★しろうと作家のオリジナル小説★

三文作家を夢見る田舎者です。
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彗星の時(5)

2011年06月06日 | 短編小説「彗星の時」
「私は、『天の国』の魔導師ヤーコンと申します。こちらのお方は、同じく『天の国』のケイン様です。光の剣の御仁、貴方はどちらのお方ですか」
 そこは街道から少し外れた村にある農家の納屋の中だった。3人ともヤーコンが着ているフードの付いたマントと同じものを羽織り、肩には複雑な柄のついたタスキを掛けていた。その装束は、修行の旅を続けている魔導師の一行として世間的に通用する格好だった。
 魔導師の修行僧というのは、迷信深い田舎では家の厄払いをしてもらえるということで意外と丁寧にもてなしてもらえる。特に最近のように箒星が夜空を飾っているときであればなおさらである。ヤーコンはその点を十分承知の上で、農家へ一晩の宿泊を頼み、こうして納屋を借りることができ、夕飯まで分けてもらっていた。
 農家にもらったラキ麦のパンに、エビ豆のスープを食べながらヤーコンは聞いた。
「貴方の服装といい、その光る剣といい見たことも聞いたことも無い。いったい貴方はどこの部族のなんというお方なのですか」
 藁の上に座っている黒ずくめの男は、その問いかけにしばらく考えていたようだが、ヤーコンを見返して静かに言った。
「判らない・・俺は・・いったい誰なんだ・・どこから来たんだ・・何も思い出せない・」
 それを聞いたケインは、
「・・記憶喪失・・」
と言い、男を見つめながらパンを一口かじりとった。
「・・そうですか。いずれ危ないところを救っていただき本当にありがとうございました。改めて御礼を申し上げます。貴方の光る剣とその腕前、並みの達人ではないとお察しいたしました。もし、行くところがないのであれば、どうでしょう。我々の護衛として同行していただけないでしょうか。もちろんそれなりの報酬はお支払いいたします。我々が『天の国』に帰り着くまで是非ともお願いしたいのですが。」
 ヤーコンは男の目を見据え、真摯な眼差しで頼み込んだ。
「護衛・・ああ、何もやることもないし、、、私は構わない」
男は、遠いところを見るような表情で答えた。