世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

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長い髪のシリク③

2016-07-24 04:16:08 | 夢幻詩語

  3

車は岸辺を離れ、天国の花園の上をしばらく飛びました。やがて、天国の門のある、月桂樹の森が向こうに見えてきました。

「これからどこに行くのですか?」
セロムが尋ねました。するごヴァスハエルは舵を空気の精にまかせ、言いました。

「人間世界の、ゲルゴマキアというところに行くのだ」

それを聞いて、ユヌスが驚いて言いました。
「それは、遠いところだ。一体何をしに行くのです?」

ヴァスハエルはふとシリクの顔を見ました。シリクは頬を赤くして、前方を見つめていました。大天使の仕事を手伝えると思うだけで、わくわくする気持ちをとめることができなかったのです。ヴァスハエルはそれを見て、少し困った顔をしました。だが何も言わないまま、天使たちに説明をしました。

「ゲルゴマキアには、影の中をさまよい、悪いことばかりをしている人間がいっぱい住んでいる。そこに行って、袋いっぱいに、人間の心の影を集めてくるのだ」

「心の影を?」
と言ったのはシリクでした。
「そんなものをどうするのですか?」
言ったのはセロムでした。するとヴァスハエルは豊かな微笑みをして、天使たちに答えました。

「人間のための、よい真実の薬をつくるためだよ」

「真実の薬?」
そう問い返したのはユヌスでした。ヴァスハエルは微笑みを変えず、説明しました。

「人間の魂というものは、本当は真実を食べねば生きていけないものなのだ。だが人間は今も、虚偽の世界に生きている。そんな人間の魂を生かすためには、真実の薬を飲ませてやらねばならない。そのことは知っているね」
「はい、もちろん知っています。今も、たくさんの天使の使いたちが、人間たちのもとに真実を届けています」
シリクが言いました。ヴァスハエルはシリクに微笑みかけました。

「わたしはこのたび、人間たちのために、とてもいい真実の薬を新しく考案したのだ。だがその薬は、効き目が良すぎて、そのまま人間に食べさせれば、人間がショックを受けて、とても痛いことになってしまう恐れがあるのだ。それでわたしは、人間たちの中から嘘の影をとってきて、それをできるだけ無力化したもので、薬を薄めて、人間たちに飲まそうと思うのだよ」

「ああ、それはよい方法です!」
とセロムが目を輝かせました。
「きっと人間たちには、よいことになるでしょう!」
とユヌスが続きました。
ヴァスハエルは微笑んで受け取りつつ、シリクの方を見ました。シリクも目を輝かせて、ヴァスハエルを見ていました。


(つづく)




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