秘匿の書類 徴兵克明に
元兵事係西邑さん 「ようやく戦後が来た」
終戦時に旧日本軍による焼却命令で、全国の自治体で処分された動員名簿などの徴兵関連資料約1000点が、長浜市内に残っていることがわかりました。旧東浅井郡大郷(おおざと)村役場で、兵役に関する事務手続きなどを担当していた西邑(にしむら)仁平さん(102)=同市新居町=が、自宅物置に保管していました。西邑さんは「戦争がいかに愚かな行為かを知ってもらう証しになればと思い、書類を公開することにした。これでようやく私にも戦後が来た気がする」と話しています。9月15日から、同市難波町のびわ文化学習センターで約50点を展示します。
保管していた資料のうち、召集令状の交付などを記した明治―昭和初期の「動員手簿」や、満20歳の男子が徴兵検査を受けた記録をまとめた「壮丁連名簿」、招集を免除された人たちのリスト「在郷軍人除籍簿」など約60点が、焼却対象でした。
西邑さんが初めて動員命令を受けた1932年2月3日の動員手簿には、「午前二時二十分召集令状受領」「午前三時十分使者三名出発セシム」「午前三時四十分使者全部帰着ス」など、業務内容を詳細に記載。壮丁連名簿は6冊残っており、徴兵検査を受けた一人ひとりの身長、体重や病歴などを記しています。
西邑さんは1930年から終戦まで、同村の兵事係に従事。召集令状の受理や伝達、入隊兵への慰問や戦死者の遺骨の受理などを行っていました。「戦死者の訃報(ふほう)を遺族に伝えるのが一番つらい仕事だった」と振り返っています。
終戦時、軍関連の書類はすべて焼却処分を命じられましたが、西邑さんは「犠牲になった村民や遺族の無念さを思うと、やりきれない」と保存を決意。深夜に書類をリヤカーに乗せ、役場と自宅を何度も往復して持ち帰りました。「家族に迷惑がかかってはいけない」と、23年前に亡くなった妻にも内緒にしていたとのことです。
西邑さんは「資料を通して、戦争の悲惨さを伝えたい。正しい戦争などないことを、若い世代に知ってほしい」としています。
戦時下の徴兵制度に詳しい東海大文学部の山本和重教授は「焼却命令が出されていた兵事書類を個人が秘匿していたのは、全国的にも極めて珍しい。地域でどのように人々が動員されていったかを知る上で貴重な資料」と話しています。
10月14日までで無料。火曜、祝日休館。徴兵関連書類を含む150点は、9日まで同市大依町の浅井歴史民俗資料館で展示されました。
(9月15日付け読売新聞が報道)
http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/shiga/news001.htm