イワシの翻訳LOVE

はしくれトランスレータ「イワシ」が、翻訳への愛をつれづれなるままに記します。

パラレルな世界への超訳

2008年03月09日 23時19分56秒 | Weblog
昨年来長々とやってきた仕事にようやく一区切りがつき、夜の公園まで走りに行った。まだまだやるべき作業は残っているのだけど、かなりの解放感がある。フルマラソン並みにきつかった。でも、本当にいい経験になった。最後までがんばろう。そして来週の今日、本物のマラソンだ。足が折れないように、歩いてでもいい、なんとか自力でゴールまでたどり着きたい。あとしばらくは少し負荷を強めにした練習をして、最後の2、3日は体を休ませるつもり。といいつつ、フルマラソン並みとはいかないまでも、それに近い負荷を自分に与えるつもりがとうとう与えずじまいでここまで来てしまった。一抹の不安が残る。

まあいい。マラソン速く走るために生きてるわけじゃないんだし。楽しく、気持ちよく、健康であるためにやってることなんだから、無理する必要なんてない。ともかくそんなこんなで夜の公園を二時間ほどブラブラ走ったり歩いたりする。さすがに公園はほとんど人がいない。ランナーがポロポロと、あとは何やっているのかわからないけど、若者がチラホラ。ちなみに、公園といっても小金井公園という都内でも最大規模の公園なので、かなり広いところにいると思っていただきたい。ほとんど森に近い。とても東京都内だとは思えない荒涼感。セントラルパーク並に広いのだ(調べてはいないが)。

いつも腕立てをしている、人があまりこないスペースがあるのだけど、そこにいって思わず寝転んでみた。星を見る。地面に寝て星を眺めるなんて久しぶりだ(そういえば最近、酔っ払って転んで星は見たけど)。星はキラキラと光っている。じ~っと見ていると、星はなんだかゆっくり動いているようにも思える。飛行機がゆっくりと夜空を横切っていく。古代の人は、毎晩こうやって星を眺めていたのかと思う。現代人みたにあくせくすることなく、明日のことを考えることもなく、こうやってただ星を眺めていたのだろうか。もしそうだとしたら、彼らはきっと僕らの何倍も長い時間を生きていたに違いない。

目標や夢や未来や、そんななんやかんやに向かって今日を生きることを決して否定はしない。むしろ、そんな生き方こそ、この時代に生きている者の一人として必要なものじゃないかと思っている。特に自分にとっては。そして、今日何かから解放されたとしても、もうすでに新しい何かに向かってあくせくし始めている。翻訳Loveの悲しい性なのだ。だけど、たまには時間を忘れて、今を忘れて、ただそこに在るだけのような
気持ちを味わうことをしたいものだ。そうしなければ、消耗してしまいそうだ。どこかで、無理がきてしまいそうだ。iPodで英語のラジオ番組を聴こうと思っていたけど、なんだかそんな気にもなれず、ポケットに入れたまま、静かな公園のなかをひた走る。

猫が一匹、スタスタスタと前を通りすぎていく。良く見ると、小さなゴムボールがある。誰かが忘れていったのだろう。小学生のときドッジボールで使っていたようなサイズ。誰もいないので、おもむろにリフティングをしてみる。フェイントの練習をしてみる。サッカーの試合ではあまり活躍できなかったのだけど、リフティングは結構上手かったのだ。まあ、今の子供はものすごくリフティング上手だから、それに比べると大したテクニックはないのだけど。


リフティング夜の公園解放区


夜の小金井公園は照明がいい感じに灯っていて、とてもロマンチックだし、エキゾチックなのだ。元気が少し、戻ってきた。


小金井小金井小金井小金井小金井小金井


『社会起業家』斉藤槙
『ミカ×ミカ』伊藤たかみ
『International Jobs』Eric Kocher, Nina Segal
『不細工な友情』光浦靖子×大久保佳代子
『パラレルな世界への跳躍』太田光

金曜日買ったのだけど、書くの忘れていたので。
『社会起業家』も『パラレルな世界への跳躍』もずっと読みたかった本。

2008年03月09日 01時43分26秒 | ちょっとオモロイ
貶されても無視されても幸せ

『私の本棚』というpodcastのコンテンツがある。日高吾郎さんをパーソナリティーにしたラジオ番組内の同名の書評コーナーを収録したものだ。僕はこの番組がとても好きで、ここ一年くらい毎週欠かさず聞いている。内容は、毎回5冊の新刊書の書評を大の読書家である日高さんが行うというもの。本好きとしては、これは聞き逃すわけにはいかない。で、一度でも聞いたらわかると思うのだが、彼は毒舌である。それも相当の毒舌である。だから、かなり聞く人を選ぶものなのかもしれないと思ったりする。が、僕はあまり気にならない。確かに「何もそこまでこき下ろさなくても」と思うこともしばしばある。でも、その過剰さこそが彼の真骨頂でもあり、存在意義なのだと思う(おそらく、もし自分が書いた本があったとして、それについてあそこまでこき下ろされたら、こんな悠長なことはいっていられないとは思うが)。

