いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

TPPと農業・・・日本の農業の衰退の原因は、自由化ではなく、NO政にあります。

2011年11月11日 00時48分44秒 | 日記

 野田首相は10日、TPP(環太平洋経済協力)の交渉に参加す
ることを表明する記者会見をするはずでしたが、11日に延期して
しまいました。
その間にも、賛成派、反対派の議論は割れたままです。

 反対派の主力は農協です。 
 東京で続いているデモを見ていても、鉢巻きやのぼりに、JA
(農協)のロゴが目立ちます。

 TPPで農産物の輸出入が自由化されれば、日本の農業が崩壊す
る。とくに、日本の農業の主力であるコメが窮地に陥るというのが、
農業関係者、とくに、JAがTPPに反対する理由です。

 しかし、誰の目にも明らかなことですが、日本の農業は、すでに
衰退しています。
 そして、衰退の原因は、農業の自由化などではないのです。
 かつて、減反政策が当たり前のように行われていたころ、新聞や
テレビは、日本の農政を、よく「NO政」と揶揄していました。日
本の農業には、政治がないというわけです。


これは、減反を呼びかけるために農水省が作ったポスターです。
 ご覧のように、コメの作りすぎはもったいないーーとして、
農家に、コメを作らないように呼びかけています。
農家にコメを作るなといっておいていったい、なにがどうして、
 「日本の農業は壊滅の危機だ」
 というのでしょう。
 それによくみると、このポスター、
 コメでも、輸出用ならかまいませんと書いてあります。
 しかし、輸入は反対だけど、輸出はいいというのも、ずいぶん
一方的な話です。
 日本の農政は、こんなことをやってきたのです。

 そして、いまもまた、TPPに際し、農水省とJAは、農業の衰
退を、自由化のせいにしようとしています。

 TPPに参加して、何年かたったとします。
 そこでもし、農業がいまよりさらに衰退していたら、農水省やJ
Aは、「日本の農業がだめになったのはTPPによる自由化のせい
だ」と主張するのでしょうか。

 しかし、すでに日本の農業は衰退しています。
 これまで、日本の農業は手厚い保護を受けてきました。
 それなのに農業が衰退したのであれば、それは、自由化のせいで
はありません。
 日本の農業の衰退は、明らかに、国内の要因のせいです。
 ひとつは、NO政でしょう。
 日本の農業のシンボルである米作の衰退に関しては、日本人がコ
メを食べなくなったことが大きいでしょう。

 コメは、かつて、輸入が禁止されていました。 
 それが輸入されるようになったのは、1995年、ウルグアイ・
ラウンドの受け入れによるものです。
 このときも、日本の米作はこれで壊滅するという言い方が盛んに
行われましたが、実際には、市場開放といっても、日本が輸入する
コメには、なんと700%を超す関税がかけられています。
 だから、コメ市場は、いまでも手厚い保護を受けているのです。

 しかし、国際的に、こんな高い関税がいつまでも認められるわけ
ではありません。
 いずれ、この関税は、もっと低くしなければならないときが来ま
す。
 それまでに、日本の農業を強くしようということで、ウルグア
イ・ラウンドが終わるとき、農業を強くする対策費として、6兆
円!という巨額の予算が組まれました。
 
 6兆円ですよ。
いま、東日本大震災の復興に出す予算の額や財源でもめています
が、その予算が、10兆円とか12兆円という金額です。
 あの大震災の復興予算の半分を超す巨額の予算が、日本の農業の
強化策として組まれたのです。それが1995年のことです。

 いまが2011年ですから、それから16年たちました。
 16年の間に、この6兆円は、いったい、どう使われたのでしょ
うか。
 16年という歳月と、6兆円という巨額の資金で、いま、日本の
農業は強くなりましたか?

 全然、強くなっていません。

 この長い年月と、この巨額の資金で、農水省とJAは、いったい、
何をやってきたのでしょうか。
 
 きょう10日のテレビで、この6兆円の対策費のことが久しぶり
に取り上げられていました。この6兆円、忘れずにいたテレビ局が
いて、見直しました。
 この6兆円で、全国の農村に、温泉・宿泊施設が49か所も作ら
れたそうです。
 それのどこが、農業の強化策なのでしょう。
 テレビのインタビューで、宿泊施設の支配人が答えていました。
 「利用率ですか? 70%が目標なのですが、いまは50%を切
っておりまして。いいところなので、ぜひ、おいでになってください」。
 農村に作った温泉施設に行くのが農業の強化策ですか。
 日本の農政は、こんなことばかりやってきたのです。

 ウルグアイ・ラウンドが集結したとき、いずれ来る自由化に向け
て、日本の農業を強くしようということになったはずです。
 それなのに、16年たったいま、また
 「日本の農業は、TPPで壊滅する」
 と主張するわけです。

 それは、農水省とJAのサボタージュでしょう。
 何もせずに、ただただ、自由化に反対する。

 それは、農業の衰退の原因を、NO政から、自由化に転嫁してい
るだけのことでしょう。