「半分は本当で半分は嘘なんやなあ、噂って」
そう呟いて、僕は大きく溜め息を漏らした。桑原君を探して僕の部屋にやってきた京子の、妖しげな脆さも理解できたような気がした。“女のリクルーター”の噂があながちデマではなかったこともわかった。
そして何よりも、男子学生たちが口角泡を飛ばして論じる革命論や運動論に、彼ら一人ひとりの恋愛事情が関わっていることもよくわかったような気がした。
「小杉さんに話聞いてもらいたくもなるわなあ、そりゃあ」
小杉さんへの信頼には人並み外れたものがあった桑原君は、ドヤ街で佐竹や屋台の親父から耳にした小杉さんの姿と苦悩に自分を重ね合わせていたに違いない。
「京子を取るか革命を取るか……。悩んだんやろう?」
ひとしきりこれまでの経緯を話し終わり、タバコを口にして何かを思い出そうとしている風情の桑原君の顔を覗き込んだ。
「それは違う!残念やけど」
タバコを咥えたまま口を歪め、桑原君は断言した。そして、ふっと悲しそうな顔になった。
「革命の出る幕なんかあれへんかったんや、それが。一緒に暮らし始めてからは、京子がバイトに行くだけでも気になって…。ちょっと帰ってくるのが遅いと角まで出て待ってる自分がいてるし……」
一人の女の子への想いが強くなるだけで、いとも簡単に萎んでいく革命への情熱に、桑原君は戸惑った。執着心と嫉妬にも苦しんだ。
「京子の全部を許したろう、受け止めてあげんとあかん、過去なんかどうでもええんや。そう思えば思うほど、苦しくなってくるんや。苦しくなればなるほど、京子の過去をいちいち問い詰めたくなってしかたのうなってくるしやなあ。革命なんて言うてられへん状態になってもうて……。革命起こさなあかんのは、俺の内側違うか、思うてなあ。それで苦しさのあまり、部屋を出たんや。なんやカッコええ理由付けて」
それが、京子が“桑原君探し”を始めることになった時のことだった。
「逃げたんやなあ、結局。でも、逃げるんだと思いたくないもんやから、ヒッチハイクの旅をすることにしたんや。簡単に見つかるのも嫌やったし…」
働いては旅に出る暮らしを4か月以上続け、“大学生に戻ろう!”と決心して京都に帰ってきた桑原君は、京子と暮らしていたアパートを訪ねてみた。そして、京子と再会した。
高い秋の空が赤く染まり、やがてすっかり暗くなっていくまで、鴨川の畔を北へ南へと歩きながら、たくさんを語り合った。
「内臓まで晒したような感じやったやなあ。初めての気分やった。僕の内側の革命なんて、とことん吐き出せば終わってまうことなんや、思うたわ。京子に対して持っていたもやもやも一緒に出て行ったような気いしてなあ。夜中に部屋に着くと、愛しさだけが残ってる感じで……」
「よかったなあ。よかったやないか。ハッピーエンドやないか。……それがなんで……」
そのまま二人とも“大学生に戻ろう!”を合言葉に、そう、奈緒子との約束を守ろうとしている僕のように暮らしていけば、身を隠す必要などなかったはずではないか。
つづきをお楽しみに~~。 Kakky(柿本)
第一章“親父への旅”を最初から読んでみたい方は、コチラへ。
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第二章“とっちゃんの宵山” を最初から読んでみたい方は、コチラへ。
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第三章“石ころと流れ星” を最初から読んでみたい方は、コチラへ。
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