴う超能力(というほどのものではないが)はメインではなく、犯罪都市を舞台にしたハードボイルド小説の側面が大きい。個人的な感想から言わせてもらえば、(狭義の)SFでもなく、マジックレアリズムの範疇からも外れており、SFの文脈で評価される理由がよくわからない。

そうはいっても、中盤を過ぎて、文体や世界設定に慣れてきたあたりからは、かなり惹きこまれる展開で面白かった。あくまで、ハードボイルドとして。

分量の大半を占める第一部が終わって、第二部という表記を見たときに、動物連れの真相や手がかりが語られるのかと思ったが、第一部の背後にある呪術的な真相が明かされ、さらなるアクションシーンに突入してしまったのは期待外れだった。

これはこれで面白いんだけれどね。しかし、どうして現代なのに我々の知っている世界とちょっとだけ違うのかとか、動物付きが暗示するものはなんなのかなど、どなたか、すげーとおもえるようなSF的(もしくは文学的)解説をプリーズ。