「ええ、忘れていないわ、一体わたしは何をあげたらいいのかしら。エメラルドの勲章かしら、それとも金のかんむり? それとも遠い海でとれた青い真珠かしら」
するとかえるはかぶりを振りつつ言ったのです。
「いえ、わたしの欲しいものは、そんなものではないのです。どうかわたしを、あなたのともだちにしていただけないでしょうか。そして、テーブルで一緒にお食事をさせていただいたり、寝床の中で一緒に眠ったり、させてほしいのです」
それを聞いた姫さまは、びっくりしました。こんなにぬめぬめしてみにくいかえるとともだちになるなんて。そしてテーブルで一緒に食事したり、自分の寝床にいれていっしょに眠るなんて、とてもできっこありません。だけど姫さまは、なんでもしてあげると約束してしまったのです。約束した限りは、それをまもらねばなりません。まもらないと、嘘をついたことになるからです。
姫さまは、小さな頃から、決して嘘はついてはいけないと、厳しくしつけられてきました。嘘をつくと、ことばがよごれて、国に不幸せが一いっぱい増えるからだそうです。でも姫さまは、かえるといっしょに食事をしたり、いっしょの寝床で寝るなんて、絶対にできないと思いました。それでしばらくの間迷いましたが、結局、(たかがかえるふぜいのことだし、別にうそをついたことにはならないわ)と思って、すぐに泉をはなれ、「待ってください!わたしもつれていってください!」というかえるのとめる声も聞かずに、金のまりを放り投げながら、うれしそうに城に帰って行ったのです。
遠くから、森番の歌が悲しく聞こえてきました。
美しくも心たよりなき
小さな姫よ
その喉に棲む
小さなツグミを解き放ち
わたしの憂いを木の実のように
食べておくれ
(つづく)