昭和少年漂流記

破壊、建設、発展と、大きく揺れ動いた昭和という時代。大きな波の中を漂流した少年たちの、いくつかの物語。

第三章:1970~73年 石ころと流れ星  88

2012年08月25日 | 日記

「ところで、君たち追われてんの?隠れてんとあかん理由、あんの?」

率直に訊いてみた。すると、

「そう言われてんねん。折角仲良う暮らし始めたんやから、つかまったらつまらんやろ?て、言われたんやけどな」と、桑原君は首を傾げて俯いた。

「誰に言われたんや。追われる理由は、なんやの?追ってるんは、警察?それとも…」

僕は少し、怒っていた。ただ、その怒りが桑原君と京子に向いているものなのか、桑原君に逃走を勧めた者に向いたものなのか、よくわからなかった。

「小杉さんには会われへんかったもんやから、三枝さんとこ訪ねたら、ちょうど彼もバタバタしててなあ……」

桑原君と京子は、ボストンバッグに荷物を詰め込んでいる三枝から、セクトの状況や小杉さんの消息、三枝自身が置かれている状況などを聞かされた。

小杉さんは、完全に消えてしまっていた。三枝に言わせると、「アメリカか中東やろうなあ」ということだった。問題の核心により近付けば、少ない人数でも大きな効果が上げられるという考えに至っていたらしい。

「夏美さんの求心力が強いから、強い意志を持って遠くまで行かんと、簡単に吸い寄せられてまうんや。しかもそれが、結構いやでもないんやから、始末悪いわなあ。そのまま何もできんようなってまうの見えるようやし…。言うてはったわ、小杉さん」

どこかねじ曲がっている今の社会に、それが夏美さんであっても、女性と巣を構えることは、取り込まれていくことと変わらない。小杉さんは、そう考えたのだろう。彼らしい考えだ。

しかし、小杉さんの行方が分からなくなったことが、過激なセクトの共闘を警戒していた警察の動きを生んだ。上村が簡単な事情聴取を受け、そのことを報告してきた時、三枝はかねがね考えていたプランを黒ヘルのみんなに伝えた。東京のセクトと合流しようというプランだった。しかし、それに賛同した者は少なかった。それでも三枝は、仲間数人と東京へと旅立って行くところだったのだ。

桑原君と京子は、三枝のアパートの前で見送り、胸を撫で下ろした。もうこれからは、黒ヘルとは関係もなく、京子の過去とも決別し、二人仲良く暮らしながら学生生活を楽しむことができるだろう。そう思った。しかし、その矢先、上村が訪ねて来た。深夜のことだった。

私服警官い尾行されているのに気付いたから逃げてきた、と言う。「え~~!まいたんやろなあ!」。と、急いで中に引き入れ事情を訊いてみると、「交番の警官が襲われたらしいんや。拳銃狙いなんやけどな。それで、過激派ちゃうか?いうことになったらしいんや。他のセクトの奴に聞いたんやけどな」ということだった。一度任意同行を求められ、事情聴取されている上村は、犯人というより情報提供者として目を付けられているものと思われた。

さらに上村は、「すまん。前の事情聴取の時、早く逃げたくて、君らの名前とか全部喋ってもうたんや。あれこれ訊かれてなあ」と言って手を付いた。

「迷惑な人やわ~~!」と、押し殺した声で吐き捨てたのは、京子だった。

「攻める時も逃げる時も先頭にいる人なんやねえ、ほんまに。上村さんていう人は。それはかまへんけど、迷惑かけんといて欲しいわ。帰ってもらった方がええんちゃう?」

それはそうだ、と桑原君は思いつつ、京子の過去から抱え続けていた関わった男どもへの思いも知った。

「まずいやろう、やっぱり。俺たちなんも関係あれへんし」と桑原君が出て行くよう促すと、「謝っておきたかったんや、君らに」と、もう一度手を付いて上村は出て行った。

しかし、事はそれでは終わらなかった。

                                                                                      つづきをお楽しみに~~。    Kakky(柿本)

第一章“親父への旅”を最初から読んでみたい方は、コチラへ。

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第三章“石ころと流れ星” を最初から読んでみたい方は、コチラへ。

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