こんな毒舌はこのご時勢、あまり公共の電波で聴けるものではない。あの物言いは、もはや我々の世代には失われてしまった貴重なものだと思う。それに、何より彼が本を愛する本当の読書人であることがわかるから、僕もシリアスリーダーとは言えない「なんちゃってリーダー」ではあるのだけど、同じリーダーとして共感できる部分が多いのである。還暦を過ぎた彼はだんだんと、「心の欲する所に従って、矩を踰えず」の領域に近づきつつあるのかという気もする(むしろますます「矩を踰えている」のかもしれないが、まあそれはそれで彼の個性なのだ)。ともあれ、そんなわけで昨日いつものように通勤途中にこの番組のポッドキャストを聞いていたのだが、


キタ━━━━( ゜∀゜)━━━━ !!!!!


と思わずびっくりしてしまった。そう、おもむろに、わが師匠加賀山卓朗さんの訳書で昨年末に刊行された『ドリームガール』(ロバート・B・パーカー著)の紹介が始まってしまったではないか。ハラハラハラハラこの一冊は昨年の加賀山さんの授業でリーディングの課題にもなったハラハラハラハラ思い出の一冊なのだがハラハラハラハラいったい何を言われるのかハラハラハラハラしていたらなんと、日高先生はこの本を絶賛!


絶賛キタ━━━(゜∀゜)━(∀゜ )━(゜  )━(  )━(  ゜)━( ゜∀)━(゜∀゜)━━━!!!!


電車の中で思わずガッツポーズ。採点はほぼ最高点の4.5。「パーカーの過去の作品を読んでいる人にとっては4.6だろう」という最高の評価(よくわからないけど5点満点?なのだけどいつも4.6が日高さん的には最高なのだ)だった。う~ん、これは凄い。快挙です。もう、訳者冥利につきます。って僕が訳したわけじゃないのですが(^^; ともかく嬉しい。本というものは、やはりいい仕事をすれば読書好きな人にはきちんと届くものなのだなあ~ということがしみじみと伝わってきた。いい本ができる。それが全国の書店に並ぶ。全国の読書家はそれを手に取ってくれる。ワン、ツー、スリー。なんというか、It's a small worldといいますか、いい気分。あの日高さんが目を細めて(見えてはいないが)絶賛。パーカーの原作がよかったのはもちろん、加賀山さんの訳文が素晴らしかったこともかなりの要因を占めているに違いない。

加賀山さんと僕では月とすっぽんなので、先般の話とはまったく別の次元の語として続けたいのだけど、翻訳をしていると、このように褒められるときもあるし、貶されるときもあるし、無視されるときもある。いろんな評価は、忘れたころにやってくる。天才も天災も、ひょっとしたら転載(誰かが引用してくれる)も忘れたころにやってくる。当たり前だけど、褒められたら嬉しいし、貶されたら悔しい。無視されたら虚しい。でも、心の動きは、実はそんな単純なものではない。

褒められたら自信が膨らむと同時に、そんなに褒め奉らないでくれ、とも思う(そんなことはめったにないが)。貶されたら腹が立つ反面、ありがたい叱咤激励の言葉をもらったという気もする。正直、痛いとこ突かれたと思うことが多い。むしろ、叩けるだけ叩いてくれ、とも思う。その分、足りないところが見えてくるのだから。無視されたら――文字通り翻訳者としての自分の存在をまったく無視される場合と、訳者だとか訳文の質だとかそういうことは透過的に扱われて、あくまで訳文が運んでいる意味内容にしか着目されないとき――、寂しい気持ちもするけど、それが世間から見た僕であり、あるいは翻訳者一般であり、ということが等身大サイズで伝わってきて、それはそれでささやかな、言って見れば黒子的な悦びを感じたりもする。つまり、どう転んだとしても、誰かから何らかの言葉をもらうことは、嬉しい言葉でもあり、バネとして受け止める言葉にもなるのだ。あるいはまったく無視されたとしても、それでも翻訳者としてこの世に存在させてもらっているということは、それだけで嬉しいことなのだ。

褒められても貶されても無視されてもいい 君がそこにいてくれるだけで

やればやるほどに自分の力不足ばかりを実感する昨今の僕だ。たとえ批判されたとしてもその声ほどありがたいものはないと思う。無視されてもいい。誰かから仕事を依頼され、誰かが訳文を読んでくれるのであれば、こんなにありがたいことはない。ともかく、こう考えている。仕事を依頼してくれる人、訳文を読んでくれる人が一人もいなくなるまで、あるいは自分がこの世からいなくなるまで、翻訳という仕事に携わらせてもらえ続けるよう、祈り、努力するまでだ、と。皆さん、本当にありがとうございます。

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http://www.stv.ne.jp/radio/goro/book/index.html?date=2008/03/01