Toe By Toeは、イギリスのKeda Cowlingによって開発された
読み指導(特別支援)に使われている教材で、
25年以上の歴史があります。
この本の他にも、読み困難児童のための問題集や教材は多く出版されていますが
Toe by Toeは、非常に指導がシンプルでわかりやすいです。
まず面白いな、と思ったのは”目次がない”こと!
You must complete every exercise in this book. You must start from the first exercise.
と大きく赤字で書かれている次のページには、
「とにかくこの本の順序で進めればいいのだ!」
というなんとも強いメッセージがあり、
「内容リストがあれば、リーディングコーチが教材を順序通りにしないで飛ばそうとするかもしれないので」とまで書かれていました。
指導の留意点も別冊などではなく、
各エクササイズの隣のページに書かれています。
「先生のマニュアルはないのですか」というQ&Aで、
「教員はマニュアルを毎回参照するような時間がありませんから、隣ページにつけました」
だそうです。
作者の「読者の勝手にはさせないわよ~」という気迫が感じられます。
ですが現地で定評ある、特別支援教員の血と汗と涙の結晶ですから、
ぜひ試してみよう!と、昨年から1名を対象に試験的に取り組んでいます。
実際に効果が出ているので、少しご紹介します。
対象児童は昨年小学4年生当時、アルファベットの音の知識はなく、
書くのも苦手でした。
読みには問題はないが(読み飛ばし、読み間違いはあり)
主に書字に困難が見られるタイプのLDで、
特に細部への注意が弱い、文字から音へのつながりが弱い、
という特徴がありました。
初年は、アルファベットの音を練習し、最初の3エクササイズのみで終了しました。
アルファベットの音の習得に時間がかかり、
終了までには約1ヶ月でした。
一年後の5年生時にレッスンを再開しました。
それまでの1年間は、
Montessoriのフォニックスの音の足し算アプリでたまに遊ぶくらいで
特に体系的に取り組んだものはありませんでした。
まずアルファベットの音の定着から確認したところ、
ほぼ正しい音で読めましたので、
次のエクササイズページに進みました。
エクササイズで読む文字はほとんどが無意味語です。
動画(1)では、sith, esなどの無意味語を読んでいるところです。
一文字の音は正しくても、
VC、CVCの足し算となると少し忘れているところもありました。
少なくとも同じエクササイズを3回繰り返すことという指示がありますので
焦らずに、一回15分~20分程度かけて進めています。
英語の音節の基本は、V(母音)を中心としたCVC構造ですが、
この本では、音の足し算(C+V+Cで読ませる)をするときに、
「前から足さないこと」という注意書きがありました。
たとえば、radであれば、
r + aと前から読んでいくと、「ra・d」という音になります。
そこで、妙に、ra と dの間に空白ができたり、
アクセントが強く言えなかったりします。
「英語っぽくない」という感じ・・・。
ですが、
VCをまず足して、その次に語頭のCを足すと、
ad + r で、生徒は、「ad・・rad」ととてもきれいにCVC音節を発音できます。
これはonsetとrimeを意識する練習とも言えます。
実際に練習してみて、確かに発音がきれいなだけでなく、”確実に”読めます。
(前から足すよりも、間違いが少ないです)
動画(1)は、CVCは、先にVCを読んでCを足す様子が見られます。
(対象児童の”O”の発音は定着が不完全です)
*動画(1)
ToebyToe2013 11 12 p15
動画(2)は、pbdoといった、形状の似た文字を読む練習です。
動画の最後の方で、「自分が読める一番早いスピードで読んでみて」
と指示を出されて、
生徒が「今のが一番早いんだけど」というように答えています。
見て頂くと、生徒が文字を視認してから音声化するまでに
少し時間がかかっていることがわかると思います。
このスピードが、通常の定型発達の児童ですとスムーズに上がっていきますが、
なかなか文字から音への音声化がスムーズにいかないのが
特にデコーディングに弱さを抱えたLD児童の特徴でもあります。
ToebyToe 2013 11 11 p25
類似のエクササイズが5ページあり、
それが終わると、文章を読む課題があります。
例えば、
Pick up the egg and put it in here and not in the pan.
If he has a fox for a pet he will have to put the hen in the hut.
というような、ちゃんとした文章なのですが、
対象児童は本当にデコーディングの練習しかしていないので
残念ながら意味がわからないいまま読んでいます。
(ですが、ほぼ完璧に読めるんです・・)
ですがこれが中学生、高校性ですと
ある程度単語のインプットもありますから、
自信を持って“読める”と思いませんか。
読みの最初の段階は、デコーディングです。
文字と音の対応ルールを学び、記号と音声を結びつけて意味と関連させ、
読解へと発展させていきます。
このデコーディングスキルがないと、
初見の単語を読む事ができないだけではなく、
単語を書くこと(スペリング)にも大きな問題を抱えます。
フォニックスはデコーディングを助けますが、
日本に輸入されているフォニックスだけがフォニックスではありません。
Toe by Toeは、困難を抱える子のための読み指導法ですし、
このほかにも、phono-graphixといった、
視覚的にも、よりわかりやすい読み指導法もあります。
まずは、どんな指導法があるのか知ること、
そして、やってみることが大切ではないかと思っています。
実際に生徒を対象に少しでも指導をすると、
フォニックスをいきなりやっても、
そんな簡単には”読めない”ことにすぐ気づきます。
また、自分がフォニックスで、”何を指導しているのか”を意識していなければ、
確実な読みの力につなげることは難しいと思います。
その前段階、そして同時に育てて行かなくてはいけない音韻の気づきがあります。
Toe by Toeは楽しいですよ。
機械的に見えますが、なぜか楽しいです。
それは、確実に”読める”ようになるのが見えるからかもしれません。
特にこれで実践報告をどこかに書く予定はないので、
どなたかの参考になればと、ご紹介させていただきました。
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