ゆっくりかえろう

散歩と料理

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匂い11

2015-12-10 | フィクション

 我々が大急ぎで下へ降りると、階段で保安員に止められた。  

「オープンカーは外に出ていました、周りには誰も居ません」

 我々は外へ車を見に行った。

 車は確かにガレージの外へ出ていた。

「どうやってこの厳重なゲートを越えて抜け出したんでしょう?」小松が不思議そうに訪ねた。

話し声が震えている。歯の根が合わないようだ。 

「さあ? クルマに聞いてみたら?」 

「いやですよ!」小松は震えている。

 俺は車のボンネットに触れた。

そこはまだ温かく 今さっきまで走って来たようだ。

車に泥がこびりついている。

  「ふうん」

俺はその場で欠伸をして もう一度さっきのバルコニーに戻った。

 夫人はまだそこに居て 今度は さっきより一回り大きな三毛猫が 悠々伸びをしていた。

「しばらく 留守にしていたボスが帰って来たわ」 

夫人は嬉しそうに膝の猫を撫でた。

「車は外にあります」

「そう」夫人は感心なさそうだ。

俺は言った 「多分 これからは 何も起こらないですよ」

「そう、ご苦労様」

あっさりしたものだ 全然心配している様子が無い。

俺は詳細を説明しようと思ったが 無駄なことが分かったので止めた。

荒唐無稽だし 普通人の理解を超えている。

夫人はクルマは確実に帰って来るものだと確信しているらしい。

オープンカーは車庫に戻され 俺たちは帰路についた。

保安員は気味悪そうに 車をおっかなびっくり動かしていたのが印象的だ。

 さぞかし怖いだろう、塀をすり抜けるクルマなのだから。  



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