★しろうと作家のオリジナル小説★

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義腕の男2(14)

2014年05月21日 | 短編小説「義腕の男2」
 昔はもっと大きかったようだが、オアシスの水量が徐々に減ってきており、町自体が少しずつ砂漠に侵食されてきている。その証拠に、町に入る手前の砂漠には、昔の建物が廃墟となって半分砂に飲み込まれ墓標のように建っているのが散見される。
 俺は、その建物の一つにオフロードバイクを隠し、そこで夜になるのを待ってから徒歩でN市に侵入した。
 我が国と戦争状態にあるイスラン公国なのだが、特に戒厳令等は布かれてはおらず、銃を持った兵士の姿がやたらと目に付くものの、街燈等も普通に点いていて、戦時下という緊張感はあまり無い。
 最近の戦争はこんな感じが多いらしい。
 ユーリ連邦の立場は、独裁者に対する反体制組織側の味方で、時折、予告攻撃を実施するという感じが定着している。イスラン公国体制側では、国内での反体制派への弾圧は厳しいものがあるが、ユーリ連邦への直接攻撃が行われたことはない。ユーリ連邦が本気になったらひとたまりもないことを知っているのだ。
 イスラン公国の国民も、その辺りはなんとなく理解していて、町の雰囲気もそれほど張り詰めてはいないようだ。

 俺は、闇夜に乗じてノスリル側のエージェントと合流するアジトへ向かった。赤道が近いこの国では、日中は50度を越える暑さだが、夜になれば頬に当たる風が気持ちいい。
 街燈の明かりを避け、兵士の監視から逃れるように街の中を進んでいく。
 街並みにはなんの緊張感も無い静かな空気が漂っているが、明後日に空爆予告が発表されれば蜂の巣をつついたような大騒ぎになるはずだ。


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