『深海大戦 Abyssal Wars』 藤崎慎吾 (角川書店)
NHKのダイオウイカ撮影による深海ブーム、さらに、話題のロボットvs怪獣映画『パシフィック・リム』での最終決戦も深海。
そんな時勢に乗ったのかどうか、『ハイドゥナン』や『鯨の王』で知られる日本海洋SFの雄、藤崎慎吾の新作は、なんと深海でヒト型ロボットが戦う熱血小説。
近未来、メタンハイドレートの海底ガス田が実用化され、海上プラントやそれを守る私設軍隊が、国家を越えた共同体として育とうとしている時代。
海上都市で生まれ育ったシーノマドたちは独自な文化と技術を生み出し、新たな大洋の支配者になろうとしていた。
ってところで、ガス田に対するテロと、対テロ対策武力である私設軍隊が深海兵器を使って戦うというのがコンセプト。
深海でヒト型兵器が戦うというと荒唐無稽な物語に聞こえるが、水中での戦いに特化した武道である水中合気柔術や、その動作を戦闘で効果的に活かすためのヒト型兵器の必然性はもちろん、海底ガス田や深海生物に関する最新知見を盛り込んだ、ちゃんとした本格SF。
整形美人とまで言われる美形のツンデレヒロインや、説明がやたらと多い解説役のキャラクターなど、ちょっとそこはどうなのと思える部分もあるが、類型的なキャラクターで類型的な物語を作り、そこで掟破りのテーマを見せるのであれば、そのギャップは大きな効果になり得る。
しかしながら、ここまでは、ヒロインとの確執にしろ、友人の死にしろ、敵役と師匠の関係にしろ、あまりにも類型的な物語に終始してしまっている。これはロボットアニメのパロディか何かなのか?
「ここまでは」というのは、なんとまったく話が終わっていないのだ。主人公の搭乗する新兵器が遂に実戦投入され、驚異的な性能を示して危機を救ったところで終了。ここからSF的に面白くなるぞという場面ですべての謎は投げっぱなし。
最終ページには「中深層編了」の文字。
俺たちの戦いはこれからだ、で終わってしまうのが最近の流行なのかもしれないが、これではあまりにも消化不良。とりあえず、藤崎慎吾先生の次回作に、ぜひご期待ください!!!