「いつ頃ですの?小杉さんに最後に会わはったの?」
桑原君は急き込むように聞いた。
「いつ頃って、2~3年になるかなあ。君、知ってんの?彼のこと」
「知ってる言うより、兄貴のように思ってるくらいの人ですよ。……なんや。最近見いひん、言わはるから…」
「2~3年言うたら最近やないかい。……そうか~。兄貴か~~。そういう感じの奴やろなあ、確かに。……あのな、ほんまのこと言えよ。お前、小杉君とこの活動家…、言うたら黒ヘルの細胞ちゃうか?」
佐竹が声を潜めることなく桑原君のこめかみを小突き、ニヤリと笑う。
いよいよ得体のしれない男だと、桑原君は警戒心に身を固めた。
「緊張せんでええ。俺、ほんまに学生運動関わってへんし。単なる哲学の徒やから。なんか、おんなじ匂いがするんや君。小杉君と。」
小杉さんと同じ匂いがするというのは光栄ではあるが、黒ヘルの名前が出てきたからには、簡単に警戒心を解くわけにはいかない。桑原君はしばらく考え、意を決した。
「いろいろなセクトの奴ら、来てるんでしょう、この街に。佐竹さん、どんな関係なんですか?まさか……」
「官憲の手先ちゃうで。セクトも関係あれへん。俺はとにかく、哲学の徒や。それだけや。ただ。ただ、分け隔てなく誰とでも話してるだけや。小杉君は、俺から見ると危なっかしい男に見えたんでな。余計に、印象に残ってるんや」
「危険思想の持ち主いうことですか?黒ヘルやし」
「違う!さっきも言うたように、彼は深い怒りを抱えている人やろう。ほんで、お人好しや。しかも正義感が強すぎる。危なっかしいのは彼自身や思うたんや。お前も一緒やでえ」
多くの人を危険に晒すことなく革命を成し遂げようとするには、今の仕組みを支えている柱を倒すことだ。それが、一人一殺の基本的な考え方だ。確かにそこには、小杉さんの優しさと強さが表裏一体になって表れている。しかし、だからと言って、小杉さん自身が危なっかしいとは思えない。
桑原君は不服を表明した。
「多くの人を助けたい。しかし、そのための犠牲は少なくしたい。というのが小杉さんです。小杉さんは一度も揺らいでいません。危なっかしくない思います」
「それはそうやろう。それが、兄貴と思われる所以や。小さくてもセクトの長いうもんや。せやけど、彼の苦しみ、聞いてあげたことないやろう?、君」
「それはありません。自分で解決できる人や思うてます」
「そうか。……ところで彼、同棲してた年上の女の子と一緒になったんかいな」
ふと、佐竹が話を逸らせた。意外な展開に虚を突かれ、桑原君が「夏美さんのことですか?」と佐竹の顔を覗き込むと、
「そや!そんな名前やったなあ。……その夏美さんとのことも含めて小杉君なんやで。それ、考えたことあるか?」
佐竹は驚くほど優しい笑顔を見せた。髭のない頃の佐竹が少し覗いたような気がした。
「そや!そこの屋台のおっちゃんに訊いてみたらええわ。金持ってるか?500円あったら二人飲めるし」
桑原君は、佐竹に腕を取られ、引き摺られるように屋台へと向かう。路地の切れ間の向こうに夕日が赤かった。
明日(6月24日)、つづきを更新します。
つづきをお楽しみに~~。 Kakky(柿本)
第一章“親父への旅”を最初から読んでみたい方は、コチラへ。
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第三章“石ころと流れ星” を最初から読んでみたい方は、コチラへ。
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