イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

乗り過ごして国分寺 涙の立ち食い蕎麦

2008年01月21日 23時49分26秒 | 自薦傑作選
腹いせの立ち食い蕎麦屋でおばちゃんは仏 人間万事塞翁が春菊天

(解説)今日もまた特快にのって国分寺まで来てしまった。つい最近乗りすごしたばっかりなのに、まただ。さすがにそんな自分に対してトサカにきた。とっても腹立たしい。気づいたときには武蔵境を通り過ぎ、車窓には見慣れない風景が映っている。1分が、1秒が、苛立ちを募らせる。もうやたらとむかついた。わなわなと怒りで震えた。歯ぎしりどころじゃない。眼ぎしりしてやった。JRのバカ。自分のバカ。俺の背後に立ってる鼻息荒いおっさんのバカ。福田首相のバカ。小沢一朗のバカ。ヒラリーもバカ。オバマだってバカ。もう~バカバカバカ。それにしても、なぜ気づかない?あるいは、なぜ気づかせてくれない?いくら僕が鳥目だといっても、ひどすぎる。確かに、穂村弘の『短歌という爆弾』を食い入るように読んではいた。本を読んでいると、ただでさえ散漫な自分の注意力は水面下にまで低下する。それは認める。でも、自分の乗る列車が普通か快速か特快かくらいは気づいてほしい。そんな人間になぜなれなかったのか。マジで、そういうことで自分をがっかりさせないでほしい。本を読むことはそんなに日常生活に支障をきたすことなのかい。そんなにいけないことなのですか駅での読書は。教えてくれないかな、二宮の金さんよ。

とプリプリしていたら、朝飯昼飯を両方とも抜いていたのがたたったのか、猛烈におなかが空いていたことに気づいた。ちょうど、国分寺駅のホームにある、立ち食い蕎麦屋の前に立っていた。普段だったら、会社帰りに駅蕎麦なんか食べることはまずない。麺食いだから本当は食べたいのだけど、食べない。家にご飯があるからだ。だけど、今日は空腹と怒りで自分を見失っていたのだろう、5秒間店の前で立ち尽くしている間に、すっかり頭のなかでコペルニクス的な転換が行われていた。自分でも怖いくらいに、駅蕎麦を食べる人に成り変っていた。

ガラガラっと戸を開けて中に入る。客は一人。店のおばさんが一人。時計の針は、9時を回っていた。すると、どうだろう。店のおばさんがとっても感じがいいのだ。「いらっしゃいませ」と心からニコニコして対応してくれる。さっきまでの殺伐とした気持ちがふにゃふにゃと消えていくようだ。思わずいい気分になって、310円のきつねうどんから360円の春菊天うどんにメニューをエスカレーションした。そうしたら、おばちゃんが、「麺は固めがいい?柔らかめがいい?それとも普通がいい?」と訊いてきた。なんということだろう。この細かな心配り。こんなの初めて。このおばさん、ただものではない。その訊き方に、まったくマニュアルめいたものが感じられない。心から客である僕のためを思って訊いてくれている、そんな気持ちがズドンと伝わってくるのだ。真のホスピタリティー、真のプロフェッショナリズム。気がつくと、客は僕一人。するとおばさんは、「うどんのおつゆが薄かったら、注ぎ足すから言ってね」と言った。一口うどんのおつゆをすすったら、「どう?大丈夫?薄くない?」とまるで病気の子供を看病する母親のような顔をして訊ねてくる「大丈夫です。美味しいです」と、いつのまにか高倉健になった自分が伏し目がちにそう答えてしまう。くさっても似非関西人、薄いつゆにはなれている。というか、関西のつゆに比べれば、それでも真っ黒で味も濃いのだけど。(心配しないでもいい。絶妙な味だよ、おばさん)と心のなかでつぶやく。うどんには、やっぱり愛情がたっぷり入っていた。このおばさんの作るうどんが、不味いわけがない。それは、ありえない。これまで食べた中で、一番美味しい春菊天うどんだった。店を出るとき、「ごちそうさま、また来ます」と言ったら、おばさんはとても喜んでくれた。店の外まで出て見送ってくれるんじゃないかというくらい、喜んでくれた。

おばさん、ありがとう。ここの立ち食い蕎麦屋は日本一や!と心のなかで叫びながら、僕は東京行きの列車に乗った。人間万事塞翁が馬。乗り過ごしたばっかりに、こんな素晴らしい出会いがあった。そう、幸せは歩いてこない、だから乗り過ごしていくんだよ。一日一歩、三日で三歩、三歩あるいて五歩下がる。ワンツーワンツーしゃべらないで歩け~。

それにしても、と思う。あのおばさんの真心に勝るものなんて、そうそうない。あの店は、高級料亭ではない。セレブお気に入りの店でもない(たぶん)。でも、こんなもてなしは、そうそうにない。こんなに満ち足りた気分になることは、そうそうない。大事なのは心なのだ。本当にそう思った。おばさん、ありがとう。そして、ごちそうさま。

HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH

兄貴、買いました!
『サラダ記念日』俵万智
『101個目のレモン』俵万智
『トリアングル』俵万智
『折々のうた』大岡信
『日本語』(上下)金田一春彦
荻窪店で6冊。

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2 コメント

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Unknown (a.ito)
2008-01-22 06:19:09
買いましたね~。『チョコレート革命』はお持ちですか?
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Unknown (iwashi)
2008-01-22 09:04:15
持ってないです。次回探してみます。ちなみに、実家にいる親父は、サラダもチョコも持ってました(^^;
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