イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

28年ぶりの島根県浜田市再訪記 ~君の唄が聴こえる~ その28

2009年09月25日 20時59分22秒 | 旅行記
第4章「宴」

車内で話が弾んだ。今日の先生との対話を通じて、初めてあの頃の先生の気持ちがわかったという思いもあった。あの頃、先生は大人で、僕たちは子供だった。だからこそ成立する関係があり、結ばれた絆があった。だが、こうしてお互い大人になり、熱い日々を振り返ったとき、ようやく気づくこともあるのだ。

そう、僕たちにとって景山先生がいつまでも大切な先生であるように、先生にとっても僕たちはいつまでも可愛い教え子なのだ。僕たちにとって先生の存在すべてが「先生」であったと思えたのは、僕たちが子供だったからなのだ。当たり前だけど、先生は僕たちのためだけに存在していたのではなく、僕たちと同じようにひとりの人間としての生を生きていた。当時あれだけ「先生」としてのオーラを放っていた先生も、大切な家族もあれば自分だけの趣味もある、今の僕たちと同じひとりの大人だったのだ。完璧な人間などありえない。先生だって、いろんな葛藤や悩みを抱えていたこともあっただろうし、人に言えず辛いときもあっただろう。

今、教師を引退し、学校という舞台を降りて、静かに自分の心と体に向き合って暮らしている先生は、僕たちにとっての永遠のヒーロー「景山先生」であると同時に、等身大の人間でもあるように思えた。それは言葉を通してではなく、先生の表情や雰囲気から伝わってきた。子供は、すべてを自己中心的に考えがちだ。だから、先生もまた自分と同じひとりの人間であることをうまく想像できなかった。先生には常に全能のスーパーマンでいてほしかったのだ。景山先生という役を必死に演じてくれていた先生のことを、あるいは子供という役になりきっていた自分たちのことを、今ようやく客観的に捉え直すことができたということなのかもしれない。

先生は教師であること卒業し、僕たちは子供であることを卒業した。毎日のように熱いドラマが繰り広げられた4年2組という舞台は遠く過去のものとなり、僕たちはステージから離れて、それぞれが今という日々に向かい合わなくてはならない。先生はまだまだご健在だが、時代のバトンは僕たちに渡されている。あのときの先生と同じくらい立派な大人になって、周囲の人に何かを与えていくことができるか? そう問われているのだと考えて、僕はしっかりと生きていかなくてはならないのだ。それは大きすぎる宿題ではあるけれど。

先生からもらった辞書を車の中で眺めながら、みんなで同じ日に漢字検定を受検しようという話題で盛り上がった。立派な大人になるために、まずは漢字から勉強してみよう。先生に会えたことで、ついさっき28年ぶりに会ったメンバーもいる僕たちの、クラスメイトとしての連帯感は高まった。あらためて驚く。昨日がこんなにも近くにあるということに。

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地元の人たちが「イズミ」と呼ぶショッピングセンターに到着し、由美ちゃんの車に乗り換えて、清君たち男子チームが待つ浜田駅前のお店に向かった。清君が男子に声をかけてくれ、店の予約もしてくれていたのだ。

昨夜から懐かしすぎる再会を何度も体験してきた僕ではあったが、車を降りて駐車場からお店のところまで歩きながら、やはりまたまた緊張してしまった。女子と会うときとはまた違った緊張感がある。

坂本君、佐々木君、かぺ君、清君が待っていてくれた。清君はお店を6時から予約していてくれ、みんなずっと待っていてくれたらしいのだが、僕たちが店についたのは6時半くらいだった。エイコちゃんもマキちゃんも特に悪びれる様子もなく、ああ、そうやったっけ、ごめんごめん、と言った。このファジーな時間感覚は、浜っ子タイムと呼んでもよいものなのだろうか? 清君はじめ男子は苦笑いをしている。まあええよ、みたいなおおらかな空気が感じられて、やっぱり浜田っていいな~と思ってしまった(とういか、単にさすがの清君たちも女子パワーの前では沈黙せざるを得なかったという気も...)。かぺ君とも昨夜、代行運転で去って行くのを酩酊しながら見送って以来の再会だ。かぺ君はあんなに呑んだ後に早起きして仕事をし、今晩もまた駆けつけてくれたのだ。なんてタフな人! かぺ君と目が合う。また、眼光が鋭く光った(「なして遅れたか!」と眼が語っているような気もしたが...)。今日も相当呑みそうな勢いだ。なんというか、頼もしいぜ!

