昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第三章:1970~73年 石ころと流れ星  81

2012年06月22日 | 日記

「奇妙な潜在的階級意識とでも言えばええんかなあ。“俺が教えたるわ、その仕組み”言う奴が増えたんは確かやなあ。悪い言い方で言うたら、必要もない上に中途半端な知恵を置いて行きよったとでも言うたらええんやろか、あちこちに。でもまあ、それはええとしよう。やっかいなんは、意地っ張りの活動分子と逃げ込んできてる活動家や」

佐竹が鋭く桑原君を覗き込む。ついでに、またポケットを探るが、煙草はもうない。

「僕?僕、違いますよ~~。逃げてきたんと違いますよ~」

顎を引く桑原君を追い詰めるように、佐竹の顔が近付く。

「お前、逃亡者の顔しとるで~~。闘争から逃げたんやないとしたら、女からか?それとも、自分からか?」

この男、一筋縄でいく男じゃない。桑原君は、心底そう思った。佐竹への警戒と信頼の狭間にいるようだった。少しだけだが、恐怖感も生まれていた。

「まあ、こうして話してる中においおいわかってくることやろうけどな。その前に、煙草買うて来てくれ」

ポンと背中を押され、桑原君はツツっと立ち上がる。屋台の親父に場所を聞き、小走りで煙草を買いに行く。まるで、佐竹に魅入られ操られているようだ。

「おう、素直なええ子やなあ。おおきに、ありがとさん。君も喫うか?」

買ってきた煙草をさっさと受け取り、佐竹は桑原君に1本を差し出した。

「はい。いただきます」

思わず頭を下げ苦笑すると、その頭を佐竹はささっと撫でた。そのまま軽く押さえられ、桑原君は佐竹に並んで地面に胡坐をかいた。尻が冷たかった。少し濡れているようだ。

二人並んで座り煙草をふかしていると、路地の出口を時折ふらつく足が通り過ぎていった。こちらを一瞥する目にも出会うが、何かを見ている目には見えなかった。

「さて、一番厄介な置き土産はなんや思う?さっきの話から考えてみ?」

「活動家違いますの?」

「あほか!そんなん、もう慣れてるわい、ここの人かて。……お前かてそうやろ?」

「活動家と言えるかどうか……」

「どんなレベルになったら活動家言えるんや?誰か殴ったらか?誰かの骨でも折ったたらええんか?それとも、一度パクられたらか?基準はなんやねん。ヤクザと一緒か?」

「そんな表面的なことと違いますよ!」

桑原君は、侮辱だと思った。佐竹はどんな立場でどのように学生運動を見ているのだろう、と思った。彼のボランティア精神は掻き消え、皮肉で虚ろな思想だけが残ったとでもいうのだろうか。

「思想あっての行動や言うんか?優れた行動には必ず思想があるとでも言うんか?行動に知性はないで、意外とな。力はあるけどな、無謀なほどにな」

佐竹は桑原君から目を逸らし、空を仰いで声を潜めた。独白のようだった。

桑原君は、その横顔に言い訳するように言う。

「活動家の端くれかもしれません」

「活動家に端くれも真ん中もあるかい!……ま、ええわ。……実はな、一番厄介なんは争いやねん。意見が違う者同士の争いいうもんを置き土産にしよったんや。自己主張の衝突や。そんなもんから助け合いは生まれへんやろう。ここでは一番必要なんやけどな。それに、争いは激しくなっていくけどもやで、助け合いには限度いうもんがあるしなあ。争いには興奮できるけど、助け合いは静かに進んでいくもんやろう。変化ないし、飽きるしなあ。次第に当たり前になっていくしなあ……」

佐竹に、ボランティア活動に打ち込み挫折した顔が覗く。

「官憲も潜入して来よるから、余計ややこしゅうてあかんねん。あれやこれや鋭い刺激を受け続けてるような状態でなあ。そんな生活、不快やろう。それでなくても暮らしは快適やないのに、そこに不快を上乗せされたら、そらほっといても乱暴になるで、みんな。不信感も生まれるしなあ。……また、それが狙いの奴らもいてるしなあ、学生の中には。暴動をおこしに来よる奴や。……一人知っとるで。最近見いひんけど。なかなかおもろい奴やったんやけどな。なんか、深い怒りを抱えてる奴でなあ」

「なんて人ですの?いくつくらいの?」

「小杉いう奴や。俺と一緒くらいやったかなあ。結構話したで~~、そいつとは」

               明日(6月23日)、つづきを更新します。

                                             つづきをお楽しみに~~。    Kakky(柿本)

第一章“親父への旅”を最初から読んでみたい方は、コチラへ。

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第二章“とっちゃんの宵山” を最初から読んでみたい方は、コチラへ。

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第三章“石ころと流れ星” を最初から読んでみたい方は、コチラへ。

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