いまジャーナリストとして

 いま私たちの目の前に、次々と現れるニュースをどうとらえ、どう判断するか・・・ジャーナリストの日誌。

TPPと海彦、山彦・・・海彦と山彦が対立していては、日本は成り立ちません。

2011年11月01日 16時57分37秒 | 日記

 日本の神話に、海彦、山彦という兄弟が登場します。
 天孫降臨の神様の一族で、うみひこ、やまひこ と読み
ます。海幸彦、山幸彦 と呼ぶこともあります。

 子供のころに、おとぎ話で読んだという方も少なくない
と思います。


 海彦は、海に近い家に住んでいます。なんでもよく釣れ
る釣り針を持っていて、毎日、海に出て漁をして暮らして
います。
 山彦は、山に住んでいます。土を耕すクワや、芝を刈る
鎌を持っていて、農作業をしてくらしています。
 
 二人は、そうやって獲れたもの、収穫したものを仲良く
交換してくらしていました。

 神話は、そこからさらに次のように続きます。
 海彦と山彦は、ある日、釣り針とクワ・鎌を交換し、海
彦が山で、山彦が海で生活してみようということになりま
した。
 山彦は、海に漁に出て、毎日、たくさんの魚を獲ってい
たのですが、あるとき、釣り針をなくしてしまいました。
海に落としてしまったのです。
 それを知った海彦は、ものすごく怒り、釣り針を返すよ
う要求します。山彦がどんなに謝っても、海彦は許しませ
ん。山彦が、自分の鎌をつぶして100本の釣り針を作っ
て渡し、「これでもう許してください」といっても、海彦
は、自分の釣り針じゃないとだめだと言い張ります。
 山彦は困り果てます。
 
 ――というのが、神話のストーリーです。まだ先が続き
ますが、ここでは、それを紹介するのが目的ではありませ
んので、ストーリーの紹介は、いまはここまでとしておき
ます。
 
さて、海彦と山彦です。
日本は、山は多いけれども土壌のいい陸地を持つ山の国
である一方で、四方を海に囲まれた海の国でもあります。
 山、というより、陸地の人々は、はるかな昔から農業
で暮らしてきました。この人たちが山彦です。
 海で暮らしてきた人々は、魚を獲る漁業で暮らしてき
ました。船で外に出るので、当然、海外との貿易もするよ
うになります。この人たちが海彦です。

そうなんです。
日本という国には、
農業で暮らす山彦と、
漁業や貿易で暮らす海彦
がいるのです。
山彦と海彦の仕事や暮らしは、もちろん、かなり違いま
す。同じ国に住んでるのに、まるで違う仕事や暮らしです。
ただし、山彦と海彦は、お互い、収穫したものを交換し
て、豊かに暮らしているわけです。

さて、そこで、TPP(環太平洋経済協力)です。
TPPは、自由化を進める交渉です。
日本では、この交渉に参加するかどうかをめぐって、も
めています。
 賛成派は、電機や自動車のように、海外との貿易で暮
らす人たちです。
 そうです。
 海彦です。


 反対するのは、コメが自由化されて安いコメが入って
きたら暮らしていけないという農業の人たちです。
 そう。
 山彦です。


 TPPは、海彦と山彦の対立なのです。
 TPPの議論はまったくかみ合いません。
テレビでも盛んに討論番組をしますが、お互い、言い
たいことを言って、終わりという感じです。
それは、海彦が海彦の主張をし、山彦が山彦の主張を
するからです。
お互いが、それぞれの主張をするだけでは、議論がか
み合いません。

貿易で生きる海彦にとって、TPPは非常に重要な交
渉です。自由化されたほうが、自分たちの生産したものは
海外で売りやすくなります。

土地に生きる山彦にとっては、もっと広い土地で作る
農産物が自由化によって安く入ってきたら困ります。

政府がTPPに積極的――と伝えられれば、海彦は喜
びますが、山彦は困ったと思います。

日本は、海彦と山彦の両方が住む国です。
そのことを忘れてしまっては、TPPの議論は進みま
せん。

海彦は、TPPが自分たちに有利だと思うから賛成し
ます。
山彦は、TPPが自分たちに不利だと思うから反対す
るのです。

この対立の構図をそのままに残していては、TPPは
前には進みません。

日本という国は、戦後、海彦の働きによって、ここま
で成長し、経済大国になりました。
だから、このまま日本が豊かな国であるためには、海
彦が働きやすいようにする必要がある。
TPPは、参加する必要があるのです。

しかし、その海彦の食卓を支えてきたのは、まぎれも
なく山彦です。山彦がいたからこそ、海彦は食べるものを
手に入れることができた。
海彦がさらにしっかり働くには、山彦の支えが絶対に
必要なのです。

だから、海彦と山彦が、けんかをしていては、日本と
いう国は立ち行かないのです。

TPPに参加すると有利だというのは、海彦はよくわ
かっている。日本としては、海彦を支援する必要がある。
それが大前提です。

もし、それで山彦が不利になるというのであれば、山
彦をしっかりサポートしてやる必要がある。
あるいは、もし、山彦の心配が、根拠のないもの、た
だの杞憂にすぎないのであれば、それをちゃんと山彦に説
明しないといけない。

日本経済のことを考えると、TPPには参加する必要
がある。
しかし、それが海彦だけのことを考えたものであって
はいけない。
TPPでどうなるかを、山彦にちゃんと説明しないと
いけない。

日本という国は、海彦と山彦が、ともに住んでいるの
国です。海彦と山彦がけんかをしていては、国が立ち行か
ないのです。