小雨。台風14号くる。
●『浮世の画家』をおととい読み終わったのだが、小津映画の影響、日本の祖父母の家のイメージがあってか、戦後まもなくの日本家屋やそこに住む人たちの様子はこまかに描写されている。けれど、それは物語のなかのようで、靄っている。「ためらい橋」とか「みぎひだり」というバーの名前は日本人ならつけないだろう。原文を知らないが、「リラクタント ブリッジ」とか、「ライト アンド レフト」とかでも言うのだろうか。
『日の名残り』も確かにイングランドの風景が描かれている。地図にあたり、ネットで写真を見たり、思い出す限りのイギリス旅行のときの風景を目に浮かべながら読んだが、なんだか、景色が靄っている。
前、「嵐が丘」の舞台となったハワースへ観光ツアーでいったが、『嵐が丘』に書かれた風景は、ハワースに立って見ると実態としてなんとなく想像できる。イシグロは、5歳のときにイギリスに移住したという体験がその後のイシグロの故郷形成に大きく作用しているのではないかと思えた。故郷喪失という解説者もある。故郷を喪失した人へのいとおしみというものが湧いてくる感じだ。
ノーベル賞作家には、故郷というものが非常に大きな役割を果たしていると聞いている。イシグロの場合の故郷はなんだろうと、思う。故郷を喪失した人は、アイデンティティーを模索し続けなければならないのだろうかとも。
松山から横浜に引っ越して15年になるが、周りの景色、いうなれば風土が自分の体にようやく定着してきつつあるように思える。まだ、血肉となったとは言えない。引っ越し当初より、俳句が作りやすくなったという気がする。
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