横浜スローライフ -- My slow life in Yokohama

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FOSS4G PDX話 その3 「往年のプロジェクト」

2014年09月12日 19時33分10秒 | OSGeo/FOSS4G
 2004年9月に私がバンコクで開催された最初の「FOSS4G」に参加してから、丸っと10年が経った。OSGeo財団の設立は2006年ではあるが、2005年にミネソタ州のミネアポリスで開催されたMapServerのカンファレンス、2006年にスイスのローザンヌのFOSS4G、さらに2007年にカナダのビクトリアにも参加し、翌年の2008年の皆にアフリカのケープタウンを除いて、私はずっと参加している。見ていると、FOSS4Gの世界には流行り廃りがあるが、その中にあって、「インフラとして」の存在にまでなっている歴史の長いツールがいくつかあることがわかってくる。

 その代表的な存在は、クライアントソフトウェアのGRASS(1982年から)とQGIS(2002年から)、地理データ可視化エンジンのMapServer(1994年から)とGeoServer(2001年から)、そして空間DBのPostGIS(2001年から)である。これらはいずれも10年以上の歴史があり、開発チームもしっかりしていて、利用者数も膨大で、オープンソースであるかないかを問わず、地理空間情報の世界のインフラとしての存在になっている。多分、この先まだ10年という単位で利用され続けるだろう。

 今回のカンファレンスでも、それぞれの開発プロジェクトの「顔」達が1年間の機能追加や改良の報告をするセッションを持っている。今年の場合、GRASSはMarkus Neteler、QGISはPilmin Kalberer、MapServerはSteve Lime、GeoServerはAndrea Aime、PostGISはPaul Ramsey、少しこの世界にいるならば名前は知っているはずだ。そしてそれぞれのプロジェクトの往年のコアメンバー達が顔を揃える。壮観である。しかも、それぞれのプロジェクトは着実に進化している。例えば、GRASSにはついにモデラー機能が追加されたし、QGISはリアルタイムのレンダリングができるようになったし、MapServerはUFT Gridに対応したし、ヒートマップも生成できるようになった。

GeoServerとGeoToolsの顔はAndorea, Jody, Justinだ。

 ちなみに、GRASSとQGISは北米よりも欧州で盛んなので、セッションの参加者は昨年のノッティンガムに比べると少ない。一方、MapServerとGeoServer、そしてPostGISは北米に開発メンバーが多いことから、今回は参加者が多い傾向がある。そのため、昨年のノッティンガムがまるで「QGISカンファレンス」に感じられたのとは違い、今年は特定のツールに人が集中する感じはしない。

 それにしても、開発プロジェクトを長く担ってきたメンバーに、私は心から敬意を表明する。決して華々しくなく、むしろ地味な開発の連続で、ストレスも半端ない。利用者の中には無償のサポートが得られると勘違いする人もいるだろうし、開発者の苦労を理解せずに好き勝手に批評する人もいるはずだ。そして、プロジェクト自体が、その時の流行の荒波を乗り越えなければならない。技術面だけではなく、個性豊かなエンジニア達をまとめるという点で人間面でもいろいろ試される。

 そして、市場経済の中でのオープンソースプロジェクトである。10年という単位で開発プロジェクトを続けていくのは、とりわけ財政面で並大抵のことではない。

 MapServerを例に取れば、最初はミネソタ大学が政府からの資金で作り、それをカナダのDM Solutions Group(Jeff McKennaやDaniel Morisetteはここの出身)が商用で使えるレベルまで機能拡張して、今は主としてDaniel Morisetteが作ったMapGearsという企業が開発の主体を担っている。GeoServerも、ニューヨークのOpenGeo(現在の社名はBoundless)が主体となっていて、PostGISはビクトリアのRefractions Researchが初期の開発を行い、その後責任者のPaul RamseyがOpenGeoに移ったこともあり、OpenGeoが主体になっている。このように資金を継続的に提供できる仕組みを作ったプロジェクトが「持続可能」になる。

 時々誤解があるが、OSGeo財団は「財団」という名称からか、資金豊富と見なされることもある。残念ながら実態は全然違い、資金面では楽ではない。ボードメンバーは全員、無報酬でやっている。それでも、サーバーなどのインフラなど、経費はそれなりに発生する。年に一度のFOSS4Gカンファレンスの収益の50%を得ることで、何とかまかなえていける(注:日本支部とは完全に別会計)。このカンファレンスが南半球(ケープタウンやシドニー)で開催されると、参加者数が伸び悩むのと、スポンサー企業が減るので、その翌年の財団の運営は厳しい。来年はソウルで開催されるが、「極東」は欧米から果てしなく遠い。OSGeo財団日本支部としても参加を広く呼びかけるが、海外からの参加者数がどこまで伸びるか、欧米のスポンサー企業がどのくらい出るのかは予断を許さない。

 このように、オープンソースプロジェクトには、テクノロジーが大事であるのはもちろんであるが、持続可能な仕組みづくりが最も大切で、それは人とお金の両方、つまり「組織運営」そのものの問題をクリアできたところだけが成長し続ける。往年のプロジェクトからは、ビジネス的な視点からも学ぶことが実に多い。



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