坂本君、佐々木君とは小学校1,2年のクラスで一緒だった。もう30年も前の話なのに、僕のことを覚えていてくれて、今日、忙しいお盆の最中にわざわざ来てくれたのだ。本当に嬉しい。がたいのいい地元の男子がずらっと並ぶ様はちょっと壮観で、迫力があった。やっぱり僕は都会のもやしっ子なのだろうか。ともかく僕たち女子チームもフィーリングカップル5対5みたいにして対面の列の座席に腰を下ろした。ちょっと緊張してしまって、何を話してよいのかわからなかったけど、ともかく乾杯だ! 坂本君も佐々木君も見た目はごつい立派な大人だけど、子供のころは本当に優しくて可愛い雰囲気だった。少し話しただけで、彼らが昔のままであることがよくわかった。来てくれてありがとう! 会えて本当に嬉しいよ!

タバサさんもお店に顔を出してくれて、また写真を撮ってくれた(本当にありがとね!)少し遅れて、彼女の旦那さんで、景山学級だったカリスマ美容師、コマッキーも到着した。同じくナットミもやってきた。ふたりとも昔とまったく変わっていない。むしろあまりにも変わっていなさすぎで驚いた。あらためて乾杯! コマッキーとナットミは、高校のときサッカー部でフォワード、ツートップを組んでいたらしい。ふたりとも運動神経が抜群によかったから、きっとすごくいいコンビだったに違いない。僕も高校のときはサッカー部だった。同じ時期にみんなサッカーをしてたなんて、不思議だなぁ。パラレルワールドだ。もしふたりのいるチームと試合をしてたら、きっと点取られてたと思う。相手にはしたくないタイプだもん、ふたりとも。

ナットミが、こっちゃん、オレの家でパッチンして、すっごい負けたん覚えとる? と言った。すっかり忘れていたけど、そういえばそんなこともあった気がする。こてんぱんに負けて、たぶん半泣きで家に帰った。コマッキーは家が美容院をしていたけど、自分も同じ道に進んだんだね、手に職を持って、エラいよ! マラソン、めっちゃ速かったよね、と言うと、コマッキーは、そんなの昔のことさ、みたいに不敵な表情を浮かべてにやりとした。そう、男の子たるもの、昔のことを妙に懐かしがってセンチメンタルになったりはしない。そもそも、浜田で大人になったふたりにとっては、過去は説得力と必然性を持って連綿と今とつながっているものなのであり、決してミステリアスなものではないのだろう。僕みたいに断絶され、凍らされた過去を持つ者の方が珍しいのだ。とはいえ、やっぱりふたりも僕という異次元からの珍客を前にして、少々戸惑っていたようではあり、そしてまた僕と同じように少しだけセンチメンタルに過去を思い出してくれていたようではあった。それが嬉しかった。僕はふたりがまったく昔と変わっていないように思えて驚いたのだけど、ふたりも僕のことを昔と変わってないと言った。自分ではよくわからないけど、やっぱりそんなものなのかもしれない。

宴席は続き、あちこちで話が盛り上がってきた。この日の僕はかなり特別に扱ってもらってはいたけど、僕以外のみんなもかなり久しぶりに会う組み合わせが多いようだ。中学や高校を出て以来の懐かしい再会、普通の同窓会という趣もある。僕は小学校4年で浜田の歴史がストップしているけど、みんなは当然その後、ここで小学5年生になり、中学生になり、高校生になって、大人になった。だからみんなの口からはいろんな時代の話が出てくる。僕の知らないエピソードが山ほどあり、知らない人たちがたくさん登場する。僕にはわからない話も多いけど、面白く聞くことができた。あの時代、日本全国で誰もが経験していたような、同じ青春がここにもあったのだと思う。ともかく、そんな「普通の」の同窓会に、僕も一員として参加させてもらえた。それが何より嬉しかった。100%の浜っ子じゃないけど、5年分、僕も浜っ子なんだ。ハーフとまではいかないけど、クォーターは浜田の血が流れているんだよ僕にも。

かぺ君が赤ワインを美味しそうに呑んでいる。かなりのハイペースだ。かぺ君はにむしの話題に夢中になっている。にむしやりたいよね、明日エイコちゃんの家でバーベキューやるだろう~、そのときに浜商のグランドでにむしやろうよ! と熱く語っている。そうやね、にむしやろう、何人かが賛同した。僕もかなり本気で、伝説の遊び「にむし」を実現させたいと思った。かぺ君の眼がまた鋭利な光を放った。この男、本気(ルビ:マジ)だ!

美味しい料理とお酒にしたたかに酔った。懐かしさとアルコールで、ああ、やっぱり今夜も何がなんだかわからない。ともかくあっという間に時間になり、二次会の会場に向けて僕たちは移動を始めたのだった。

(続く)

始めから読みたいと思ってくださった方は、どうぞこちら(その1)からご覧ください~!



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