いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

TPPの交渉参加・・・なぜこんなにもめるのでしょう。民主党のセンスの悪さにはあきれますが・・・。

2011年11月12日 02時52分57秒 | 日記

 野田首相は11日の夜の記者会見で、ようやく、TPP
(環太平洋経済協力)の交渉に参加することを表明しまし
た。
 しかし、民主党政権は、本当に稚拙です。

 交渉に参加するという入り口の段階だけで、これだけ議
論をもめさせてしまったのは、今回のTPPが初めてでは
ないでしょうか。

 翻って、ウルグアイ・ラウンドを見てみましょう。
 ウルグアイ・ラウンドは、日本のコメ市場を開放した国
際交渉です。それまで、日本はコメの輸入を禁止しており、
閉ざされた市場でした。それを曲がりなりにも、輸入を認
めたのがウルグアイ・ラウンドです。その意味では、ウル
グアイ・ラウンドは、今回のTPP以上の衝撃がありまし
た。

 ウルグアイ・ラウンドは1986年に交渉が始まり、1
995年に終結しました。
 しかし、1986年に交渉が始まって、日本が参加した
とき、まったくといっていいほど、反対運動は起こらなか
ったのです。

 それはそうです。
 これから交渉を開始しようというときに、反対運動をし
てどうなるというものでもないでしょう。

 ウルグアイ・ラウンドは多国間の交渉です。
 これとは別に、日本は戦後、長い間、アメリカとの二国
間交渉を続けてきました。
 いわゆる日米経済摩擦です。
 これはもう、ありとあらゆるものが、日米交渉の対象に
なりました。
 挙げていくと、鉄鋼、カラーテレビ、牛肉・オレンジ、
コメ、自動車、自動車部品、半導体と、日本のそのときど
きの主力産業がほとんどすべて交渉の対象になりました。

 もちろん、いずれもアメリカからの要求で始まった交渉
です。だから、日本が断ることの出来ない交渉だったので
すが、しかし、交渉が始まるときに、
 「日米交渉に参加するべきではない」
 「交渉に参加すると日本の農業は崩壊する」
 などという反対運動は、全く起きませんでした。

 反対運動が起きるのは、いずれも、交渉が煮詰まって来
たときや、アメリカが過大な要求を出してきたときです。

 今回のように、交渉に参加するという段階で、「交渉に
参加するな」という反対運動が起きたのは、あまり例を見
ません。

 野田首相は、会見や、国会での質疑で、苦しそうな答え
をしていましたが、それはそうでしょう。TPPの交渉の
中身が分からないというか、始まってもいないのですから、
どんな交渉なのか聞かれても答えようがありません。

 TPPをいきなり持ち出したのは、菅首相です。
 菅首相は、2010年に横浜で開かれたAPECのあと、
にわかにTPPを言い始め、
 「平成の開国をしなければならない」
 と訴えました。

 振り返れば、これが、ボタンの掛け違えでした。
 なにしろ、いきなり「平成の開国」とやったものだから、
みんな、びっくりしてしまいました。
 「平成の開国」などといわれると、それは、だれだって
ぎょっとしますよ。
 
 菅首相という人は、本当に、センスの悪い人でした。
 
 TPPは、基本的には、10年かけて自由化を進めよう
というものです。
 何度も書いてきましたが、APECは1995年のイン
ドネシア会議で、ボゴール宣言というものを採択し、先進
国は15年後に貿易の自由化を達成するとうたったので
す。日本も、もちろん、これに合意しています。

 15年というのは2010年のことです。
 もうとっくに過ぎてしまっていますが、貿易の自由化の
達成なんて、だれも忘れているでしょう。
 忘れているからこそ、TPPなどという、ボゴール宣言
と同じようなものが、代わりに出てきたのです。

 TPPも同じことです。
 10年たてば、各国とも大統領も首相も、完全に入れ替

わっています。10年後のアメリカの大統領なんて、見当
もつかないでしょう。日本の首相だって、いったい、だれ
がなっているんでしょう。
 経済環境だって、国内、国外とも、まるで
変わっているでしょう。ギリシャはもう倒産しているかも
しれませんし、イタリアだってどうなっているか分からな
い。日本も、10年後、下手すると倒産の危機に瀕してい
るかもしれません。

 国際的な経済交渉において、10年後の約束というのは、
あまり意味がないーーというと語弊がありますが、10年
後のことを具体的にどうこうしようという感じではありま
せん。
 そうではなくて、むしろ、立法の精神が大事なのです。
 そう。TPPという交渉で、各国で、自由化の方向を確
認しようという、その立法の精神が重要なのです。

 そんな無茶な、と思われますか?
 そんなことないですよ。
 鳩山首相が、国連で、日本のCO2排出量を25%カッ
トすると宣言したのを覚えてますか?
 あれは2年間のことです。
 あれはずいぶん話題になり、経済界から反対運動も起き
ました。
 しかし、いまや、なんだか。みんな忘れてしまっている
でしょう。
 日本人でさえ忘れているのですから、海外の人や国は、
もうすっかり忘れています。

 では、鳩山首相のCO2カットというのは、日本として
うそっぱちを言ったのかというと、そうではありません。
あれは、日本はCO2をカットしたいんだーーという意欲
と意志を、世界に示したという意味が大きいのです。

 もしあのとき、鳩山首相が、国連で宣言する前に日本国
内で議論していたら、たぶん、大もめにもめて、どうにも
ならなかったでしょう。

 それぐらいの肝っ玉がないと、国際交渉なんて、できま
せんよ。

 TPPも、同じです。
 首相の責任で、淡々と交渉に参加していればよかったの
です。
 それを「平成の開国」だなんて、ぶちあげるから話がお
かしくなりました。

 菅首相は、きっと、「平成の開国」は、かっこいい手柄
になると思ったのでしょうね。

 自民党は、TPPに反対しています。
 しかし、これは党利党略です。
 自民党がいま政権の座にあったら、100%間違いなく、
TPPに参加しています。
 自民党政権は、あのウルグアイ・ラウンドにも、あっさ
り参加しましたし、あらゆる国際交渉には、すべて、例外
なく参加してきています。

 自民党は、やはり、成熟した政党でした。
 やり方がうまい。
 政治センスがある。
 だから、すっと始めてしまう。

 それにひきかえ、民主党は、未熟としか言いようがあり
ません。
 未熟な政党です。
 やり方が下手というか、やり方を知らない。
 政治センスが悪い。

 しかし、私たちは、自民党の政治、自民党と霞が関のあ
りように、もう、嫌気がさして、2年前のあの暑い夏に、
政権交代を実現させ、民主党に政権をゆだねたのです。

 なにしろ初めての政権ですから、未熟なのはしようがな
い。センスが悪いのもしようがない。

 もうすこし我慢をして、見守っていきたい。
 そう思いませんか。
 
 しかし、それにしても、
 おい、もうちょっと、しっかりしてくれよ。