★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
SF、ミステリーから現代物まで何でも書いてます。
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居酒屋にて(6)

2010年12月29日 | SS「居酒屋にて」
メガネ男も負けてはいない。ペイズリー男のゆるみきったネクタイとワイシャツをまとめてつかみ、怒鳴り返した。
「なにおぅ!こんにゃろー!やるのか!やるってぇのかぁ!」
 店員は、目の前で始まった酔っ払い同士のケンカに、口を「あ~あ」という形に曲げてしばし傍観している。
 ペイズリー男は、どうやらケンカは売ったものの、買ってくれるとは思っていなかったらしい。がっぷり四つに組んだ形のままちょっとの間固まってしまった。
 すると、メガネ男は、首を締め上げる手に力を込めたようで、ペイズリー男の血走った目がますます赤くなってきた。
 苦しくなったペイズリー男も手に力を込める。すると力の均衡が微妙にずれてきて、二人の体が数センチ傾いた。
 メガネ男のカウンターテーブルには、ホッピーの空瓶が数本立っている。その一本にバランスを崩したメガネ男のひじが軽く当たり、カウンターの上でカチャンと倒れた。
 それを見た店員は思わず「あっ」と叫ぶ。
 その音と声にギョッとした二人は互いに胸元から手を離したため、テーブル上ではそれ以上の被害は出なかったものの、腹の虫は収まらないらしい。