神なる冬

カミナルフユはマヤの遺跡
コンサドーレサポーターなSFファンのブログ(謎)

[SF] プシスファイラ

2009-12-13 22:55:22 | SF
『プシスファイラ』 天野邊 (徳間書店)




日本SF新人賞受賞作。SF Japanの講評を読んだときからバカSFの気配がして、読みたいと思っていた。それが恒例の赤本で出版されていたので買ってみた。

bool main(){ で始まり、return 'NaN';}で終わる物語。どんな言語、これ。
NaNはNot a Numberで、boolに代入できないと思うんだけど。

まぁ、それはさておき、SFとしてはどうか。

……うーむ。ちょっと消化不良気味なんだよね。
言語とコミュニケーション、特に「何故」の始まりと、その行く末をたどる小説なのだが……。

まず、人類の文明よりも先に、クジラが音波によるネットワークを生成し、そこに高度な文明を発生させていたというところから始まるのだが、この描写がどう見てもクジラじゃなくて、出来損ないのA-Life。出来損ないというのは程度が低いということではなく、最初から高度に確立されすぎている。創発性によって得られたものというより、どっかの学生がヒューリスティックにコーディングしたレベル。しかもIPとかパクリすぎなのも学生レベル。

これらをすべて比喩として読むのが正しいのかもしれないが、どうも想像が付かない。どうしても、既存のインターネットそのものに見える。

“コンソール”とか、“プロンプト”とか出てくるのだが、いったいぜんたい、具体的にはなんなのだ、それ。

小説全体がプログラムを擬していたり、別な物語がキューに積まれているラストを考えると、クジラとかいいながら、実は全部コンピューターシミュレーションでしたというオチとして解釈も出来るんだけど、そうなのか?

小説としては、とにかく読みずらい。目が上滑りして、文章の意味がつかめない。これも、わざとやってるのならスゴイのだろうが、そうは見えない。

キャラクターをできるだけ省いて、年表かのように事実だけを書き綴るという形式はSFとしては実に効果的なのだが、そうならば主人公のカイエもいなくて良かったのに。一貫した視点のようで、そうでもなくて中途半端。

ハードウェアを次々に乗り換えて限界まで計算能力を向上させていく様は、チャールズ・ストロスの『アッチェレラント』を思い起こさせる。しかし、さらに熱死の中で宇宙の滅亡を見届けるためにクロックを落とすという方向に進化するあたりもおもしろかった。確かに、そういう評価できる点も多々ある。

しかし、結局のところ、感想は残念ながら、
 長文乙
 日本語でおk
でしかない。

もしくは、発表形式にのっとれば、
 Syntax error.
 Too many errors... Stop executing.
という感じか。

ちょっと残念無念。

[SF] S-Fマガジン2010年1月号

2009-12-13 00:03:13 | SF
『S-Fマガジン2010年1月号』 (早川書房)




創刊50周年記念特大号 PART・1 海外SF篇。厚い。重い。高い(笑)
ビーケーワンで買ったんだけど、1冊注文なのにメール便じゃなくて宅配便になったくらい。
ただ、雑誌装丁なだけに、持ち歩くと結構ボロボロになった。

正直言って、ここしばらくで最高のアンソロジーだ。どれもハズレなし。このまま文庫化したら評判よさそうなレベル。
名作再録もうれしい。これが無かったら読まなかったかもしれない作品だったり。

2月号の日本SF篇も大いに期待できる。



オールスター作家競作

「息吹」 テッド・チャン
◎:熱力学第二法則をここまで感動する物語にするとは、その手腕に感動した。

「クリスタルの夜」 グレッグ・イーガン
○:なんだか、“のび太のなんちゃら”みたい。

「スカウトの名誉」 テリー・ビッスン
○:ネタばれしすぎ。もうひとひねり欲しい。

「風来」 ジーン・ウルフ
◎:この世界観は痺れる。ラストは悲しすぎる。

「カクタス・ダンス」 シオドア・スタージョン
○:これも世界観は素晴らしい。肝心のラストがなんとなくグダグダ感があって減点。

「秘教の都」 ブルース・スターリング
○:これって、エディー・マーフィーが主演しそうなコメディじゃね。

「ポータルズ・ノンストップ」 コニー・ウィリス
○:残念ながら、ジャック・ウィリアムスンは良く知らない。

《ドラコ亭夜話》 ラリイ・ニーヴン
○:《ドラコ亭》行きたい! でも、なにそれこわい系かも。

「フューリー」 アレステア・レナルズ
○:壮大な復讐劇。動く甲冑かっけー。

「ウィケッドの物語」 ジョン・スコルジー
○:ちょっと考えれば、そりゃそうだ。

「第六ポンプ」 パオロ・バチガルピ
◎:自分も似たようなもの。近未来小説だと安心するな。これは現代社会の風刺だ。

「炎のミューズ」 ダン・シモンズ
○:本当にシモンズってシェイクスピア・オタクだよな。



名作SF再録
「凍った旅」 フィリップ・K・ディック
○:ひねくれものめ。だからそうなるのだ。

「明日も明日もその明日も」 カート・ヴォネガット
◎:世代間格差、世代間闘争。これが現代日本の縮図。

「昔には帰れない」 R・A・ラファティ
○:嘆くのはそこかい!

「いっしょに生きよう」 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
○:ハッピーエンドの「たった一つの冴えたやりかた」。

「記憶屋ジョニイ」 ウィリアム・ギブスン
△:やっぱり俺には黒丸文体は読めないらしい(笑)