ブリュースターカレイドスコープソサエティで多くの人に愛されてきたランディ&シェリー・ナップ夫妻が今年で万華鏡制作から引退することを発表したのは、6月のカレイドスコープ・エキスポの少し前のことでした。
1988年からナップ工房がスタートし、本当にたくさんの万華鏡を制作してきて、二人の技術とセンスが組み合わさった作品は品質も優れていて、私もたくさんの愛好家の方にご紹介してきました。 突然の引退表明にびっくりしたのは私だけではないはずです。 まだまだ元気で若々しいご夫妻ですので、なぜこのタイミングで???と思った人も多かったのですが、まだ元気なうちにチャレンジしたいことがあるから・・・というのが彼らの気持ちでした。
それは何と、スクールバスを改装して動く自宅とし、アメリカ中を廻るというびっくりするような、思い切った計画なのです。 オレゴン州の自宅も工房も工具も機械もすべて手放して、思い描く未来なのだそうです。現在バスを改装中(School Bus Conversion)ということで、YouTubeでその様子を逐一発信していますが、相変わらずのエネルギーとバイタリティーに驚かされます。Knapp Time で検索できると思います。
上の写真は Evolver パーラータイプ。 落ち着きのあるデザインで木目の美しい作品です。Evolveには発展させる、展開する、進化させるという意味がありますが、Evolverという言葉はたぶん彼らの造語です。タイトルにしばしば造語を使うので、ご紹介する際に苦労したこともよくあったなあと思い出します。
シェリーさんのオブジェクトもますます「進化」して思いがけない美しい映像デザインを展開させます。
今までの記録をたどりながら、彼らの今後の”至福の旅路”を願って、ご紹介するのが 「Blissful Journey」です。
木の塊をくりぬいて、筒にしているナンバー付きのシリーズのひとつです。
先端部のアクリル製セルの加工も凝っています。アクリルセルのデザイン、制作方法の確立など、ランディさんが研究を重ねてきたものです。
彼らのミラーシステムは2ミラーで5ポイント、6ポイントが圧倒的に多いです。そして逆テイパードという先端に向かって広くなるミラーシステムを採用することで、覗いた先の中心部がずれない大きな映像を見せています。 そして基本的に黒い背景、横から光を取り入れるオイルセルの作品を創ってきました。ジュエルイメージはピンクやブルー、パープルなどを使い、ブライトイメージはグリーン、イエロー、レッド、オレンジなどを多用して、雰囲気の違う2つの映像タイプを用意していました。
彼らの”希望”に満ちた未来を願って、今度は「HOPE」という作品です。このシリーズは、彼らにしては珍しく、透明なセルでたくさんの光を取り込みます。オブジェクトセルの回転の向きが普通とは異なっています。
ランディーさんが日本に興味を持っていたこともあり、「Tanoshii」というタイトルの万華鏡があります。いつも明るくて楽しそうなご夫妻ですので、ご紹介したくなりました。 これも様々な木をくり抜いた筒のシリーズです。ナンバー付きで限定版シリーズです。滑らかな木肌、滑らかなオブジェクトセルの回転、回転させる部分の切込み模様はその回転を助けるためのもの。心地よく覗くための工夫がなされています。
そして複雑で、きれいな映像が次から次へと生まれては消え、また生まれていきます。ガラスオブジェクトがオイルの中を流れながら、互いに影響しあいつつ、豊かな色合いや優雅な形を生み出していくのです。ヴィヴィッドな色合いに透明感やキラキラ感を加えて、まさに「楽しい」万華鏡ですね。
かなり前の作品ですが、「Integration」シリーズの作品です。 これが印象に残っているのは、虹色のオーラを持つ映像に心惹かれたからです。「マジック・マンダラ」というシリーズでも再びこのような映像を見せています。プリズム効果のあるフィルムによって、ミラー映像の上に虹色の光が交差するのが特徴です。 虹を見たときの嬉しさと万華鏡の楽しさを組み合わせた作品で、覗くと素敵な色の世界へと導いてくれます。
木材の美しさを追求したランディーさん、美しい色合いを求めてガラスオブジェクトの制作にエネルギーを注いだシェリーさん、基本的なスタイルを守りつつ、楽しみやすく、覗きやすい万華鏡のための工夫を凝らして、私たちを魅了し続けた万華鏡作家さんは、いよいよレジェンドになっていくのですね。彼らのこれからの旅が「至福の旅」Blissful Journeyとなりますように。